娘と男湯 息子と女湯 何歳まで?子どもと混浴 どう考えますか

娘と男湯 息子と女湯 何歳まで?子どもと混浴 どう考えますか
「『11歳の女の子と混浴できて穴場』という言葉に衝撃を受けた」

父親と一緒に男湯に入る女の子をねらうかのような物言いに対する、ある小児科医のツイートが議論を呼びました。

公衆浴場での子どもの混浴を巡って、いまどんな動きが出ているのか取材しました。
(ネットワーク報道部 馬渕安代 藤島新也 高杉北斗 SNSリサーチ 坊彩子)

ある小児科医の憤り

この投稿をしたのは小児科医の今西洋介さん。

子どもたちの性被害を防ぐ活動にも取り組む今西さんに、どんな思いで投稿したのか聞いてみました。
小児科医 今西洋介さん
「私自身も3人の娘を持つ父親で許せない気持ちになりました。混浴を一切禁止すべきだとは思いませんが、子どもたちの性被害をなくそうと取り組んでいることもあり、多くの人にこの問題について考えてほしいと思ったんです」

小学校高学年でも混浴?

今西さんが問題提起した公衆浴場での子どもの混浴。

実は、自治体の中には、子どもが小学校高学年になっても異性の親と一緒に入ることを認めているところもあって、対応が分かれています。

こちらは、地方公共団体の課題について調査・研究を行う地方自治研究機構が、ことし1月1日時点でまとめた調査結果を元に作った表です。
公衆浴場での子ども混浴を何歳から規制しているのかがわかります。

規制する年齢を条例で定めているのは38都道府県です。

▽7歳以上を規制:16
(秋田、茨城、栃木、東京、富山、石川、岐阜、京都、和歌山、徳島、愛媛、福岡、長崎、大分、鹿児島、沖縄)
▽8歳以上を規制:5
(愛知、滋賀、鳥取、熊本、宮崎)
▽10歳以上を規制:15
(北海道、青森、宮城、群馬、埼玉、神奈川、福井、山梨、長野、静岡、三重、兵庫、岡山、香川、高知)
▽12歳以上を規制:2
(岩手、山形)
▽規定なし:9
(福島、千葉、新潟、大阪、奈良、島根、広島、山口、佐賀)

※令和4年4月1日施行予定も含む

子どもを守るために… 3つの注意点

小児科医の今西さんは、子どもと一緒に公衆浴場に行くときには、お父さん、お母さんには、性被害を防ぐために次の3点を守ってほしいと話していました。
1.プライベートゾーンを教える
水着で隠す場所、「プライベートゾーン」を触られたり、写真を撮られたりすることは絶対にダメ。万が一の時は、親に伝えるように教える。
2.口もダメ
口を触られたり、中にものをいれられるのもダメだということも教える。
3.サインを見逃さないで
性被害にあった子どもたちはなんらかのサインを出していることが多い。少しでも不審な点があったら、思い込みを捨て、きちんと話を聞く。

年齢引き下げの動き相次ぐ

公衆浴場でのトラブルを防ぐため、国も対策に乗り出しました。

厚生労働省はおととし12月、公衆浴場での混浴を規制する年齢を、これまでの「おおむね10歳以上」から「おおむね7歳以上」に引き下げたのです(※年齢引き下げ議論の基礎となった大規模な意識調査の結果は記事の最後にあります)。

地方自治研究機構によると、これを受けて各地で年齢を引き下げる動きが相次いでいるそうです。
東京都もことし1月、10歳から7歳に引き下げました。

現在、もっとも高い12歳以上としている岩手県と山形県も、それぞれ引き下げに向けた準備を進めているということです。

やむをえない事情抱える人も

年齢の引き下げが進む一方で、公衆浴場の利用者の中には配慮を求める声もあります。

都内に住む40代のシングルマザーは数年前に夫からの暴力が原因で離婚したあと、9歳になる息子との公衆浴場での入浴について悩んでいます。

息子と同世代の女の子などが混浴を嫌がるのは理解できるし、年齢制限も仕方がないと考えてはいるものの、発達障害のある息子の入浴にはサポートが必要です。
不審な人物に何かされないか、転倒したりけがをしたりしないかが心配で、1人で男湯に行かせるのは、はばかられるといいます。

貸し切り風呂や家族風呂を利用しようにもそもそもそういった施設がないところも多く、施設があって予約が取れても、子どもがぐずると予約時間内に入浴することは難しいといいます。
「もう少し何か対処方法があればと思います。下半身が見えないように入浴着などをつけた入浴を許していただいたり、個室などのブースを浴場の一角に設けたり、多様なニーズへ配慮していただければありがたいです」

「1人で入らせるのは不安」「猶予期間を」

ほかのシングルマザーからも同様の声が上がっています。
「母子家庭で男性に慣れていない小学校低学年の息子を男湯に1人入らせるのは不安でなりません。一緒について行ける大人がいないなど、いろいろな事情があるということを理解してほしい」
「小学校にあがったばかりの子どもが1人で入れるようにするには、訓練が必要であり猶予期間がほしい」

