男性も更年期?当事者が語る症状 治療法は

男性も更年期?当事者が語る症状 治療法は
「なんだか疲れやすくなった」
「ささいなことにイライラする」

都内にある“男性更年期”の専門外来。コロナ禍で患者が増えているといいます。

最近、心身の不調を感じていませんか?
パートナーや家族にいつもと違うところはありませんか?
(ネットワーク報道部 高杉北斗)

こんな症状 ありませんか?

男性ホルモンの低下が原因で、女性の更年期症状に似た心身の不調が起こるいわゆる“男性更年期”。

こんな症状が起こると言われています。

1 性欲が低下した
2 元気がない
3 体力が低下した
4 身長が低くなった
5 毎日の楽しみが少ない
6 もの悲しい・怒りっぽい
7 勃起力が弱くなった
8 運動能力が低下した
9 夕食後にうたた寝をする
10 仕事がうまくいかない

これは、治療を行っている順天堂大学の堀江重郎教授が作ったチェックリストの項目です。
10項目のうち3つ以上当てはまる場合、もしくは1と7の両方が当てはまる場合は、“男性更年期”の可能性があるそうです。

これに加えて体調が悪い場合は医療機関の受診を勧めているといいます。

男性も10人に1人が経験

NHKが去年、専門機関と共同で行った調査では40代、50代の男性のおよそ10人に1人がいわゆる“男性更年期”の症状を経験していると答えています。
更年期の症状を現在または過去3年以内に経験した…9%
(40代50代の男性1万8800人をインターネット調査)
しかし、症状を経験したと答えた人に“男性更年期”と診断を受けたか聞いてみると、診断されたと答えた人は10%ほど。

ほとんどの人は診断も治療も受けていませんでした。
“男性更年期”と診断を受けた…10.5%
(症状のある男性1038人)

「気合いが足りない」気付かず症状が悪化

症状に悩みながら、なかなか治療に結び付かないのはなぜなのでしょうか。

兵庫県で整骨院を経営する福家正輝さん(47)。
いまから6年前、40歳を過ぎたころから、仕事が終わると、どっと疲れが出てスイッチが切れたように動けなくなりました。
私生活でもささいなことでイライラ。
2人の息子が少し騒いだだけでもカッとなって大声を出しました。
明らかに体調の変化を感じましたが、病院に行こうとは思わなかったといいます。
福家正輝さん
「当時は気の持ちようだとか、気合いが足りないからだと考えていました。時間がたてばよくなるだろう、季節が変わればなんとかなるだろうと思っていました」

自宅に帰るのもおっくう

治療を始めたのは、異変を感じてから4年がたったおととしの夏。
ちょうど整骨院の場所を移転して仕事が忙しくなっていたころでした。

けん怠感や気力の低下がひどくなり、仕事が終わるとバイクで10分ほどの自宅に帰ることさえおっくうになりました。

施術用のベッドで倒れ込むように横になったまま、気が付くと朝になっていることもたびたびあったといいます。
当時は底なし沼のようだったと語る福家さん。
かつて、ある漫画家が“男性更年期”に悩まされていると語る記事を読んだことがあり、ことばとしては知っていました。

家族との関係も悪くなる中、ようやく“男性更年期”の治療をしている泌尿器科のクリニックを受診することにしたのです。

男性ホルモン減少が判明 治療を開始

血液検査をすると男性ホルモンのテストステロンの値は、治療が必要なレベルまで下がっていました。
すぐに治療を始め、2週間に1回、注射で男性ホルモンを補充しました。
今ではホルモンの値は平均値まで回復し、注射は月に1回に減らしています。
イライラや気力の落ち込みは改善していると感じているそうです。
福家正輝さん
「治療を始めて、どなり散らすとか物にあたるといった衝動的なイライラが減ったと感じています。また家族からも昔に比べて元気になったと言われます」

治療につながらない人多い

長年、治療に取り組んでいる順天堂大学の堀江重郎教授は、症状に悩んでいても「男性更年期」について知らなかったり、知っていても抵抗感があったりして、治療につながっていない人は多いと指摘します。
順天堂大学 堀江重郎教授
「女性の更年期自体もまだまだ理解が深まっていませんが、男性についてはさらに知られていないと思います。体調が悪いのを耐えながら仕事している方の中に、少なからず症状に悩む方がいるのではないでしょうか。これは本人にとっても家族にとっても大きな損失です。なんだか不機嫌になった、趣味をしなくなった、疲れやすいなどいつもと違うなと感じることがあれば、迷わず受診してほしい。働く環境の変化によって起きやすく、特にコロナ禍で増えている印象です」

メカニズムは?

そもそも「男性更年期」はどんなメカニズムで起きるのでしょうか?女性の場合は女性ホルモンが急激に減少する閉経前後の10年間、おおむね45歳~55歳を更年期といいます。

一方、男性はゆるやかに男性ホルモンが減少するため、更年期の医学的な定義はありません。

ただ堀江教授によると、環境の変化などストレスによって男性ホルモンが減少することがあり、女性に似た心身の不調が起きると考えられているそうです。

治療法は?

ではどのような治療法があるのでしょうか。
堀江教授は、漢方薬や男性ホルモンの補充などの治療を行っています。
順天堂大学 堀江重郎教授
「泌尿器科ではまず問診を通して心身の不調の原因を他の病気の可能性がないかも含めて検討します。そのうえで、血液検査で男性ホルモンの低下が認められる場合は、漢方薬や男性ホルモンを補充する治療などを行います。補充療法では男性ホルモンのテストステロンを2~4週間に1回、腕やお尻の筋肉に注射します」
「3か月間程度行って効果を確認し、効果がある場合は1年間を目安に継続します。効果が現れない場合は、うつ病、脳の下垂体や甲状腺の病気など、他の病気が疑われるため、精神科や心療内科、脳神経内科、内分泌内科などの治療を検討します」
このほか、心療内科の視点から治療に取り組んでいる医師もいます。
大阪大学の石蔵文信 招へい教授が重視しているのは、丁寧なカウンセリングだといいます。
大阪大学 石蔵文信 招へい教授
「男性ホルモンが低下しても必ずしも全員に同様の症状が現れるわけではありません。このため男性ホルモンを補充するのではなく、患者のストレスを解消することが大切だと考えています。具体的には丁寧なカウンセリングを通して会社での人間関係、子どもの不登校など、ストレスの原因を見つけて負担を減らすこと。そして抗うつ剤など、適切な薬を処方することで症状の改善につなげます」