濃厚接触者 検査なしでも診断「死者数 最小化するため」専門家

厚生労働省は、オミクロン株の感染がさらに急拡大した際には、自治体が判断すれば、感染者の濃厚接触者に発熱などの症状が出た場合、検査を受けなくても、感染したと医師が診断できるなどとする方針を示しました。

これについて対策に当たっている専門家は、感染が急激に広がるものの、とくに若い世代で重症化するリスクが低いオミクロン株の特性に応じ、重症化リスクのある人への医療を確保し、亡くなる人の数を最小化するためのものだという認識を示しています。

これまでの感染拡大と異なる状況に応じた対応

オミクロン株は、各地で感染が急激に拡大していますが、重症化するリスクがデルタ株などよりも低いことが明らかになってきています。

国内のデータでも、基礎疾患や肥満のない50歳未満の若い世代は、ほとんどが軽症で特に治療を必要とせず、自宅での療養で自然に治ってきていることがわかってきました。

感染拡大の第5波までは、多くの人が重症化し、医療体制全体がひっ迫しました。

一方、オミクロン株は、爆発的に感染が広がる一方、軽症や中等症の人が多く、検査や病院の外来やクリニック、それに入院病床がひっ迫してきています。

このうち検査について、例えば東京都では、1月4日の時点で検査数の1週間平均が5300件余り、陽性率は2.5%でしたが、1月23日時点では、検査数の1週間平均はおよそ2万2000件と4倍余りになり、陽性率も28%と大幅に上がっています。

検査数が増えているのに陽性率も大幅に上がっていて、感染の急拡大に検査が追いついていない可能性が指摘されています。

また、入院病床の使用率は、内閣官房のデータでは1月23日時点で、まん延防止等重点措置が適用されている地域では、沖縄県で62%、広島県で54%、群馬県で53%、東京都で35%などとなっていて、重点措置の適用が了承された石川県で50%、大阪府と兵庫県で48%などと高くなっています。

さらに、オミクロン株では医療従事者でも感染者・濃厚接触者が多くなって業務継続が難しくなるなど、社会機能の維持が課題になってきています。

対策の目的は「死亡者数の最小化」

こうした中で、さらに急速に感染が拡大すると、これまでと同様に全員、検査して診断することが現実的に厳しくなると考えられています。

そこで、政府分科会の尾身会長ら、専門家は1月21日、オミクロン株に応じた対応についての提言を公表しました。

この中では、対策の目的は、重症化リスクのある人への医療を確保することで亡くなる人の数を最小化するなどとしています。

提言では、高齢者など重症化リスクのある人への医療を確保し、コロナ以外の一般診療とも両立する必要があるとして、感染がさらに急拡大した場合には「医療の機能不全を防ぐため、若い世代で重症化リスクの低い人については、必ずしも医療機関を受診せず、自宅での療養を可能にすることもあり得る」としました。

また、臨床現場からの意見として、感染が爆発的に拡大する中、薬を処方せず「自宅での療養」のみを求める場合は、「検査をしてもしなくても『接触を避け、自宅で安静にしてください』というお願いになるため、必ずしも検査を行う必要がないのではないか」いう声があったということです。

提言の背景には、検査にかかるスタッフや資材などを、少しでも重症化リスクのある人やコロナ以外の患者への対応に充てるという考え方があるとしています。

最大の課題は「医療体制確保」

提言をまとめた専門家は、軽症者で自宅で療養している人が重症化した場合に、素早く医療を受けられる体制を確保することが最も大きな課題だとしています。

自宅療養者が異変を感じたときに、すぐに医療や相談窓口にアクセスできるよう、コロナと診断した医師や医療機関がその後のフォローも行う体制を作ることが求められるとしています。

例えば、発症から5日以内に服用することが推奨されている飲み薬を重症化するおそれのある患者に届ける体制も必要になります。

また、検査を行わなくなった場合、新型コロナに感染したことをどう示すかや、感染症法上、全数把握することになっている感染者数をどう把握するかも課題になると考えられています。

さらに、専門家はこうした対応について新型コロナウイルスは今後も変異によって病原性が上がる可能性があり、オミクロン株だけに限ったものだとしています。
政府分科会の尾身茂会長は「一人ひとりをケアするのは医療の根本ではないかという議論もあったが、感染が急激に拡大する中で、ほとんど重症化しないことがわかっている人まで今の体制のまま、検査していると、医療の人的資源が足りなくなり、負荷がかかって深刻な状況になるということが専門家や現場の実感としてもある。専門家だけでなく一般の人たちにも考えてもらい、社会の納得が得られる、バランスがとれる対策を見つけることが大事だ」と話しています。