テレワーク つらいですか?

テレワーク つらいですか?
あなたは今、どこで働いていますか?
「全国どこに住んでも大丈夫!」
「飛行機通勤もオーケー!」
IT業界では働く場所の制限をなくし、国内ならどこに住んでもいいよう居住地の制限を撤廃する動きも出始めています。
しかし、NHKが主な企業に行った調査では「テレワークの規模を縮小する」と回答する企業も…。コロナ禍ですっかり定着したテレワークですが、課題も出てきているようです。模索が続く新しい働き方の最前線、徹底取材しました。
(経済部記者 岡谷宏基 早川沙希)

どこに住んでも自由!

「東京はもういいかなと思って、思い切って移住しました」

こう話してくれたのは、フリマアプリ大手「メルカリ」で働く西丸亮さん(33歳)です。
もともとは東京・六本木のオフィスに出社するため、都内に住んでいましたが、コロナ禍をきっかけに、地元の福島県いわき市に移住しました。

今ではすべての業務をテレワークで行い、採用の仕事をこなしています。
自宅では、一日中ひっきりなしにオンラインのミーティングが続く日もあるという西丸さん。

集中力を切らさないようにするため、さまざまな工夫をしています。

自宅の仕事部屋には、立っても座っても仕事ができるデスクやワイドモニター、椅子を新調。
パソコンに向かい続ける仕事ですが、座ったり、立ったりを繰り返すことで気持ちが切り替わるそうです。

いわき市の自宅は、4LDKの一軒家。

移住することで自分専用の仕事部屋を持つことができ、パフォーマンスもあがったと感じています。

こちらは西丸さんのある日の過ごし方です。
好きな仕事を諦めずに、プライベートも充実。

生活の満足度は以前より高まったといいます。

休日には車で海沿いをドライブしたり、自転車でカメラ片手に自然を散策したり、趣味も増えたと笑顔で話してくれました。
メルカリ 西丸さん
「都内に住んでいないので、流行などがキャッチアップしにくくなりましたが、地元に戻ったことで妻と一緒に住めるし、実家にも近いので、顔の見えるコミュニケーションが取れて、気持ちのオンとオフの切り替えが以前よりできるようになっています。
さらに副業で地元の高校で講演したり、地域の人材育成にも関わったりすることができて満足しています」

飛行機通勤もオーケー! 広がる変革

IT業界では、働く場所の制限をなくし、どこに住んでもいいよう居住地の制限を撤廃する動きが出始めています。

「メルカリ」では、コロナ禍でテレワークを進めるなか、西丸さんのように東京を離れる社員が増加。
去年9月から従業員およそ1800人を対象に、国内であれば住む場所や働く場所に制限を設けず、自由に選ぶことができる制度を導入しました。

新しい制度の柱の1つが、通勤費用の補助です。

仮に出社する場合は、月15万円まで会社が交通費を補助し、航空機の利用も認めています。

地方への移住に必要なのは上司の許可だけ。

西丸さんも2週間に1回程度、東京・六本木までJRの特急を利用して出社していますが、飛行機や新幹線を使って通勤する場合でも、事前に申請する必要はありません。

気軽に利用できるため、社員にも新しい働き方が浸透しているといいます。
IT大手「ヤフー」も、ことし4月から居住地に関する制限を撤廃し、国内であればどこで仕事をしてもいいように制度を改めることを決めました。

これまでは「午前11時までに出勤できること」が従業員の住む場所の「条件」でしたが、新しい制度では、どこに住んでもオーケー。

飛行機を利用した通勤も可能になり、住む場所の選択肢が大きく広がります。

IT業界を中心に広がる柔軟な働き方。

ヤフーの担当役員は、働き方の自由度を高めることで、優秀な人材の採用にもつながると話しています。
ヤフー 湯川 執行役員
「実際に飛行機通勤をする人は多くないかもしれませんが、『どこに住んでも大丈夫』という制度があることで社員に安心感が生まれ、より働きやすい環境になります。
採用の面でも、これまでコンタクトができなかった人にもアクセスでき、応募者にとってもメリットがあると考えています」

100社調査 テレワーク見直しも…

新型コロナの感染拡大から2年がたち、すっかり定着したテレワーク。

NHKが国内の主な企業100社を対象に行ったアンケート調査でも、「テレワークを実施している」と回答した企業が98社に上っています。

しかし、「今後のテレワークの継続」については意見が分かれました。
「テレワークを継続し、さらに規模を拡大したい」と回答した企業は10社。

「現状を維持したい」が38社に上った一方、「規模を縮小して継続したい」が8社で「その他」が41社に上ったのです。

テレワークはつらいですか?

