韓国大統領選挙 日韓関係・北朝鮮への対応はどう変わる?

韓国大統領選挙 日韓関係・北朝鮮への対応はどう変わる?
「対日強硬論者、反日的な考えを持った人という偏見と誤解がある」
「懸案を全部1つのテーブルにのせて問題を解決していく」

韓国での新たなリーダーの誕生は、韓国外交が変わるきっかけとなることは間違いありません。
関係が冷え込む日本や、ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対してどう対応するのか、主要な2人の候補の外交ブレーンに直接質問をぶつけました。
返ってきたのは、日韓関係の改善が必要だという共通の認識でした。

選挙戦は与野党2人の候補の競り合い

3月9日に行われる韓国大統領選挙は、革新系の与党のイ・ジェミョン(李在明)前キョンギ(京畿)道知事と、政権奪還を目指す保守系の最大野党のユン・ソギョル(尹錫悦)前検事総長が激しく競り合う展開となっています。
選挙戦は、不動産価格の高騰など、国内の問題に集中しているのが実情です。

そこで、両候補の外交ブレーンにインタビューを行い、それぞれの外交政策をひもとくことにしました。
与党「共に民主党」イ・ジェミョン氏の陣営からは、選挙対策委員会で、外交分野のトップを務めるウィ・ソンナク(魏聖洛)氏。

ロシア大使や北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議の首席代表を務めるなど、30年以上にわたり外交の現場で活躍してきました。

選挙に向けては、日本大使との面会にも同席するなど、国政での経験がないイ氏を外交面でサポートしています。
<与党 ウィ・ソンナク氏 発言のポイント>
▽日韓関係の改善は韓国にとっても利益。
 日本への厳しい発言もあるイ氏だが、日本と日本人に対して肯定的な考えを持っている。

▽北朝鮮とは対話を模索しながらも、間違った行動はしっかりと指摘し、制裁も検討するなど、硬軟織り交ぜて対応。
一方、最大野党「国民の力」のユン・ソギョル氏の陣営は、ユン・ドンミン(尹徳敏)氏。

慶應義塾大学で政治学の博士号を取得し、日韓関係・安全保障分野に精通しています。

パク・クネ(朴槿恵)政権下で当時の国家安保諮問団の委員や韓国外務省傘下の政府系シンクタンク国立外交院トップなどを歴任しました。

ユン陣営で外交・安保分野の公約を担っています。
<野党 ユン・ドンミン氏 発言のポイント>
▽日韓関係改善に前向き。
 懸案解決に向けて権限のある代表で両国が協議し、両国首脳のリーダーシップで議論を支える。

▽北朝鮮に対しては米韓同盟をもとに「拡大抑止」を強化。
 その上で柔軟な対応をとりながら非核化につなげる。
 (※「拡大抑止」。ここでは米韓同盟に基づき、アメリカの「核の傘」を含む軍事力で韓国への攻撃を抑止することを指す)

日韓関係は改善できるのか?

