ビジネス特集

“恩送り”で社会は変わる!? ソーシャルビジネス 続出の理由

コロナ禍、環境破壊、人権、広がる格差…。こうした社会問題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」が盛り上がりを見せています。

ただ、社会問題の解決を図りながら利益を上げるのは簡単ではなく、資金調達が大きな課題です。そこで、注目されているのが仲間どうしの助け合いで「社会起業家」を支援する“ある取り組み”。

キーワードは『恩』。「恩返し」ならぬ「恩送り」です。

(経済番組ディレクター 田隈佑紀)

大手企業の社員や学生、主婦、医師も…

年が明け、仕事始めの最初の週末。ソーシャルビジネスに取り組む「社会起業家」を目指すおよそ60人が、オンライン上に集いました。

参加したのは主に20代から30代。大手企業の社員や学生、主婦、中には現役の医師もいます。

「“海のごみ問題”を解決する事業を立ち上げたい」
「障害のある方でも買い物がしやすい店を作りたい」
「働く人たちの“心の問題”を解決したい」

参加者たちは、みずからが解決したい社会問題を次々に挙げ、ビジネスプランを練っていきます。
この「養成塾」を主催したのは、「ボーダレス・ジャパン」。

社会起業家の創業を支援し、国内外でソーシャルビジネスを展開しています。この会社は“返済不要の資金”を出資してスタートアップを支援。そのノウハウや人材などを共有し、経営のサポートを行います。

会社が出資して立ち上がったソーシャルビジネスは、環境問題や貧困問題に取り組む企業など現在、世界15か国で40社余り。グループ化した企業全体の2020年度の売り上げは55億円に上り、年間10社ほどの新たな企業を生み出し続けています。
ボーダレス・ジャパン 鈴木雅剛 副社長
ボーダレス・ジャパン 鈴木雅剛 副社長
「コロナ禍で社会問題を目の当たりにする機会が増えて、『何のために生きているんだろう』『誰のために働いているんだろう』と本質的な人生の目的について考えた人も多かったと思います。そうした中で、誰かのために、社会のために貢献したいという人が本当に増えてきたなと感じています」

難民支援を目指し創業 課題は資金調達

そのうちの一つ、横浜市にある中古のパソコンの再生に取り組む会社です。

働いているのは、紛争や政治的な迫害などから逃れるために、難民申請をしているアフリカの人たちです。

企業などで使わなくなった中古パソコンを無償で引き取り、修理して販売。現在、難民申請中で労働許可を得ている4人を正社員として雇用し、これまでに3000台以上のパソコンを販売してきました。
この会社を経営する青山明弘さん、31歳。外国人向けのシェアハウス事業などを経験したあと、日本語が十分に話せない難民でも働くことができる場を提供し、リサイクルを通じた環境対策にもつなげたいと考え、5年前に起業しました。

ただ、社会課題の解決とビジネスの両立を図るのは簡単ではなく、創業当初は資金調達が大きな課題だったといいます。
ピープルポート 青山明弘 社長
ピープルポート 青山明弘 社長
「祖父母から戦争体験を聞いて、平和な社会をどうすればつくっていけるかに関心があり、世界で迫害、暴力を受けた人たちの助けになりたいと思ってこの会社を立ち上げました。ただ、事業を始めるにあたっては、難民申請をしている方の雇用・働く環境を最優先にして、利益のみを追求するわけではないので、資金面でビジネスとしてやっていくことは大変でした」
そこで青山さんの会社が利用したのが「ボーダレス・ジャパン」のシステム。返済不要の形で創業資金900万円の出資を受け、中古パソコンを販売するためのマーケティングなどの経営支援も受けることができました。

こうした支援を受けて、青山さんは少しずつ取引先を増やし、昨年秋には継続して事業を黒字化させることができたといいます。
青山明弘 社長
「時間はかかりましたが、何とか事業が軌道に乗ってきました。難民申請中の人たちから『働けて良かった』と言ってもらえるのが何よりの喜びです。利益を上げられるかわからない中で、資金支援や経営支援を受けられる仕組みがなければ、とても事業を始められなかったし、続けられなかったと思います」

返済不要の秘密は“恩送り”!?

