【データで見る】GDP 回復遅れ 感染対策と経済活動の両立は?

去年10月から12月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた実質の伸び率が年率に換算してプラス5.4%と、2期ぶりのプラスになりました。日本のGDPの伸び率は、新型コロナウイルスの感染に左右される状況が続き、回復の遅れにつながっています。

この1年余りを振り返ると、2020年10月から12月までのGDPは、前の3か月に比べた伸び率が物価の変動を除いた実質の年率換算でプラス7.5%でした。

ところが、年が明けてからの3か月は、感染の急拡大で緊急事態宣言が出された影響で、伸び率はマイナスに転じます。(実質年率=ー2.1%)

次の3か月の去年4月から6月はプラスとなったものの(実質年率=+2.4%)、7月から9月まではデルタ株の感染拡大に伴う緊急事態宣言が響いて個人消費が落ち込み、マイナス2.7%となりました。

まさに感染の状況に左右される形で、プラスとマイナスを繰り返してきたことが分かります。
15日発表された去年10月から12月までのGDPはプラス5.4%となりました。GDPの規模では541兆円となり、感染拡大直前の(2019年10-12月期)542兆円とほぼ同水準まで回復しました。ただ、コロナ前のピークである(2019年7-9月期)557兆円にはまだ届いていません。

さらに先月以降、オミクロン株の感染が全国で急拡大する中、3月までの3か月間のGDPの伸び率は大幅に鈍化するという見方も出ていて、医療体制の充実など、感染対策と経済活動の両立をいかに図っていくかが課題となっています。

消費回復も先行きは心配… データからみると

15日発表されるGDPで、去年10月から12月までの3か月間に国内でどのくらい消費や生産が行われ、日本経済がどの程度、成長したかが明らかになります。

データでみると、この時期は緊急事態宣言が全面的に解除され、新型コロナの感染状況も比較的落ち着いていたことから、GDPの半分以上を占める個人消費が回復していることが分かります。一方、先行きについては、心配なデータもあります。

クレジットカード支出に基づく消費動向は?

こちらのグラフはクレジットカードの利用情報をもとに消費の動向をみた調査の結果です。
去年10月からの3か月間は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全面的に解除され、全国の一日の感染者数が100人を下回るなど感染状況が比較的落ち着いていた時期でした。

このため、前の3か月間と比べ交通や旅行、外食を含む「サービス消費」が回復していることが分かります。

また、巣ごもり需要が一巡したあともネット通販を含む「モノ消費」は堅調に推移し、消費全体は3か月連続で感染拡大前の水準を上回って夏までの低迷から持ち直しました。

消費全体の回復につながった「サービス消費」の内訳を詳しく見ていきます。

外食の動向は?

まず、外食です。

感染が急拡大した夏場は落ち込んでいましたが、緊急事態宣言が解除された去年10月に回復し、12月には前の年を上回る売り上げを記録しました。

宿泊者数の動向は?

記録的な低水準が続いてきた旅行も回復しました。

国内のホテルや旅館の宿泊者数は、去年9月は感染拡大前の半分以下に落ち込んでいましたが、10月以降、右肩上がりとなり、12月には日本人の宿泊者数が感染拡大前を上回りました。

消費者心理とGDPの相関関係は?

個人消費が持ち直したことから民間の予測では、今回のGDPの実質の伸び率が2期ぶりのプラスとなると見込まれていますが、先行きについては心配なデータもあります。

こちらのグラフは、消費者の買い物などへの意欲を示す「消費者態度指数」とGDPの推移を重ねたものです。
消費者の心理を表すこの指数が前の月と比べて悪化すると、その後に発表されるGDPの伸び率が後を追うようにマイナスとなる傾向があることが分かります。

ことし1月の消費者態度指数は、新型コロナの感染再拡大や暮らしに身近なガソリンや食品の値上げが相次いだことから前の月を2.4ポイント下回る大幅な悪化となりました。

このため内閣府は消費者心理の基調判断を「足踏みがみられる」と8か月ぶりに下方修正していて、感染再拡大と物価の上昇による個人消費への影響が懸念されます。

働く人たちの景気の実感は?

