失格相次いだジャンプ混合団体【解説】 異例の事態はなぜ?

北京オリンピック、7日に行われたスキージャンプの新種目、混合団体に出場し、スーツの規定違反で失格となった高梨沙羅選手が、8日夜みずからのSNSに「どうかスキージャンプという素晴らしい競技が混乱ではなく選手やチーム同士が純粋に喜び合える場であってほしいと心から願います」とつづりました。

混合団体では高梨選手や海外のトップ選手合わせて5人がスーツの規定違反で失格。
こうした異例の事態はなぜ起きたのか。
そもそもスーツの「規定違反」とは。検査はどのように行われているのか。
現地で取材をしているスポーツニュース部のジャンプ担当 沼田悠里記者が答えます。

4年に一度の舞台で一体、何が起きたのか?

(沼田記者)
スキージャンプの新種目「混合団体」で起きた異例の事態。私は競技会場で取材をしていました。混合団体は男女2人ずつで1チーム。日本はメダル獲得が期待されていました。
1人目に飛んだエースの高梨選手が、いきなり100メートルを超える大ジャンプをし、現地で一気にメダルへの期待感が高まっていくのを感じました。
ところが、しばらくすると失格になったという情報が入りました。
“スーツの太もも周りが規定よりも2センチ大きかった”として、スーツの規定違反で失格となってしまったんです。
高梨選手は涙を流しながら「申し訳ございません」と何度も答える姿を目にして、胸が締め付けられました。

「スーツの規定違反」ってどういうこと?

(沼田記者)
あまり聞き慣れないですよね。
まずジャンプのスーツはサイズが体に合っていないと空気抵抗が変わり、飛距離に影響するんです。つまり、大きなスーツを着ている方が空気抵抗が増えて、有利になるケースが多くなるんです。
国際スキー連盟は、用具についての規定に沿って、違反がないか厳しくチェックします。もし、規定に合わないスーツを着用していた場合は、失格になってしまいます。
国際スキー連盟の規定によりますと、選手は「身長」や「股の長さ」「腕の長さ」「首のサイズ」なども計測され、体の部位ごとにスーツが適正なサイズかどうか確認するんです。

検査は実際はどのように行われるのか?

(沼田記者)
選手がスーツを着用した計測は、直立した状態で行われます。
体のあらゆる部分にフィットしていなければならないとされています。
全日本スキー連盟のホームページに掲載されている資料では、例えばスーツの測定をする場合、
「外側を測定する」「スーツはまっすぐ平らで、しわがないことをチェックする」とか、「足を40センチ離して、足は完全に伸ばさなければならない」などいろいろと決められているんです。
とはいっても、オリンピックの舞台で5人も失格となるのは異例です。

厳しい検査はチームや選手もわかっていますよね?

(沼田記者)
選手はもちろん、チームとしても検査が行われるのはわかっています。
通常は試合前や、1回目のジャンプを終えたあとにスーツの検査が行われますが、全員が検査されるわけではありません。
“ランダムに選ばれた人のみ”行われるんです。
高梨選手の場合、個人ノーマルで着たスーツと同じもので出場しましたが、規定違反となりました。
わずか1日、間をおいただけです。驚きです。
一方、国際スキー連盟の吉田千賀レースディレクターに取材したところ「測り方はいつもと一緒だ。個人戦でなく団体戦でかぎられた10チームの選手だけなので、抜き打ちといっても、ほとんどの選手が検査されたため、多くの規定違反が出たのではないか」との見方を示していました。
ほとんどの選手が検査されたということが違反が相次いでいることにつながったようです。

なぜ今回のオリンピックで規定違反が相次いだ?

(沼田記者)
ジャンプ台が作られた地域の気候がポイントにあげられると思います。
北京大会のために建てられたジャンプ台なのですが、標高1650メートル地点にあり、空気は薄く乾燥しています。
1回目のジャンプが行われた午後8時ごろの気温はマイナス10度ほどで、湿度は38パーセント。ジャンプ台付近は厳しい寒さがありました。
私も取材していると、10分ほどでまつげが凍るような寒さで、靴下を2枚重ねして手袋をしていても手足が冷たくて痛くなりました。
日本代表の横川朝治コーチによりますと、このジャンプ台は空気が薄く揚力もえにくいため、スーツの大きさが飛距離に影響を与えやすいそうです。
メダルを争う強豪国が“規定ギリギリ”のスーツを着用するケースが多いと話しています。日本選手の場合は試合前に筋力トレーニングをして、筋肉が張った状態にしたうえでスーツを着て出場するということですが、空気が乾燥していて体内の水分が放出されやすく、寒さで筋肉が縮みやすくなったのではと分析しています。

スーツの規定に、気候や体型の維持など、あらゆる要素が重なっていたのもかもしれません。

今回の事態に海外のメディアや選手の反応は?

(沼田記者)
混合団体では、個人の女子ノーマルヒルで銀メダルを獲得したドイツのカタリナ・アルトハウス選手のほか、ノルウェーでは2人も失格となりました。

ノルウェーのクリスチャン・メイヤーコーチは怒りをあらわにし「この日のスーツの検査は本当におかしい。厳しすぎるし、こんな試合がオリンピックなんてあり得ない」と話しました。

またドイツの新聞は「このことは他の多くの選手たち、基本的には競技全体、そしておそらくスキージャンプのイメージやルールの適用にも影響を及ぼした」と報じました。

波紋が広がっていますが、選手たちにとってもつらいですね?

(沼田記者)
そうですね。ただ日本代表の佐藤幸椰選手は「それだけ多くのルールのもとで試合をしている。こういうことがあってもその人のせいではないし勝負をした結果だ」と話していました。
ジャンプ競技にとってはスーツも戦略の一つです。
ただ通常のワールドカップでは、スーツの規定違反が5人も相次ぐことはほとんどありません。
こうしたことが2度と起きないことを願ってやみません。

<高梨 SNS投稿のメッセージ>

今回、私の男女混合団体での失格で日本チームみんなのメダルのチャンスを奪ってしまったこと、そして、今までチームを応援してくださった皆様、そこに携わり支えてくださった皆様を深く失望させる結果となってしまった事、誠に申し訳ありませんでした。
私の失格のせいでみんなの人生を変えてしまったことは変わりようのない事実です。
謝ってもメダルはかえってくることはなく
責任が取れるとも思っておりませんが
今後の私の競技に関しては考える必要があります。
それ程大変なことをしてしまった事深く反省しております。

そして、私のせいでメダルをとれなかったにも関わらず、最後の最後まで支え続けてくれた有希さん、幸椰さん、陵侑、そして日本チームのメンバーの皆さま、スタッフの皆さまには感謝してもしきれません。
こんな私を受け入れてくれて本当にありがとうございました。
この度は本当に申し訳ありませんでした。

高梨沙羅

私が言える立場ではない事は重々承知の上で言わせていただけるなら、
どうかスキージャンプという素晴らしい競技が混乱ではなく選手やチーム同士が純粋に喜び合える場であってほしいと心から願います。

(※高梨選手のインスタグラムより。一部補正)