時代の要請?事業者の受け止めは

事業者も意見はさまざまです。

北海道内の100以上の銭湯が加盟する「北海道公衆浴場業生活衛生同業組合」の理事長で札幌市内で銭湯を経営している小西廣幸さんは、年齢制限の引き下げに賛成の立場です。
小西廣幸さん
「時代の流れだと思うので、年齢制限の引き下げは好意的に受け止めています。小さい子が入るとき、銭湯であれば常連さんに『ちょっと気にかけてあげて』などと頼めるので、そういう形でフォローしていきたい」
一方、ことし1月から年齢制限が12歳以上から7歳以上に引き下げられた栃木県のスーパー銭湯で役員を務める男性は、引き下げに理解を示しながらも、複雑な思いを抱えています。
栃木 スーパー銭湯の男性役員
「子どもがひとりで風呂に入るようになれば、滑って転んだりやけどしたりといったリスクがあり、事業者としては怖いです。また、年齢制限が原因で来れなくなる親子や、お風呂を楽しめない人が出てくるのは心苦しく、難しい問題だと思っています」

“混浴”への意識 時代とともに変遷

子どもの混浴についてはさまざまな意見がありますが、むかしはどうだったのでしょうか。

日本銭湯文化協会の理事で銭湯の歴史にも詳しい町田忍さんに聞いてみました。
町田さんによると、日本の公衆浴場では「混浴」が一般的だった時代もあったということです。

料金を取る営業目的の浴場が広がったのは江戸時代。

このときは多くが混浴で、男女が同じスペースを使っていたということです。

当然、子どもも親と一緒に入っていたそうです。
混浴が一般的だった背景には、裸を見られることに抵抗が少なかったという時代の影響や、経営的にも男女で別々の設備を作るより1つを共同で使うほうが効率がよいという事情もあったということです。

江戸時代は身分社会でしたが、浴場では武士も刀を預けて裸になり、町人と同じ風呂に入っていたということです。

ただ、男女が同じ場所を使うため、風紀が乱れることもあり、たびたび幕府に取締りを受けましたが、なかなか無くなりませんでした。

その後、明治に入って西洋化が進む中で、政府が取り締まるようになり、男女が分かれて入浴する現代のスタイルが定着していったということです。

町田さんによると、戦後になると公衆浴場についてさらに細かくルールが決められるようになり、東京では昭和23年に10歳以上の混浴が禁止されるようになったということです。
日本銭湯文化協会理事 町田忍さん
「日本ではお風呂に入る時に『いただきます』、出る時には『ごちそうさま』と言う人もいますが、入浴は食事と同じように大事な時間だという独特の入浴感があって、単に体の汚れを落とすだけでなく、交流や癒やし、リラックスも大きな目的になっていました。ただ、裸に対する意識が大きく変わり、個人個人の考え方も違うので、ルールをしっかり決めた方が安心して楽しめる場になるのではないでしょうか」

令和の風呂文化・多様性尊重も

時代によって移り変わる風呂の文化。新しい動きも生まれています。

兵庫県尼崎市にある公衆浴場では、去年11月、施設を貸し切って性的マイノリティーの人たちのイベントを開きました。

ふだん公衆浴場の利用を諦めてしまうことが多いLGBTQの当事者たちに、気兼ねなくお風呂を楽しんでもらおうという取り組みです。
代表の稲里美さんはかつて、性的マイノリティーの人の利用を断った経験がありましたが、知人の男性が髪を長く伸ばして女性の服装をしているのを知り、気持ちが少しずつ変わっていきました。
「蓬莱湯」稲里美さん
「驚いて連絡したら『これまで隠してきたけれど、自分に正直に向き合いたいんだ』って。昔は性的マイノリティーの人たちが自分の理解を超えた存在でしたが、自分の近しい人に当事者が現れて少しずつ、寄り添おうという気持ちが出てきたんだと思います」
イベントにはわざわざ県外から参加した人もいて、「久しぶりにのびのびとお風呂を楽しめてよかった」といった声を聞けたということです。

稲さんは今でも「生まれ持った体はそのままであり続けた方がいいのではないか」という思いもあり、性別適合手術などには賛同できない面はあると感じています。

ただ、イベントの開催に向けて当事者と話し合ってきたことが「双方の暮らしやすさを探す長い旅のように価値があるものだ」と感じていて、今後も取り組みを続けたいと考えています。
稲里美さん
「イベントをやってみて、当事者たちが幸せを追求するために、自身の性と真正面から向き合う気持ちは尊重したいと感じるようになりました。何より私はお風呂屋さんなので、みんなに気持ち良くお風呂を楽しんでほしいんですよね」
風呂は1日の疲れを癒やし、あすへの活力を養う貴重なひとときです。

子どもも大人も誰でもひとしく楽しめる令和の時代の新たな風呂文化を作り上げていきたいものです。

参考資料 年齢引き下げに関する意識調査

子どもの混浴の年齢引き下げの議論の基礎となった調査があります。

厚生労働省が研究事業で行った大規模な意識調査です。

このうち全国の成人の男女3600人余りを対象に行われたアンケート(2019年12月実施)では、80.3%の人が、子どもの混浴は「年齢に応じて禁止する必要がある」と考えていることがわかりました。
禁止する年齢については、▽6歳からが18.5%で最も多く、次いで、▽7歳からが15.7%、▽5歳からが8.5%でした。(条件付は、年齢制限は必要だと考えているものの、制限する年齢を一律に決める必要はないという考えを示しています)

また、この調査では子どもの意識も聞いています。

7歳から12歳の男女1500人を対象にしたアンケートでは「水着なしで異性の浴場に入るのを恥ずかしいと思い始めた年齢」を聞いています。
結果は、▽6歳が27%で最も多く、次いで、▽7歳が21.2%、▽5歳が16.1%でした。

この調査結果からは、子どもも大人も6歳から7歳くらいを混浴するか、しないかの境界線と捉えている傾向がうかがえます。