コロナ禍“東京一極集中緩和”23区は初の転出超過 この先は…?

コロナ禍で東京への一極集中が緩む動きが続いています。東京都への転入が転出を上回る「転入超過」の人数は去年、今の方法で統計を取り始めてから最も少なくなりました。さらに東京23区では初めて転出が上回る「転出超過」となりました。この先も一極集中緩和の動きは続くのでしょうか…。

■東京 転入超過も人数最少… 23区は初の転出超過

総務省が住民基本台帳に基づいてまとめた外国人を含む東京都の人口の動きは、去年1年間で転入者数が42万167人、転出者数が41万4734人となり、転入が転出を5433人上回る「転入超過」となりました。「転入超過」の人数は前の年より2万5692人減り、現在の方法で統計を取り始めた2014年以降、最も少なくなりました。

さらに東京23区でみると、転出者数が転入者数を1万4828人上回り初めて「転出超過」となりました。

■転出者 東京からどこへ…?

では東京から転出した人はどの自治体に移り住んだのか。去年1年間のデータをまとめました。

1. 道府県別では… 上位は東京隣接エリア

最も多かったのは
▽神奈川で9万6446人でした。
次いで
▽埼玉が7万8433人
▽千葉が5万8485人
▽大阪が1万8801人
▽愛知が1万3254人
▽福岡が1万1764人
▽茨城が1万1558人
▽北海道が1万1496人
▽静岡が9835人
▽兵庫が8461人

さらに
▽長野が7001人▽宮城が6358人▽群馬が6172人▽栃木が5950人▽京都が5518人▽沖縄が5132人▽新潟が4679人▽山梨が4479人▽広島が4311人▽福島が3946人▽鹿児島が2855人▽青森が2493人▽熊本が2426人▽岡山が2304人▽石川が2170人▽岩手が2092人▽岐阜が2017人▽三重が1961人▽山形が1878人▽長崎が1784人▽愛媛が1756人▽山口が1745人▽宮崎が1726人▽秋田が1697人▽奈良が1674人▽滋賀が1661人▽富山が1609人▽大分が1536人▽香川が1365人▽高知が974人▽佐賀が910人▽福井が880人▽徳島が844人▽和歌山が799人▽島根が786人▽鳥取が713人となっています。

2. 市町村別では… 東京近郊の都市で多い

最も多かったのは
▽横浜市で3万5736人でした。
次いで
▽川崎市が2万9318人
▽さいたま市が1万5597人
▽埼玉県川口市が1万838人
▽大阪市が9246人
▽千葉県市川市が9233人
▽相模原市が8363人
▽千葉市が8074人
▽名古屋市が7945人
▽千葉県船橋市が7518人

<神奈川 小田原>利便性のよさで人気

転出先のトップ「神奈川県」の小田原市は新幹線を使えば都心部まで30分という利便性のよさもあって移住先として人気です。特に新型コロナの感染拡大以降、東京都からの転入者が増えていて、総務省のまとめでは去年1年間で1000人以上が東京から小田原市に移り住みました。

3DKで8万円台 “仕事の生産性も上がった”

去年10月、小田原市に引っ越した小木曽一馬さん(31)と妻のなつめさん(32)はともに東京 新宿区のIT関連企業に勤めています。
これまでは毎日の通勤を考え都心部に住んでいましたが、コロナをきっかけにテレワークが本格的に導入され在宅勤務も増えました。さらに会社が去年「働く場所を社員が選択できるようにする」とした方針を打ち出したことが移住を後押ししました。

複数の移住先を検討する中で、1時間半ほどで新宿区の会社に通うことができ海や山などの自然も楽しむことができる小田原市を選びました。

東京 台東区に住んでいた時は1DKで月15万円台でしたが、今は3DKで8万円台。夫婦が別々の部屋でテレワークに集中できるといいます。今ではスキルを生かして小田原市の魅力を伝えるWEBサイトを立ち上げ、自然や伝統文化に触れる日々の生活を発信しています。

小木曽さんは「自宅で癒やされて集中できる環境も作れるため仕事の生産性も上がっています。今度は自分たちのように移住する人が増えて街が活気づくよう貢献したい」と話していました。

<千葉 流山>秋葉原から約25分 若い世代が増加

千葉県流山市は、全国からの転入者数が転出者数を上回る「転入超過」の数が増加しています。去年は3889人で全国の市町村の「転入超過」の数としては、さいたま市や横浜市など大都市が上位を占める中、9位となりました。さらに0歳から14歳の年少人口の「転入超過」は5位となっています。

東京 秋葉原からつくばエクスプレスでおよそ25分の利便性もあって移住する人が増え続けています。30代と40代の人口が高齢世代よりも多く、コロナの感染拡大以降も若い世代の人口増の傾向は続いています。