国交正常化以降、最悪の状況だとも言われる日韓関係。

太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題や、慰安婦問題など、難しい課題が山積しています。

隣国・日本との関係をどのように考え、両国間の懸案を解決し、関係を改善することはできるのでしょうか。

与党 ウィ・ソンナク氏

Q:日本との関係については、どのように対応するのでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「今、韓日関係は非常に低い位置にあるのが現状で、これは残念なことであり、必ず変えなければなりません。
関係を改善するのは当たり前のことです。
それは、イ氏をはじめとするわれわれの陣営のみんなが共感していることです。
イ氏は、すでに韓国に駐在する日本の相星大使と面会した時に、そのような意志と意図を表明しました」
Q:イ氏は日本に対して厳しい発言もしているが、どのような対日観を持っているのでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「イ氏が、過去、いくつかの発言をしたのを覚えていると思います。
主にそれらの発言は、領土問題、過去の歴史といったいくつかの事案に関することでした。
それゆえに、イ氏が対日強硬論者、または反日的な考えを持った人だという偏見と誤解がありますが、事実ではありません。
イ氏とたくさん話をしてきましたが、日本と日本人に対して、とても肯定的で好意的な考えを持っています。
日本を何回も訪問していて、その時に経験した日本人、日本社会のいろいろな長所について記憶を分かち合ったこともたくさんあります。
親切で、清らかで、率直で、精巧で、他人を配慮することについて、非常に肯定的な評価をしています」
Q:イ氏は、日本との関係をどう見ているのでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「両国関係が改善の方向に向かってこそ、韓国にも日本にも有益であるという観点を持っています。
特に、北朝鮮の核とミサイルの問題が当面の懸案である状況で、韓日関係の改善はお互いにとって役立つと思います。
良い韓日関係は、地域の平和と安定、信頼の構築にも肯定的だと考えています」
Q:太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題や慰安婦問題を解決するためには、どのように対応していくべきでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「具体的な方策は研究し、検討しています。
まず、状況のさらなる悪化があってはならないと思います。
だから双方で関係改善に向かうような環境が整備されるべきです。
そのような環境の中で、できるだけ早く緊密な協議を行い、懸案についての接点を見いだすべきだと思います。みんながもう少し柔軟になってほしいですし、みんなが関係改善が答えだという共通の目標を念頭に置いて動くべきです」
Q:日本とのGSOMIAについては、どのように考えていますか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「GSOMIAは、韓国と日本の間のさまざまな協力の中で極めて重要な分野です。
それ自体の重要性もあり、協定が持つ象徴性もあります。
韓国と日本はいずれもアメリカの同盟国です。
そのため、両国の間には、直接的ではないが、アメリカを通じていろんな安保的な側面での連携も多く、その中の1つの枠がGSOMIAです。継続して、維持・発展させるべきだと思います」

(※「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)」。秘匿性の高い軍事情報を交換するために情報を適切に保護する仕組みなどを定める協定。ムン政権は2019年に日本との協定破棄を決定したが後に決定を撤回)

野党 ユン・ドンミン氏

Q:ユン・ソギョル氏の日本に対する姿勢はどのようなものですか?
野党 ユン・ドンミン氏
「韓日関係の改善に非常に前向きな立場です。
しかし今や1つ1つの事案(「徴用」や慰安婦の問題)は非常に難しい事案です。
長い時間をかけて解決していくべき問題で、そのためにまず、関係を正常化するというモメンタム(勢い)をつくるのです。
過去、韓国と日本の関係がかなり冷え込んでいた時期、当時の小渕政権とキム・デジュン(金大中)政権が努力し、共同声明を発表しました。当時と同じように第2の共同宣言を発表して関係正常化のために政治的な基盤を設けます。
それをきっかけに、非常に長期的な視野をもって難問を協議していく必要があります」

(※「日韓共同宣言」。1998年に当時の小渕総理大臣とキム・デジュン大統領が相互理解と信頼に基づいて未来志向の関係を築くことで一致して発表)
Q:太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題や慰安婦問題に、具体的にどのように臨むのですか?
野党 ユン・ドンミン氏
「個別の問題を、1つ1つ別々に議論していくと終わりが見えません。
1つが議論されると、また別の問題が出てきて事態を悪化させる、そういうパターンが今まで続いてきました。
だから、懸案を全部1つのテーブル上にのせて、包括的に問題を解決していきます。
そのためには、かなりの権限を持つ代表を双方に立たせて、長期間にわたって議論して問題を解決していき、それを政治的リーダーシップが支えるといった状態でやっていくべきだと考えています」
Q:問題解決には時間がかかるので、まずは解決に向けた環境を整えるということですか?
野党 ユン・ドンミン氏
「双方とも問題を前向きに解決していくという認識が重要です。ユン政権が発足して日本との関係をとても前向きに解決していこうとしても、両手を動かしてこそ拍手の音が出るように、日本国内でも(韓国側の姿勢を)受け入れ可能な、前向きな動きがあってこそです。
反日感情・嫌韓感情が双方の社会に存在するのは事実ですが、それをどのように突破して良い流れを作り出すことができるのか、そのために私は、共同宣言をつくり、その流れをつくるための政治的リーダーシップが最も重要だと思います」
Q:安保分野でユン氏は日本とのGSOMIAを継続すると述べています。どのような考えですか?
野党 ユン・ドンミン氏
「GSOMIAは韓国と日本の間で必要な協定です。
北朝鮮のミサイルを探知する場合、あるミサイルは韓国軍がはやく探知でき、あるときは日本の自衛隊が先に発見して、各自が先に発見した側と情報を共有することが、ミサイルを追跡して迎撃し、国民を保護するために絶対に必要なことです。
(ムン・ジェイン政権が)GSOMIAを軽く見たことは、全く理解できません」