「返済不要の形で出資して、次々と社会起業家を生み出す」
一体どのように成り立っているのでしょうか。

その秘密が“恩送り”というこのグループの独自のシステムです。
それぞれの社会起業家は、解決したい社会課題とビジネスプランを発表し、グループ企業の社長全員の承認が出ると、最大で1500万円の出資を受けることができます。

その原資となるのは、グループ各企業の利益。通年で黒字を達成した企業は、自社への投資分を除いた余剰利益を拠出。グループ全体でプールします。
出資を受けた企業は、資金の返済が要らない代わりに、事業が黒字化したあとは、利益をグループに提供して新たな起業家を支援する側に回ります。つまり、創業の際に受けた“恩”を、次の起業家に送る仕組みになっているのです。

グループ企業の中には、途上国などで生産された商品を公正な価格で買い付ける「フェアトレード」の商品の販売などで、利益が数億円にのぼるところもあります。

事業に成功した各社の利益を持ち寄ることで、その資金を利益の確保が簡単ではない別の起業家に回し、新たなソーシャルビジネスを次々に生み出そうとしているのです。
ボーダレス・ジャパン 鈴木雅剛 副社長
「寄付や補助金に頼らないビジネスだからこそ、継続的に社会問題の解決に取り組むことができます。ただ自分自身も、ソーシャルビジネスを立ち上げて資金を集めるのはすごく大変だったし、お金が無くなりかけた経験もたくさんありました。こんなに苦労するようでは次の社会起業家が生まれていきません。起業家どうしが協力し、助け合うことでチャレンジしやすくなる仕組みが必要だと考えました」

“恩はどんどん送りたい”

せっかく生み出した自分の会社の利益をほかの会社に送る…。

抵抗感はないのでしょうか?

住む場所を失った生活困窮者などに、警備や介護などの寮付きの仕事を紹介する事業を行う市川加奈さん、28歳です。

仕事の紹介を受ける生活困窮者は無料。就職後に企業側から報酬を受け取るビジネスモデルで、これまでおよそ400人を就職につなげ、自立を支援してきました。

提携する企業も増え、今では年間およそ2000万円を売り上げ、「恩を送る側」に回っています。市川さんは、自分の会社が生み出した利益の一部を、次の起業家に送ることはソーシャルビジネスを続けていく上でのモチベーションにもなっていると話します。
リライト 市川加奈 社長
リライト 市川加奈 社長
「利益が出るかわからない段階で支援してくれた“恩”を忘れることができないというのはもちろんありますが、『恩を送る』『資金を出す』ことで、自分ができていない他の社会問題に関わって解決につなげられるっていうのがすごくうれしいなと思っています。抵抗感はなくて、むしろ『どんどん恩を送っていきたい』と思っています」

“社会起業家の数だけ 問題解決”

「ボーダレス・ジャパン」では、今後、年間100社の新たなソーシャルビジネスの立ち上げを目標にしています。

SDGsなど社会課題解決の意識が高まる中、大手企業の新規事業の立ち上げや自治体との連携も始めているということです。
ボーダレス・ジャパン 鈴木雅剛 副社長
ボーダレス・ジャパン 鈴木雅剛 副社長
「ふだん生活していて、自分の身の回りで社会問題を目の当たりにして何とかしたいという思いを持っている人は実はたくさんいると思うんです。気付いた人たちが立ち上がって、その問題を解決していく社会起業家がたくさんいることが本当に大事だなと思っています。そうした方々が一歩踏み出し、事業としてもしっかりと継続できる環境をつくっていきたいと思います」
“もうかりにくい” “投資が集まりにくい”領域にこそ、解決しなければならない社会問題が多く残されていると考える起業家たち。

自分が受けた“恩”を“仲間”に送ることで、問題解決のためのビジネスの輪を広げていく。

志をともにする仲間どうしが、助け合いながら前に進んでいこうというシステムに、未来を切り開くヒントがあると感じました。
経済番組ディレクター
田隈佑紀
2010年入局
記者職を経て現所属
「社会課題解決」に関心

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