さらに、1月は、働く人たちの景気の実感も大幅に悪化しています。
2000人余りの働く人を対象に景気の実感を聞く「景気ウォッチャー調査」では、1月の景気の現状を示す指数が前の月を大きく下回り5か月ぶりに悪化しました。その下落幅は東日本大震災があった2011年3月に次ぐ過去2番目の大きさです。

GDP全体の半分以上を占める個人消費は新型コロナの感染状況に左右され続けていて、今の感染状況を反映したことし1月から3月のGDPは再び減速することが懸念されています。

専門家「経済活動規制強く 日本だけなかなか回復しない状況」

日本経済の今後の見通しについて、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「今回のGDPは去年夏のデルタ株による感染拡大と年明けからのオミクロン株の流行の端境期にあたり、経済が持ち直したいちばんいい時期を表したものだ。ただ、問題は1月から3月のGDPがどうなるかで、感染状況が悪化して人流が減っている今の状況を考えれば成長が再び鈍化することは避けられないと思う。基本的には小幅なプラス成長だと思っているが、場合によってはマイナス成長の可能性も排除できない」と話しています。

経済成長が感染の状況に左右され続ける現状については、「四半期に一度コロナがやってきて持ち直していた景気が再び落ち込むということが続くと、経済成長への期待が鈍り、企業は、従業員をこのまま抱えていいのか考えざるを得なくなる。アメリカや中国、ヨーロッパのGDPはすでにコロナ前の水準に戻っており、日本だけがなかなか回復しない状況だ。日本は海外に比べてコロナ禍での経済活動に対する規制が強いことが影響している」と指摘しています。

そのうえで、「経済活動が増えれば感染者が増えるのは事実で高齢者の多い日本ではコロナによる健康損失を恐れる人が多く、政府は非常に慎重な対応を取っている。コロナに対する日本の医療のぜい弱性が問題であり、政府が強いリーダーシップを発揮し、医療体制を強化することで経済を回していくような施策が必要だ」と指摘しています。

業務用野菜卸売会社 外食産業に進出 売り上げ安定図る

新型コロナの感染状況に売り上げが大きく左右される状態が続く飲食関連業界。新たな業態に挑戦し、売り上げを安定させようという企業も出ています。

東京 大田区に本社がある業務用の野菜の卸売会社は、首都圏の居酒屋などの飲食店に野菜を卸しています。
去年10月以降、緊急事態宣言が全面的に解除され、取引先の飲食店の客足が戻ったことで、この会社の売り上げもコロナ前の9割程度までいったん回復しました。

ところが、先月からオミクロン株による感染が再拡大したことで、状況は一変。飲食店の休業や時短営業が再び相次ぎ、売り上げはコロナ前の半分以下に急激に落ち込んだのです。このため、現在は倉庫に保管する野菜の在庫も通常の半分以下に抑えているといいます。

会社の担当者は、「去年12月の後半は今の2倍くらいの在庫がありましたが、ことしに入って急に出荷量が落ちました。これまでも緊急事態宣言などで野菜が一時的に倉庫に滞留してしまうことがありましたが、滞留が続けば、廃棄につながる可能性があります。生産者が一生懸命作ってくれた野菜を飲食店に届けられないのは、非常に心苦しいので何らかのアクションを起こさなければならないと考えました」と話します。

そこで、この会社が去年12月に東京 渋谷区にオープンしたのが「野菜炒めの専門店」です。卸売会社がみずから外食産業に進出することで、売り上げを安定させ、野菜の消費量を増やすのがねらいです。
新しくオープンした店は、テーブル席ではなく、カウンター席がメイン。いわゆる「お一人様」需要を取り込み、コロナ禍でも来店しやすい店構えにしました。
この専門店では、同じ規模の飲食店の10軒分にあたる一日あたり、およそ200キロの野菜を消費しているということで、今後は出店をさらに拡大することも検討しています。
卸売会社「フードサプライ」の竹川敦史 代表取締役は「自社でも多くの野菜を消費できるような業態を作れないかと考えました。『コロナだからできる』というのではなく、『コロナ後も消費者にうける』継続性の高い業態を作りたいです。飲酒をあまり伴わず、安定感のある業態なので、会社としての売り上げの安定にもつながると思います」と話していました。