ミサイル発射を繰り返す北朝鮮 米中への対応は?

ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮。

今のムン・ジェイン(文在寅)政権は、南北関係の改善を最優先課題の1つに掲げ、対話を模索する姿勢を堅持してきましたが、新政権のもとで、北朝鮮への対応はどう変わるのでしょうか。

また、アメリカと中国の対立が続く中、韓国は両国にどのように向き合うのでしょうか。

与党 ウィ・ソンナク氏

Q:ミサイルの発射を繰り返している北朝鮮に対しては、どのように対応するのでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「北朝鮮が、最近、挑発のレベルを少しずつ上げており、極めて懸念すべき状況です。
まずすべきことは、北朝鮮の新たな挑発が引き起こす新たな形の脅威を分析し、どう対応するのが適切なのか、それを考えなければなりません。
2つ目は、状況のさらなる悪化を阻止し、どうすればこの状況を緊張と対決から対話と交渉に導いていくのか、それを考える必要があります。
そして、そのように対話と交渉で状況が変わる時に備えて、どんな交渉と方策をもって臨むのかを検討しておくのが、3番目の対処となるでしょう。
このような過程で、まずわれわれの軍事同盟のアメリカと緊密な協議を行うべきです。
また、韓国、アメリカ、日本の協力と調整を密接に行うのが重要だと思います」
Q:北朝鮮への対応で、ムン・ジェイン政権とはどのような違いがあるのでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「大統領によって、リーダーシップのスタイルや政策、哲学が違います。
イ氏が対北朝鮮政策で強調している2つの原則があります。
1つは北朝鮮の核問題の根源は複雑であるため、それへの対処も複合的であるべきだということです。
北朝鮮が核兵器を生存の目的でつくる以外にも、それをもって韓国、アメリカを脅かしたり、それをもって交渉カードとして活用したりしようという目的もあるなど、さまざまだということです。
2つ目の原則は、北朝鮮に対して柔軟に交渉を試みますが、約束を破棄したり、間違った行動をしたりする時は、それは間違っているとはっきりと指摘して、相応する対処をするということです。
対話と交渉、インセンティブ、しかし同時にディスインセンティブ、制裁圧迫。
制裁や圧迫も駆使するという点は、イ氏の哲学が表れていると言えます」
Q:対立が続くアメリカと中国に対しては、どのように対応していくのでしょうか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「米中関係において、韓国がどのように対処するのかは簡単ではない問題です。
アメリカは同盟国であり、中国はパートナー関係の国です。
同盟がより近い国で、パートナーは同盟ほど近くはありません。
しかし、中国は韓国に隣接した国であり、韓国とたくさん経済面で連携しています。
朝鮮半島の平和・安定から南北の統一に至るまで、大きな影響力を持つ国であるため、韓国が中国と良い関係を保つことは重要です。
韓国としては、同盟国、軍事安保的にも最も密接な国であるアメリカ、そして韓国と価値を多く共有するアメリカとの関係を基に、中国とのパートナー関係を発展させていくという方向で臨んだ方がいいと思います」
Q:日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国でつくる「クアッド」との協力については、どのように考えていますか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「それもまた韓国が同盟を基盤に、ほかの国々との関係を築いていく政策的方向といった脈略で判断できると思います。
クアッドが協力を進めている新型コロナウイルスのワクチンや気候変動、新技術やハイテク技術では、韓国も協力して、互いに有益な結果を見いだせる部分がたくさんあります。
クアッドと韓国が今よりもさらに協力できる部分がたくさんあると思います」
Q:イ・ジェミョン氏の全般的な外交政策の特徴をどのように表現しますか?
与党 ウィ・ソンナク氏
「イ氏は『実用外交』を標ぼうしています。外交的な事案を理念的に捉えたり、政治的便利主義で考えたりすることを非実用的だと考え、そのアンチテーゼとして実用性を強調することです。
そのため、国益を中心に実用を追求していこうというもので、現実主義にそって、国益を極大化するという趣旨です」

