虐待で避難の学生に生活保護同程度の金額支給へ 神奈川 横須賀

保護者から虐待を受けて避難している大学生などに対し、神奈川県横須賀市が新年度から、生活保護と同程度の金額を支給する新たな制度を設けることになりました。

対象になるのは大学などに進学したあと、保護者から虐待を受けて自立援助ホームに避難する18歳から19歳の学生で、市の児童相談所が関与したケースに限られます。
単身の世帯に支給している標準的な保護費と同じ、月7万円余りの生活費と学校に通う交通費を生活が安定するまで最長1年半支給することにしていて、24日市議会で担当者が趣旨を説明しました。

市では去年、虐待を受けて自宅を出た女子大学生から生活保護を受給したいと要望を受けましたが、制度の対象外となっていることから独自に支援制度を設けたもので、議員から「国に生活保護の運用を変えるよう、要望してはどうか」などの意見が出されていました。
費用は市の基金で賄うことにしていて、新年度予算案に盛り込むことにしています。

横須賀市の上地克明市長は「制度のはざまで困っている目の前の人に対して、何かできないかという思いで知恵を絞りました。ただ、自治体独自の取り組みでは対応に限界があるので、国に対しても、生活保護制度の運用の改善を求めていきたい」と話していました。

きっかけは両親から虐待受けた女子大学生からの訴え

今回、横須賀市が新しい制度をつくるきっかけになったのは、両親から虐待を受けた女子大学生からの訴えでした。

市や支援者によりますと大学生は入学後も虐待が続いたため家から逃げ出し、市内のシェルターに避難したということです。
体調が安定しないため、アルバイトもできず、生活保護を求めましたが、制度の対象外になっているため、大学に通いながら受給することはできません。
横須賀市は国と協議したうえで、病気療養中にかぎり、短期間の受給を特例的に認めましたが、いずれ打ち切られます。

こうした状況を受けて、先月(12月)虐待を受けた若者の支援に取り組むNPO法人などが市に「大学生でも生活保護が受けられるようにしてほしい」と要望していました。

大学生が頼ることができる支援制度は少ないのが現状

虐待で急きょ親元を離れざるを得なくなった大学生が、頼ることができる支援制度は少ないのが現状です。

経済的に困窮する大学生や専門学校生については、昨年度から授業料の減免や返済不要の奨学金を支給する国の「修学支援新制度」が始まったり、各大学が独自の支援策を設けたりと、ここ数年、支援制度は拡充されています。
しかし、支援団体や専門家によりますとこうした制度は支給までに時間がかかったり、進学する前に申請が必要だったりするため、進学したあとに保護者から虐待を受けて避難した学生がすぐに利用するのは難しいといいます。

一方、自治体が必要と認めれば時間をかけずに支給が受けられる生活保護は、夜間以外の大学や専門学校に通っている場合対象外となります。
これは昭和38年に当時の厚生省が出した通知が根拠になっていますが、国の調査によりますと当時、15.5%だった大学や専門学校などへの進学率は、今年度は83.8%となっていて、制度の運用が時代に合っていないという指摘も出ています。

弁護士「新しい選択肢 女子大学生の魂とか人生救った」

今回の女子大学生も含め、虐待を受けた若者の支援にあたっている飛田桂弁護士によりますと、経済的な理由で進学を諦めたり、退学せざるをえない学生は少なくないということです。
虐待を受けた子どもは通常、児童相談所に保護されたり、児童養護施設で生活したりしますが、18歳以上になると利用できる施設や制度はほとんどなくなります。
虐待で親元から離れた大学生が、最後に頼った生活保護を受けられず、勉強を諦めたケースをこれまでも見てきたということです。

飛田弁護士は「新しい選択肢ができて、女子大学生の魂とか、人生を救ったといっても過言ではないと思っています。気付いたら逃げざるを得なくなって家を出た若者がすぐに受けられる支援は生活保護以外にはなかなかありません。すべての若者たちが学びたいという気持ちを実現できる社会になってほしいです」と話していました。

「大学生などに生活保護準じた形で生活保障 先進的な事例」

生活保護行政に詳しい立命館大学の桜井啓太准教授は、今回の横須賀市の取り組みについて「対象は限られているが、大学生などに生活保護に準じた形で生活保障を行うのは聞いたことがなく先進的な事例だと思う」と述べました。

そのうえで「大学生が何らかの事情で生活に困窮しても生活保護を受けられない、大学を辞めないといけない形になってしまっているのが現状なので、国の制度が変わっていくことが望ましいと思う。生活保護ですべて対応する必要はなく、奨学金や修学のための支援制度など、さまざまな形で経済的な負担を取り除いていくべきだと思う」と話しています。