全国で初 自己申告による「自主療養」3200人余が申請 神奈川

感染の急拡大でひっ迫する医療機関や保健所の負担を減らし、リスクが高い患者に対応を集中させようと、神奈川県は、重症化のリスクが低い人が市販の抗原検査キットなどで陽性になった場合、医療機関や保健所を介さずに療養することを選べる「自主療養」を始めました。
自己申告による療養を可能にする全国で初めての試みで、4日までに3200人余りが申請しています。

神奈川県では3日の時点で自宅療養者が6万1000人を超え、医療機関や保健所の業務のひっ迫が続いています。

県は、感染力は強い一方、若い世代は重症化しにくいとされるオミクロン株の特性に合わせた対策として先週、6歳以上49歳以下で基礎的な疾患がないなど、重症化のリスクの低い人が市販の抗原検査キットなどで陽性となった場合、医療機関や保健所を介さずに療養することを選べる「自主療養」を始めました。
希望する人は、オンラインのシステムに検査結果や年齢、既往症の有無などを登録し、県の担当部署が確認した結果、問題がなければ、勤務先などに提出する療養証明書をメールで本人に送ります。
先月28日から運用を始め、4日正午までに3230人が申請したということです。

一方、「自主療養」を選択した人は、医師が診断する感染症法上の患者には当たらず、毎日発表される感染者数には含まれません。
このため、感染の広がりの実態がわかりにくくなるほか、医師の診断が必要な民間の保険が申請できないなど課題もあります。

県は、高齢者の患者が増え始め、重症者が先週に比べて3倍近くに増えている状況で、限られた医療資源をリスクが高い人に集中させる取り組みが必要だと、理解を求めています。

診察受けられず選択 “何もないよりありがたい”

横浜市に住む小川貴之さん(45)は「自主療養」を選択した1人です。

先月29日に38度近い熱が出て体にだるさを感じたため、かかりつけ医に行きましたが、熱があるため診察を受けられず、市のコールセンターで受診先を紹介してもらうよう案内されました。

しかし、コールセンターにはなかなか電話がつながらず、30回以上かけてようやくつながったものの、紹介された医療機関はすでに予約がいっぱいだったり、電話がつながらなかったりして受診できなかったということです。

やむなく職場で配られた抗原検査キットで調べたところ、陽性の疑いがあることがわかり「自主療養」を選択したということです。
スマートフォンで自主療養の届け出を行い、そのときにLINEを使った県の健康管理システムにも登録し、毎日、健康状態を入力しています。
すでに熱も下がって症状もなくなったということで、今は「自主療養」に不安は感じていないといいます。

小川さんは「最初に受診したかかりつけ医で診てもらえるのが、いちばんよかったですが、何もないことに比べれば、こうした仕組みがあった方がありがたいです。医療機関にかかれないまま仕事を休むのは難しいと思っていたので、県に療養の証明書を出してもらえたことが助かりました」と話していました。

保健所のひっ迫 感染者増加で簡単には解消されず

神奈川県は、保健所の負担を軽減するためとして「自主療養」の導入に加え、健康観察や積極的疫学調査の対象も絞り込んでいます。
しかし、感染者数の高止まりが続き、県内の保健所では、業務のひっ迫は簡単に解消されないのが現状です。

横浜市神奈川区では1月23日以降、新規の患者が100人を超える日が続き、29日には、最も多い365人の感染が確認されました。
区の福祉保健センターは、医療機関から届く患者の情報をすべて確認し、リスクの高い人と、そうでない人を仕分けています。
このうち、高齢者などリスクの高い患者の割合が増加していて、1人当たりの健康観察に、これまでより時間がかかるようになっているということです。
また、独自の取り組みとして、健康観察の対象以外の人も含め、全員に携帯電話にメールを送り、症状を聞き取り、療養中の注意事項などを案内しています。
しかし、取材した日も、健康観察などの対象にならない人たちから、療養期間や濃厚接触者の判断基準について問い合わせが相次いでいました。
こうした業務を担うため、毎日10人以上の職員が応援に入っていますが、業務のひっ迫は、簡単に解消されないのが現状です。

神奈川区福祉保健センターの赤松智子医務担当部長は「患者数が増えているほか、自主療養を選べる人でも、やはり心配で医療機関にかかるケースもあり、負担が減っている感覚はない。職員でも陽性になる人もいて、感染が広がり続ければ保健所が機能しなくなる可能性もある。感染者数を減らすことが重要だ」と話していました。

発熱外来 予約殺到で断らざるをえず

県によりますと、感染の急拡大で、発熱などの症状がある患者を診察する発熱外来のおよそ60%は、患者の予約を断らざるをえない状況になっているということです。

川崎市にある「多摩ファミリークリニック」は、先月中旬に発熱外来で診察する患者数をそれまでの倍の一日40人に増やしましたが、それでも予約が殺到し、毎日、予約枠と同じくらいの人数を断っているということです。
取材した日も予約枠は1時間ほどで埋まり、担当者が次々にかかってくる電話に予約ができないことを説明していました。

大橋博樹院長は「予約を断らざるをえない状況だが、重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患がある人を優先して診察できるようにする必要がある。その意味で、重症化リスクが低い人が自主療養する仕組みは有効だと思う」と話していました。

県は「自主療養」開始で相談の増加見込み準備

自宅などで療養する人たちの体調が悪化した場合に備えて、県は一日1回、LINEや自動音声電話で健康観察を行っていて「自主療養」を選択した人も利用することができます。
さらにコールセンターを設け、必要な場合は県庁内に常駐する医師が病院を手配するなど、24時間体制で対応にあたっています。
コールセンターは、患者の増加に伴って相談も増えていて、先月2日には一日で141件でしたが、今月2日には4369件と、30倍以上になっています。
県は、自主療養の開始でさらに相談の電話が増えると見込んでいて、今月1日から電話回線を130回線から190回線に増やしました。

自主療養の人たちに対し、県は体調が悪化した場合はコールセンターに相談するよう周知しているほか、必要な場合はためらわず病院を受診したり、救急車を呼んだりしてほしいと呼びかけています。

県の対策統括官 “重症化リスクある人へ対応集約”

「自主療養」の仕組みの導入について、県のコロナ対策を指揮する医師の阿南英明統括官は「オミクロン株は重症化リスクが低い若い人にとっては、軽症の病気である一方、感染する力は強く、そう簡単には収束しない。これまでとは全く別のウイルスと考えて対策を変える必要がある」としています。

そのうえで「軽症の人がどんどん受診して、高齢者の受診先が見つからず対処が遅れるということが現実に起きつつあるので、これを早急に回避しなくてはいけない。今のままでは、みんなが共倒れになるので、自主療養によって受診する人を減らし、重症化するリスクがある人に医療や保健所の対応を集約することが重要だ」と話していました。