出産控え引っ越し “散歩しやすく公園もたくさん”

都内の会社でともにITエンジニアとして働く内村華奈さん(26)と祐之さん(31)夫妻はコロナ後、完全にリモート勤務となったことをきっかけに東京 北区から流山市に引っ越しました。

華奈さんはことし4月に出産を控えていて「駅前がすごくきれいで散歩しやすく公園もたくさんあるので、子どもができても遊びに行きやすそうだなと感じています。流山市はお母さんが多いと思うので出産してから交流したいです」と話していました。
流山市の井崎義治市長は「共働き世帯が仕事をしながら子育てができる環境整備に取り組んできたことが子育て中の若い世代に選ばれていると考えています」と話しています。

■地方も感染拡大前と比べると…

一方、東京都からそれぞれの道府県に転出した人の数について、新型コロナの感染拡大前の2019年と去年を比べた増加率をみると、東京から離れた地方への人の移動も増えたことがわかります。
増加率が最も高かったのは
▽鳥取で25.1%でした。
次いで
▽長野が19.6%
▽高知が19.2%
▽山梨が17.7%
▽徳島が17.4%
▽茨城が16.6%
▽鹿児島が14.5%
▽神奈川が12.5%
▽奈良が12.3%
▽熊本が12%

■コロナ禍で移住相談増加

東京 有楽町で移住希望者の相談に当たっているNPO「ふるさと回帰支援センター」ではコロナ禍で相談件数が増えていて、去年はこれまでで最も多い5万件近くの相談が寄せられました。年代別では20代から40代の人の割合が7割を超えているということです。

・東京 墨田区 30代男性(福岡県への移住相談)
「去年子どもが生まれた直後から妻の実家の北九州市で3か月ほどテレワークをしたが全く不便さを感じなかった。子育てをするなら東京よりも地方がいいなということもあり、子育て施策が充実したところを探しています」

・東京 板橋区 30代女性(佐賀県への移住検討)
「ことし友達と初めて旅行で佐賀に行った時に自然豊かな土地にひかれました。コロナで人とのつながりが薄れているなというのもあり、のんびりした土地で人とのつながりを大事にできる生活がしたい」
ふるさと回帰支援センター 高橋公理事長
「コロナ禍でスローな暮らしや自然と向き合った暮らし、豊かさを実感する暮らしといった多様な価値観が生まれていることが移住という選択肢に結び付いている。東京一極集中の是正のためにも成功事例を積極的に発信していきたい」

<北海道 東川町>“過密でもなく過疎でもない”

北海道東川町は移住者の受け入れを町の重要政策に掲げています。人口8300余りで、コロナ禍で外国人留学生などが減ったものの東京などからの移住者が増えています。

去年6月に東京から移住してきた遠又圭佑さん(32)は、コロナ禍をきっかけにライフスタイルを思い切って変えたいと移住を決断しました。東京のデザイン会社に籍を置いたまま移住しテレワークで仕事をこなしています。
町は単に移住者を増やすだけでなく長く定着してもらうため、役場に専門の部署を設置しました。それが「適疎推進課」です。過密でもなく過疎でもない、ほどよい疎という意味の“適疎”という概念を打ち出しました。
町はインターネット環境が整ったシェアオフィスの整備など移住者が生活しやすい環境整備を進めています。コロナ禍で移住者と地元の住民が交流する機会が減っているため、コミュニティーの形成も支援していくということです。

東川町の松岡市郎町長は「“適疎”な町が果たすべき役割があると思う。国内的な人の動き、特に東京で過密なところで働いてる人たちはもっと環境のよい所や子どもたちにとって生活のしやすい所に移住してもらい仕事をしてほしい」と話しています。

■「一極集中の潮目が変わったか しばらく様子をみる」

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 小林真一郎主席研究員
「東京には春先、就学や就職、人事異動などで多くの人が入ってくるがコロナの影響でこの動きがいったん止まっている。ただ感染が落ち着いてくれば通勤や通学に便利なところに住もうというニーズが再び出てくる可能性がある。今後テレワーク中心の働き方がどの程度定着するのかなどを見極める必要もあり、東京一極集中の潮目が変わったかどうかはもうしばらく様子をみないと分からない」

その一方で…
「少子高齢化や過疎化に悩んでいた地域にとって今の状況は大きなチャンスになり得る。住み続けたいと思ってもらえるような魅力あるまちづくりができればコロナ後も都市部への人口流出を止められるし、東京を含めた大都市圏から人を呼び込んでくることもできるかもしれない。ただ日本の人口は減少しており人の取り合いになってくるため、魅力あるまちづくりができる地域とできない地域で格差が出てくるだろう」