「日本が大好きだから」留学望む外国人にホンネを聞いてみた

「日本が大好きだから」留学望む外国人にホンネを聞いてみた
「日本の“特撮”の魅力を中南米に広めたい」

その思いから、日本への留学を心待ちにしているペルー人の女性がいます。
オミクロン株の感染拡大による水際対策で入国できずにいますが、夢をかなえたいと今も待機を続けています。

彼女のように、日本への留学を希望しているものの入国できずにいる外国人は14万人余り。彼ら彼女らの気持ちを支えているものは何なのか。取材を進めて見えてきたのは「日本への愛」でした。

日本への留学を目指す外国の人たちに、話を聞いてみました。
(国際部 記者 近藤由香利)

日本の“特撮”が大好き!

「ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーなどの“特撮”が大好きで、日本で撮影技術を学びたいと思って、留学を目指しています」

こう話すのは、ペルー出身でアメリカ南部のフロリダ州に住む、リセット・ポンセさん(31)です。

ポンセさんが生まれ育ったペルーでは、1970年代から90年代にかけて、日本のアニメなどの番組が数多く放送されていたということで、ポンセさんも幼い頃からたくさんのアニメなどを見て育ちました。

その中でも夢中になったのが、“特撮”でした。

画面の中で暴れ回る怪獣たち。
それを豪快に倒すヒーロー。
ミニチュア撮影やかっこいいコスチューム。
“特撮”のすべてにとりこになりました。

“特撮”の魅力を中南米に広げたい

ポンセさんの“特撮”への思いはそれだけにとどまりませんでした。

21歳のとき、中南米の人たち向けにスペイン語で“特撮”の情報を発信するファンクラブを立ち上げます。

その名も「Tokusen(トクセン)」。
“特撮”や“戦隊ヒーロー”の魅力を1人でも多くの人たちに知ってもらいたいという思いからでした。

ポンセさんはファンクラブの仲間たちと、ペルー、エクアドル、アメリカで開かれたアニメイベントなどでの“戦隊ヒーロー”のコスプレショーや、日本の俳優を招いたオンラインイベントを開催。

10年前に立ち上げた当初、20人ほどだったファンクラブのフォロワーは、現在、中南米を中心におよそ2万人にも上っているといいます。

自分で“特撮”を撮りたい

こうした活動の中で“特撮”への思いをさらに強くしていったポンセさんは、いつしか、テレビ局に就職して、母国や中南米で放送される特撮番組を作ることが、夢になっていきました。
ポンセさん
「日本では、“戦隊ヒーロー”の番組が毎週日曜に放送されていて、親子で一緒に見ているんだ」
母国ペルーには、そうした番組がなかったことから、親子が一緒に楽しめる番組を作りたいという思いもありました。

ポンセさんは、将来的には日本で“特撮”の技術を学ぶため、まずはテレビ局での経験を積もうと、フロリダ州マイアミのテレビ局でインターンシップをスタート。去年7月に、日本に行く予定でした。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、外国人の新規入国の制限が続く日本。ポンセさんは日本に入国できずにいます。

日本に行きたい、でも

日本に行くためインターンシップを辞めたポンセさんは、日本への入国を待つ間の収入を得ようとフルタイムの仕事を探してみたこともあります。

しかし、フルタイムの仕事では、6か月以上継続して働くことを求められることが多く、ポンセさんは日本にいつでも行けるようにとフルタイムの仕事に就かずにいます。

ただ、日本に留学できない期間が長引くにつれ、将来の展望を描けなくなりつつあるといいます。
ポンセさん
「特撮の技術は、日本にしかないものだと思います。その技術を学びたいと、今でも思っています。ただ、いつ日本に行けるか分からない中、アメリカのテレビ局に就職することも考えています。もし採用されたら日本への留学は諦めると思います」

大リーガー大谷選手が大好き

取材を続けていると、オンラインで日本の大学の授業を受けていたというアメリカ人の男性にも話を聞くことができました。
男性の名前は、スコット・シュラメルさん(25)。
アメリカのミネソタ大学の4年生で経済学を学んでいます。

