感染拡大で救急医療ひっ迫 「治療タイミング逃がしかねない」

新型コロナウイルスの感染拡大で救急医療がひっ迫する中、緊急に治療が必要な患者がすぐに治療を受けられないケースが相次いでいます。心臓などの治療を専門に行っている東京都内の病院では、遠方から患者が運び込まれるケースも目立っていて「このままでは治療のタイミングを逃してしまいかねない」としています。

総務省消防庁は、患者の搬送先が決まるまでに病院への照会が4回以上あったケースなどを「搬送が困難な事例」としています。

東京 府中市で心臓や大動脈などの治療を専門に行う榊原記念病院では、こうした患者が、新型コロナウイルスの感染が拡大した先月以降、相次いで運び込まれています。

先月24日には、発症から2時間以内にカテーテル治療を行えば救命率が上がるとされる冬場に多い急性心筋梗塞の患者が、およそ20キロ離れた東京 町田市から1時間45分かけて搬送され、どうにか治療が間に合ったということです。

先月22日には、大たい部の動脈が急に閉塞(へいそく)して数時間で足がえ死するおそれがある患者が、7か所の病院に受け入れを断られて、およそ70キロ離れた山梨県から2時間近くかけて運び込まれたということです。

今月に入ってからは、同様に搬送先を見つけるのが困難な患者が、連日、複数人運び込まれるようになり、心不全と肺炎を併発している患者の受け入れ先が見つからずに救急隊が48回電話をかけて断られ、この病院にたどりついたケースもあったということです。

入院患者の受け入れができる病床の数は、医療スタッフの配置上、最大で260床なのに対し、14日夕方の時点ですでに95%(247人)が埋まっているということで、このままでは受け入れを断らなくてはならなくなるおそれもあるとしています。

磯部光章院長は「去年の1月には急性心筋梗塞の患者が搬送されてくるまでに3時間以上かかってしまい、救命はできたものの、カテーテル治療のタイミングを逃して回復が十分でなかったケースもあった。これまでの第5波などに比べて救急医療が桁違いにひっ迫していると感じている。このままでは治療のタイミングを逃してしまうケースも出かねない」と危機感を募らせています。

そのうえで、「われわれも全力で対応をするが、病院のネットワークの中で病院ごとに機能の分担を考えないと状況は改善しないと思う。また、搬送に時間がかかる今の状況なので、心疾患がある方はコロナ禍でも受診を控えず、日頃から注意して症状があればすぐに医療機関を受診してほしい」と呼びかけています。

「搬送困難事例」は5週連続過去最多

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、救急患者の受け入れ先がすぐに決まらない「搬送が困難な事例」は5700件余りと5週連続で過去最多を更新し、依然として増加傾向が続いています。

総務省消防庁は患者の搬送先が決まるまでに病院への照会が4回以上あったケースなどを「搬送が困難な事例」として、県庁所在地の消防本部など全国の52の消防機関の報告をもとに毎週、取りまとめています。

13日までの1週間では5740件で、過去最多となった前の週の5469件からさらに増加しました。

地域別では、東京が2662件、大阪市が588件、横浜市が409件、名古屋市が207件、札幌市が166件、福岡市が109件などと多くの場所で前の週より多く、増加傾向に歯止めがかかっていません。
新型コロナウイルスの感染拡大前に当たるおととしの同じ時期に比べると、名古屋市が19.7倍、福岡市が12.63倍、横浜市が4.84倍、東京が4.44倍、大阪市が2.63倍、札幌市が2.13倍と各地で大幅に増えています。

新型コロナウイルスの感染が疑われるケースはこれまでで最も多い2067件で全体の36%となっています。

新型コロナウイルスの感染の疑いのないケースも3673件と依然として多く、全体の64%を占めています。

総務省消防庁は「依然として増加傾向で、厳しい状況が続いている。今後の見通しも立たず、危機感を持って今後の推移を注視している」と話しています。