野党 ユン・ドンミン氏

Q:北朝鮮との関係についてはどのように臨みますか?
野党 ユン・ドンミン氏
「北朝鮮の核兵器に対して確実な、国民を保護できる抑止力を持たないといけません。その抑止力の中心は『拡大抑止』です。
アメリカとの信頼を、同盟関係を強固にして得られる『拡大抑止』をつくりだします。抑止力があってこそ、われわれが中長期的に北朝鮮の核問題を平和的に解決できるのです。
そしてもう1つ、ミサイル防衛です。
(公約では)国民を保護するミサイル防御をとても強調しています。
国民の安全を確保して、平和的解決の土台を整える抑止力を一次的につくり、その上で北朝鮮政策を柔軟に行います」
Q:ムン・ジェイン政権は北朝鮮に対話路線でしたが、この路線はどうなりますか?
野党 ユン・ドンミン氏
「(過去の政権の)継承すべき点は継承し、変えるべきは変えなければなりません。しかし、ムン政権は北朝鮮にあまりにも弱腰で、国民はがっかりしていると思います。
大切な点は、北朝鮮に対する制裁が非核化を引き出す非常に重要な要因であることです。実質的な非核化の進展と制裁の緩和はともに進められるのではないでしょうか。
そして、さまざまな人道支援などで前向きな変化を引き出す試みをやっていくと思います。
また北朝鮮の人権問題や人道問題に対する関心をユン氏は強く持っています。
その点もとても強調していくだろうと思います」
Q:北朝鮮に対する日米韓の安保協力をどのように考えますか?
野党 ユン・ドンミン氏
「韓国では日本との安保協力というとタブー視される状況があります。
しかし実際は、後方での日本の役割があり、また、韓米同盟による前方での役割があります。
それらが調和をなした状況になるべきです。
円滑にそういった(日米韓の)安保協力が行われる必要があります。
それが北朝鮮に対する強力な、平和を守る抑止力になると思います。
今のムン政権の場合はそうした認識がないため、韓国のそういった外交安保のスタンスを再び正常化すると考えればいいのではないでしょうか」
Q:アメリカと中国の対立が深まっています。中国とどう向き合いますか?
野党 ユン・ドンミン氏
「とても難しい問題です。ムン政権側の革新派の場合、中国への国民感情が悪化しているために韓中関係の強化を表だって言えない状況ですが、非常に中国を重視する立場です。
反対に保守派は同盟国アメリカとの関係を強化すべきという立場です。
われわれは地政学的に隣国の中国から逃れられない運命にあります。
中国と相互尊重するような戦略的な協力関係を深化していこうというのがユン氏の考えです。
韓米同盟を強固にしていく、そのことが結局、健全な中国との関係にも役立つと考えます」
Q:日本、アメリカ、オーストラリア、インドでつくる「クアッド」の枠組みに韓国も参加・協力すべきだと思いますか。
野党 ユン・ドンミン氏
「私はクアッドでも開かれたインド太平洋でも、韓国の新たな協力としてやっていくべきだという考えです。
おそらくユン氏もそう考えていると思います。
すでに韓国は、中国主導のAIIB=アジアインフラ投資銀行などにも加入しました。
しかし、なぜわれわれにとって必要な、そうした協力の枠組みに中国の様子をうかがって参加しないのか、おかしいと思います。
私は韓国は強固な韓米同盟を土台にして、多様な国際協力のネットワークに、区別なく、国益になるのであれば参加した方がいいと考えます」