日本に興味を持つきっかけになったのは、大リーグ、エンジェルスの大谷翔平選手でした。小さな頃から野球を見るのが好きだったシュラメルさん。
2018年、大谷選手が投打の二刀流で大リーグに挑戦した時、ちょうど大学に入学するタイミングでした。

大谷選手に魅了され、それまでよく知らなかった日本のことを少しでも知りたいと、大学の授業で日本語を学び始めました。

その中で、徐々に日本のプロ野球にも関心を持つようになり、将来は大リーグで働き、大谷選手のような日本人選手をスカウトしたいという思いを強くしていきました。

プロ野球・広島カープにインターンしたい

シュラメルさん
「日本の野球を研究しはじめたころは、広島カープの小園海斗選手や鈴木誠也選手のプレーを見るのが好きでしたね。僕が大好きな大リーグのミネソタ・ツインズに所属する前田健太投手もカープで活躍してましたよね」
日本の選手の名前がよどみなく出てくるシュラメルさん。
広島カープにインターンシップをしてみたいと、日本に留学することを決めます。
しかし、予定していた広島県内の大学への交換留学は、新型コロナの影響で2020年と2021年の二度とも中止。

それでも日本への留学を諦めきれなかったシュラメルさんは、交換留学生を募集していた東京の大学に、ことし春からの留学を目指してオンラインで授業を受けながら準備を進めていました。

3回目の交換留学中止

しかし去年10月、シュラメルさんが通うミネソタ大学の交換留学の担当者から1通のメールが送られてきます。
「2022年春学期の日本での交換留学をすべてキャンセルすることになりました」
シュラメルさんは頭が真っ白になり、すぐに担当者に電話をしました。
「交換留学をキャンセルしないでほしい」、「状況が変わるかもしれないから、もう少しだけ待ってほしい」とお願いして、学校側も待つことを了承してくれました。

そして11月上旬、日本政府は感染が落ち着いてきたことを受けて、留学生などの入国を再開すると発表。

「ようやく日本に行ける」と一度は安どしたシュラメルさんでしたが、その後、日本のビザの申請は段階的に行われることが判明。
ことし春の入学にビザの申請が間に合わないことがわかり、大学側からも、日本への留学を諦めるよう勧められました。

シュラメルさんは、卒業後の進路についてどうするか悩んでいるといいます。
シュラメルさん
「このままでは日本のプロ野球のチームでインターン先を探すのは難しいと考えています。大学を卒業してから日本に行くのか、それともアメリカで野球選手のスカウトの仕事を探すのか、まだわかりません」

外国人がキャリアを実現できるように

今の日本の現状について、留学生政策に詳しい一橋大学の太田浩教授は、次のように話します。
一橋大学 太田浩教授
「この状況は日本の国益を損なっています。留学生は勉強だけではなくて、その後の人生を見据えて留学先を選びます。中には、日本にそのまま残って就職したり、定住したりする人もいるので、彼ら彼女らは日本の将来における『人材の卵』なんです。今は、この人たちを受け入れる機会を失っています。日本は、外国の若い人たちが日本で勉強して、その後のキャリアを実現できるように応える必要があると思います」
日本政府は、オミクロン株の水際対策として、外国人の新規入国を停止している措置をめぐり、公益性や緊急性が高いと判断した留学生については、1月下旬から例外的に入国を認めています。

また政府は、今後、一日3500人程度に設定している入国者数の上限を引き上げることや、入国後に自宅で待機したり、宿泊施設にとどまってもらったりする日数の短縮も含め、検討を急ぐとしています。
一方で、出入国在留管理庁によりますと、日本への留学を希望しているものの入国できずにいる外国人の数は、2021年10月1日の時点で14万7800人に上るということです。

国内の感染対策にも気を配りながら、いかに私たちと一緒に将来日本で暮らすかもしれない留学生たちを受け入れていくことができるのか。引き続き取材を進めていきたいと思います。
国際部記者
近藤由香利
2009年入局
盛岡局、大阪局、国際放送局を経て、現職
コロナ禍の外国人留学生などを取材