存続危機の地方鉄道 廃線など見直し視野に議論開始 国の検討会

人口減少や新型コロナウイルスの影響で存続が危ぶまれる路線もある全国の地方鉄道について、廃線にしてバスに切り替えるなど、抜本的な見直しも視野に議論する国の検討会が始まりました。
鉄道を残したい地域からの反発も予想される中、鉄道事業者に頼ってきた費用負担などについて、沿線自治体がどのように関わっていくかが焦点となります。

14日の初会合には、国土交通省と鉄道事業者の幹部や専門家などおよそ20人が出席しました。
会合は大半が非公開で行われ、出席者からは「単に『鉄道を残す』ということではなく、地域の利便性を高めることが重要だ」とか「1キロあたりの1日の乗客が2000人未満の路線もあり、このままの形で鉄道を維持することは非常に難しい」といった意見が出されたということです。

全国の地方鉄道は、多くの事業者が赤字に陥り、存続が危ぶまれる路線も出ていて、検討会では今後、鉄道を廃線にしてバスに切り替えるなど、抜本的な見直しも視野に議論する方針です。

一方、長年、地方の移動を支えてきた鉄道を廃線にすることに対しては地域からの反発も予想されます。

路線の維持に向けては、鉄道事業者に頼ってきた費用負担などについて、沿線自治体がどのように関わっていくかが焦点となり、国は、ことし7月をめどに方向性を示したいとしています。

座長を務める交通政策に詳しい東京女子大学の竹内健蔵 教授は「廃止か存続か、単純な議論ではなく、危機感を共有しながら、多様な選択肢を議論し、戦略を導き出していきたい」と話していました。
国土交通省は「鉄道とバスの走行キロあたりの経費」について比較する試算、試みの計算を初めて明らかにしました。

それによりますと、令和元年度、JRや私鉄など「鉄道」における運送費や管理費などの営業費用は、1キロあたり全国平均で4701円。

これに対して「乗り合いバス」は、道路の維持管理費を除く、人件費や燃料費、車両修繕などの営業費用は、1キロあたり全国平均で491円でした。
一概に経費の比較は難しいとしながらも、バスの場合、鉄道のおよそ10分の1の費用負担で抑えられるとしています。

コロナ禍で地方路線の経営はさらに厳しく

国が新たな検討を始めた背景には、新型コロナウイルスの影響で鉄道会社の経営環境が一段と厳しさを増し、地方路線の維持への危機感が強まったことがあります。

JR西日本の長谷川一明 社長は、NHKのインタビューで「経営が厳しい状況で、利用が少ない路線をこのまま放置できない。自治体とともに今後の展望を見いだしていきたい」と述べて危機感をあらわにし、特に利用者が少なくなっている地方路線の今後のあり方を沿線の自治体とともに検討したい考えを示しています。
昨年度の2332億円の最終赤字に続き、JR西日本は今年度(2021年度)も最大で1165億円の最終赤字になるという見通しを示しています。

経営の立て直しが急務で、会社は中国地方の支社の大規模な組織再編を行うほか、在来線の大幅な減便を行うなどして経営の効率化を進めています。

さらに利用者が特に少なくなっている地方路線については、1キロあたり1日に平均何人を運んだかを示す「輸送密度」が2000人に満たない「線区」を中心に、利用促進策のほか、バス路線への転換を含め、地域の実情やニーズにあったあり方を検討していきたいとしています。

関係者によりますとJR西日本はことし4月以降、こうした線区についてはこれまで明らかにしてこなかった個別の収支の状況を初めて公表する方針だということで、具体的な収支の状況を示すことで沿線自治体などとともに今後のあり方についての議論を加速させたい考えとみられます。

このうち長野県と新潟県を結ぶJR大糸線については今月3日、バスへの転換なども含めて地元の自治体などとともにあり方の検討を進めていくと発表しています。

JR大糸線 昨年度の1日あたり利用者は50人に

JR大糸線は、長野県中部の松本市と、日本海に面する新潟県西部の糸魚川市を結ぶ全長およそ105キロの路線で、利用者の多くが観光客です。

管轄は長野県小谷村の南小谷駅を境に分かれていて、それより南の長野県側はJR東日本が管轄し、南小谷駅から新潟県の糸魚川駅まではJR西日本の管轄です。

JR西日本は、今月3日、大糸線の南小谷駅から糸魚川の区間で、バスへの転換なども含め、あり方の検討を進めていくと発表し、今後、地元の自治体などと協議の場を設けることにしています。
JR西日本によりますと、この南小谷駅と糸魚川駅の区間の1日の運行本数は20本で、人口減少や高速道路などの発展に伴い、利用者数は減少が続いていて、ピークの平成4年度には、1日あたり1282人が利用していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大前の令和元年度にはピークの10分の1以下の102人にまで落ち込んでいます。

JR西日本は沿線自治体などと協議会を作り、定期券への補助や自転車を車内に持ち込めるサイクルトレインのイベントを行うなど、利用促進を呼びかけていますが、大幅な回復にはつながらず、昨年度は観光客の減少などもあり、1日あたりの利用者が50人にとどまっています。

バス転換も含めたJR大糸線のあり方が検討されることについて長野県小谷村では、廃線となれば子どもたちの将来に影響が出るという心配の声も聞かれました。
村内唯一の小谷中学校では毎年20人前後の生徒が卒業して白馬村や大町市などの高校に進学し、その多くが大糸線を使って通学しています。

自治体の負担で新たな路線開設のケースも

検討会では、16年前(2006年)廃線となったJRの路線のインフラを生かし、新たな交通網への転換を決めた富山市の森雅志 前市長もメンバーとなっています。

森前市長は2006年、廃線になったJR富山港線の線路を譲り受け、最新技術が反映された路面電車、LRTを導入し、「富山ライトレール」を開設しました。

4つの新駅を設け、運行本数を増やすなどした結果、新型コロナの感染拡大前の令和元年度には、乗客が、JRの廃線直前の2倍以上に増えました。

地方鉄道などと出資する第三セクターによる運営でしたが、富山市は、▼初期の設備投資におよそ17億円、▼維持管理費として毎年およそ1億5000万円を負担してきました。

現在は富山地方鉄道が運営し、市の負担額は毎年およそ8000万円となっています。

公共交通の維持に向け、自治体が財政負担することに対しては、当初、市民からの反発もあったといい、富山市は延べ120回にのぼる事前の住民説明会を開きました。
説明会では「自分は車さえあればいい。LRT化する必要が本当にあるのか」「税金を使ってやる意味はあるのか」といった意見が相次ぎましたが、森前市長は「高齢化にともない、いずれ車を運転できない人は多くなる。将来の市民のために街づくりを変えていかなければならない」と理解を求めたということです。
森前市長は、「なぜそんなことに税金使うのか、バスも電車もなくていいと言う市民が当然いる。そこを説得する努力をちゅうちょしてはいけない。市民の幸福のために基礎自治体である市が汗をかき、協議の場を作る。誰が負担するかまで、みんなで話し合わなければいけない」と話しています。