新型コロナ 開発進む飲み薬 効果や特徴は

アメリカの製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルスの飲み薬について、厚生労働省は10日、承認に向けた審議を行います。
感染から間もない段階で効果がある飲み薬があれば、重症者や死亡者を減らし、医療への負荷も減らせるため、世界各国で開発が進められてきました。

初承認はメルクの「ラゲブリオ」

このタイプの飲み薬として2021年12月24日に初めて承認されたのが、
アメリカの製薬大手メルクが開発した「ラゲブリオ」=一般名モルヌピラビルです。

ウイルスが細胞に侵入したあと、設計図となる「RNA」をコピーして増殖する際に必要な酵素の働きを抑えることで増殖を防ぎます。

薬の添付文書などによりますと、
投与の対象となるのは18歳以上の軽症から中等症の患者のうち、
▽高齢者や肥満や糖尿病など重症化リスクがある人で、
▽発症から5日以内に1日2回、5日間服用するとしています。

また、胎児に影響が出るおそれがあるとして、妊婦や妊娠している可能性がある女性は服用しないこととしています。

重症化リスクがある患者の入院や死亡のリスクをおよそ30%低下させる効果があるとされ、薬の服用後に有害事象が出た割合は、薬を服用したグループと、偽の薬を服用したグループで変わらなかったとしています。

会社側は、実験室内での分析で、オミクロン株に対しても「活性が示された」と発表しています。

この薬は、
▽2021年11月に、世界で初めてイギリスで承認され、
▽アメリカでも12月23日に緊急使用の許可が出された一方で、
▽フランスは臨床試験で当初、期待していたほどの効果がなかったとして発注をキャンセルしました。

厚生労働省は160万人分の供給を受けることで合意し、2月10日までに合計でおよそ34万人分が納入される予定ですが、安定的な供給が課題になっています。

ファイザーの飲み薬は

「ラゲブリオ」に続いて承認申請が行われたのが、アメリカの製薬大手「ファイザー」が開発した飲み薬です。

新型コロナウイルス向けに開発した抗ウイルス薬の「ニルマトレルビル」とエイズの治療に使う既存の薬で抗ウイルス薬の効果を増強させる役割の「リトナビル」を組み合わせた薬で、アメリカでは「パクスロビド」という商品名で販売されています。

日本では「パキロビッドパック」という商品名で、細胞内に侵入したウイルスの増殖を抑えるタイプの薬です。

メルクの「ラゲブリオ」とは作用のメカニズムが異なり、ウイルスが自身のRNAをコピーして増える準備段階で働く酵素を機能しなくすることで増殖を抑えます。

会社が2021年12月に公表した治験の最終的な分析結果によりますと、重症化リスクのある患者に対して
▽発症から3日以内に投与を始めた場合には入院や死亡のリスクが89%低下し、
▽発症から5日以内に投与を始めた場合でも、88%低下したとしています。

副作用について、薬の服用後に有害事象が出た割合は、薬を投与した人たちと偽の薬を投与した人たちで頻度は変わらず、ほとんどが軽かったとしています。

また、実験室での分析でオミクロン株に対しても「強い抗ウイルス活性を維持する可能性が示唆される」としています。

アメリカでは、2021年12月22日にFDA=食品医薬品局が「緊急使用許可」を出していて、
投与の対象は
▽12歳以上の軽症から中等症の患者で、
▽重症化のリスクが高い人とされ、
▽感染が確認されたらなるべく早く、症状が出た場合は5日以内に
▽1日に2回、5日間服用するとしています。

政府は、ことし中に200万人分を購入することで合意したと発表していて、承認され次第、今月中旬にも4万人分が供給されるという見通しを示しています。

塩野義製薬も開発進める

日本の製薬会社でも、大阪の「塩野義製薬」が軽症者用の飲み薬の開発を進めています。

作用の仕組みはファイザーの飲み薬と同様、ウイルスが自身のRNAをコピーして増える準備段階で働く酵素を機能しなくすることでウイルスの増殖を抑えるとしています。

会社によりますと、
12歳から60代までの新型コロナに感染した軽症や中等症、
それに無症状の患者69人について、
薬の投与を1日1回、
3回受けたあとでは、
感染性のあるウイルスがある人の割合が
▽薬の用量が多い場合には80%、
▽用量が少ない場合は63%減少したとしています。

また、入院が必要になった人はおらず、副作用も軽度だったとしています。

会社は2月7日、東京都内で記者会見を開き、400人の患者の分析結果が、近く、新たにまとまる見通しだとして、高い有効性が認められれば、最終結果を待たず、最短で2月中旬の週にも国に承認申請する考えを示しました。

承認申請されれば、国内の製薬会社の新型コロナの飲み薬としては初めてとなります。

一方、会社では、2022年3月末までに100万人分の生産を完了させ、4月以降は年間で1000万人分以上を生産する予定だとしています。

専門家「新薬の登場 非常に意義ある」

ファイザーが開発した飲み薬について、新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は「先に承認されている飲み薬、ラゲブリオの供給が限られる中、新たな薬が登場することは非常に意義がある。また、オミクロン株に対しても試験管内で効果が確認されていて、作用の仕組みを考えても、ワクチンや一部の抗体医薬のように効果が落ちることはなく、有効だと考えられる」と話しています。

そのうえで「こうした飲み薬が幅広く使われるためには、診療所などでできるだけ早く検査・診断し、処方する仕組みがなにより重要だが、感染が急拡大する中、多くの人がなかなか診断を受けられていない。今の検査体制を一層拡大することが必要だ」と話しています。

またファイザーの飲み薬は、2種類の薬を組み合わせて飲むことになっていますが、このうち、抗ウイルス薬の効果を増強させる作用がある「リトナビル」について森島客員教授は、「薬の血中濃度を上げる仕組みがあり、基礎疾患があって別の薬を飲んでいる人は要注意だ。処方してもらう場合には、医師にお薬手帳を見せるなどして、確認することが重要だ」と指摘しました。

一方、国内の製薬会社で、塩野義製薬が開発している飲み薬について「12歳以上や重症化リスクがない人など、投与の対象が幅広いのが特徴で実用化されれば、薬を飲んで数日たつと職場に復帰できるインフルエンザのようになっていくかもしれない」と述べました。

会社が最終段階の治験の結果を待たず、承認申請する可能性を明らかにしたことについては、「海外でのコロナの治療薬の開発でも、治験の途中の段階で効果がはっきりすれば、承認申請するということは、普通に行われてきた。ただ、症例数の少なさを補強するため、薬が広く使われた後に副作用や効果を追跡する調査が必要になる」と指摘しました。