アンケートで「規模を縮小して継続」と答えた企業の1つが、大手電機メーカーの「NEC」です。
なぜテレワークを縮小するのか、その理由を聞いてみました。

すると、「テレワークが定着するなか、社内外のコミュニケーションが減り、心身のコンディションが悪化する社員が増えている」と言うのです。
それが分かったのは、会社が3か月に1度、グループの社員5万人以上を対象に行っているアンケート調査でした。

テレワークが増えても、直属の上司や先輩などいわゆる「縦のつながり」は維持されていますが、ほかのチームや他部署の先輩などとの「横や斜めのつながり」が弱まったり、人脈を広げる機会が少なくなったりしていることが分かりました。
アンケートの回答
「1人暮らし、かつ発言機会のないリモート会議が続き、1週間、誰とも話していない」
「テレワークを続けていると『個』中心になりがち」
「顔の見えないお客様とのオンライン会議。コミュニケーションのコツがつかめない」
なかでも悩みを抱えていたのが新入社員です。
新入社員の回答
「先輩社員の顔がわからない」
「先輩社員の働きぶりが見えないので、1年後の到達点がわからない」
という声が寄せられたといいます。
NEC 森田カルチャー変革本部長
「アンケートをみると、特に新しいものを創造するときは、ずっと1人で働いていると悩んでしまうという回答がありました。
それは、人と人とのダイレクトなコミュニケーションで解決する部分なのですが、それがテレワークによって完全になくなってしまったと。
人間関係も何もない新入社員が『働いていくベース』をいかに作るかがいちばん大きな課題です。
リアルな場所をちゃんと確保するのが会社の重要な役割だと思いました」

オフィス改革でリアルの場を

会社では今もテレワークを継続し、社員の出社率は3割程度。

感染が再拡大するなか、オフィスへの出社を推奨しているわけではありません。

ただ、一定程度のリアルコミュニケーションの場は必要だと考え、オフィス改革を始めました。

都内の本社などでは、会社の同僚や取引先などと、出社時にしっかりコミュニケーションをとってもらおうと「共創空間」と呼ばれる空間を整備しています。
そのひとつが社内にある食堂です。
これまでは主にランチ時間しか社員が集まらなかった食堂を、日中の業務の際にも活用してもらおうと改装しました。
ゆったりとしたソファー席にカウンター席など、さまざまなタイプの座席が設けられ、すべての席にコンセントも設置されています。

また食事のメニューも充実させました。

パン職人やコーヒーをばい煎するバリスタも新たに雇用。
焼きたてパンやイラストが描かれたカフェラテも提供しています。
今はコロナ禍で使えませんが、夜間にお酒を提供するバーカウンターも設けています。
社員たちは早速、コミュニケーションの場として活用しています。
食堂を利用した社員
「在宅勤務は週に2、3日ありますが、綿密な相談が必要なとき、ひとりで孤独になって迷うこともあります。
今も感染が広がっているので、なかなか人と集まるのは難しいですが、会社の中で仲間とご飯を食べながら親睦を深められる場所があるのはすごくいいと思います」
食堂を利用した社員
「在宅勤務の日は集中してできる業務を、出社したときには、ディスカッションを中心に仕事をするように使い分けています。
リラックスした雰囲気で話すことで、アイデアがわくこともあります。こうした空間が増えると、出社した日の有意義な時間が増えると思います」
NEC 森田カルチャー変革本部長
「テレワークと出社を組み合わせた『ハイブリッドな働き方』は今後も続くとみています。
オフィスの意義は、これまでの『事務所』『職場』という考え方から、『コミュニケーションを取る場所』に変わってきていると思っています。
テレワークの普及で、もはや1人で働けるので、働く場所はどこでもいいんです。ただ、会社に来た日はコミュニケーションをとって、充電して、またおのおので働いて高いパフォーマンスを発揮してもらう。
トータルでどうパフォーマンスをあげていくかということにチャレンジしています」

ハイブリッドで創造性を

テレワークとリアルを使い分ける「ハイブリッド」な働き方。

「NTTコミュニケーションズ」も出社する社員を3割に抑えながら、空いたスペースを社外の人とコミュニケーションを生む場に作り替えています。
縦3メートル、横10メートルの巨大なスクリーンが設けられ、ふだんと違った雰囲気でプレゼンができるといいます。

遠隔でも操作できるロボットがフロアを走り回り、新しいアイデアが出やすいような環境を整えています。

コロナ禍で大きく変わった、私たちの働き方。

「コミュニケーションの希薄化」という新たな課題も浮き彫りになり、企業側でも、勤務制度を柔軟に見直したり、オフィスのあり方を変えようとしたりする動きが出ています。

どこで、どう働けば自分の能力を最大限に発揮できるのか。

感染拡大が続く中、自分事として考えていくことが大事だと改めて感じました。
経済部記者
岡谷 宏基
2013年入局
熊本局を経て現所属
情報通信業界を担当
経済部記者
早川 沙希
2009年入局
新潟局 首都圏局などを経て現所属
電機業界を担当