“半分”固体に商機あり!? 「いいとこ取り」電池の可能性は

“半分”固体に商機あり!? 「いいとこ取り」電池の可能性は
EV=電気自動車の開発競争が激しさを増すなか、EVに必要不可欠な「次世代の電池」の開発も、各社がしのぎを削っています。しかし、量産化の技術は確立されておらず、実用化にはまだ時間がかかるとみられているのも現状です。
そうしたなか、山形大学などが「いいとこ取り」の発想をもとに新たな次世代電池を開発しました。その可能性を取材しました。
(山形放送局記者 桐山渉)

世界で進むEV開発競争

「2030年に350万台の販売を目指す」
2021年12月にトヨタ自動車の豊田章男社長は、EVの販売台数の目標をこれまでよりも積み上げることを明らかにしました。

このほかのメーカーも含め、各社の間では今、EVの開発競争が激しさを増しています。

普及のカギは次世代の“全固体電池”

EVの普及のカギを握っているのが電池の性能です。

国内外の自動車メーカーが特に開発に力を入れているのが、電気をためたり放出したりするのに必要な電池内部の電解質に“固体”を使った「全固体電池」です。
全固体電池は、現在のリチウムイオン電池に比べ、蓄えられる電気の量が多く、その上、充電にかかる時間は大幅に短縮できると期待されている「次世代の電池」です。

ただ、量産技術が確立されておらず、実用化にはまだ時間がかかるとみられています。

リチウムイオン電池の課題は

各企業が全固体電池の開発に力を注いでいる理由の1つが、高い安全性にあります。

現在も車に使われているリチウムイオン電池は、電解質に可燃性の液体が使用されていて、ショートを防ぐためプラスとマイナスの電極の間にセパレータという部品が組み込まれています。
現在のEVには、そうならないよう電池や車体本体に対策が取られていますが、衝突事故などの強い衝撃によってセパレータが壊れ、電池が内部でショートしてしまうと、温度が上昇。

その結果、液体の電解質が気化して発生したガスに引火してしまうリスクもゼロではないのです。

“半分”固体に注目

そこで、山形大学、大阪市の化学メーカー「大阪ソーダ」、電池の開発を行っている米沢市のベンチャー企業「BIH」が共同で開発したのが「半固体電池」。

電解質に液体と固体の中間ともいえるゲル状の物質を使っていて、リチウムイオン電池に比べて発火のリスクを大幅に減らせるのが最大の特徴です。
電池にくぎを刺して、意図的に内部をショートさせる実験の様子です。

リチウムイオン電池からはすぐに煙が出ましたが、半固体電池には特に変化は見られません。

開発の中心となった山形大学の森下正典准教授は、開発になお時間がかかるとみられる全固体電池へのつなぎ役が必要だとして、半固体電池の開発を始めたといいます。
森下准教授
「電池の業界では全固体電池を主力に開発が進んでますが、商品化はまだ少し時間がかかるのかなと。今の液体の電池と全固体電池の真ん中ぐらい、半固体電池というものがマッチするのではないかと考え、開発を進めてきました」
森下さんたちは、量産化に適していて電池としての性能も申し分ない半固体電池の実現を目指しました。

ゲル状の電解質をつくるための原材料の組み合わせを本格的に探し始めておよそ1年。

タッグを組む化学メーカーが開発した化学物質「特殊ポリエーテル」を使うことが、半固体電池に適していることを突き止めました。
森下准教授らの実験によると、この物質を使うことで電池の耐久性も上がりました。

従来のリチウムイオン電池は、500回充電と放電を繰り返すと、ためられる電気の上限は新品の時に比べると2割ほどまでに低下していました。

一方、半固体電池は、500回繰り返したあとも、ためられる電気の上限は新品の時の8割を維持できていたのです。

さらに、既存の製造ラインを使って生産できるため、製造コストの面でもメリットが大きいといいます。

まずは身近な機器に

こうした研究が実り、半固体電池の特性を生かした具体的な製品として令和4年度中には充電機能を備えたスマホケースが発売される予定です。

それだけではなく、半固体電池を使った首にかけるタイプの扇風機や、頭のこりをほぐすマッサージ器などの製品化にも動き始めています。

高い安全性に加え、ゲル状の物質を使うことによって、曲げることもできるという半固体電池の長所を生かした家電製品を作ろうというのです。
森下准教授
「ウエアラブル機器は肌に身に着けるもの、非常に身近にあるものなので、そこにある電池が燃えるというのは事故につながります。そこに燃えない電池が使われるのであれば、安心してものを使っていただけますので、非常にマッチするのかなと考えています」

目指すはEV用の半固体電池

森下さんたちの最終的な目標は、EV用の半固体電池の実現です。

電池自体の大型化を進め、2020年代後半にはEV用の半固体電池を実現したいと研究を進めています。

今後は、電池の大型化とともに、低温などの環境では使用できる時間が短くなってしまう点などの改善を進める予定です。
森下准教授
「まだ改善しなければいけない部分がたくさんあるのかなと思っています。1つは低温ですね。山形は特に寒い地域ですので、こういった所でも安心して使えるような電池というのは作りたいなと思っています。欠点をいち早く改善して、より使いやすい電池というのを世に出していきたいなっていうふうには思っています」
全固体電池が実用化するまでの「つなぎ役」として開発が進められてきたという半固体電池ですが、森下准教授は、EV向けの全固体電池の量産化が実現したとしても一定のニーズはあるのではないかと見ています。

全固体電池は性能が高い反面、生産には新たな製造ラインが必要となるため、製造コストがかかります。

一方、半固体電池は既存のリチウムイオン電池の生産ラインを応用して製造できるので初期投資が少なくて済み、市場にも比較的安く投入できると見ているのです。

このため、街なかでのちょっとした走行など、『フルスペックの充電性能までは要らないけれど、安くEVを買いたい』というニーズに応えられるのではないかと期待しています。

安全性と製造コストの両面で「いいとこ取り」の山形発の電池。この電池が私たちの身の回りにあふれている、そんな日常は来るのでしょうか。

これからも注目していきたいと思います。
山形放送局記者
桐山 渉
平成28年入局
青森局、酒田支局を経て
現所属で経済分野の取材を担当