大阪 東住吉の火事めぐる国家賠償請求訴訟 和解成立せず判決へ

27年前、大阪 東住吉区で小学生の女の子が死亡した火事をめぐり、再審=やり直しの裁判で無罪が確定した母親が、国などに賠償を求めている民事裁判は去年、裁判所が和解案を示しましたが、国側が受け入れず、和解は成立しませんでした。判決はことし3月に言い渡される予定です。

平成7年、大阪 東住吉区の住宅で11歳の女の子が死亡した火事では、母親の青木惠子さん(57)が、放火や殺人などの罪に問われ、無期懲役の刑で服役しましたが、平成28年に裁判がやり直され、無罪が確定しました。

青木さんは20年以上、不当に拘束されたなどとして、国と大阪府に対して賠償を求める民事裁判を起こしています。

この裁判について大阪地方裁判所は去年11月、早期の解決が望ましいとして和解を勧告しました。

そして国と府が、青木さんが完全に無罪であることを確認し、虚偽の自白をさせない取り調べの徹底などえん罪事件の再発防止策に取り組むとともに、和解金を支払う、などとする和解案を示しました。

しかし、青木さん側の弁護士によりますと、国はその後、非公開の和解協議に一度も出席することなく、21日までに応じないことを裁判所に表明したということで和解は成立しませんでした。

裁判所に判断が委ねられることになり、判決はことし3月15日に言い渡される予定です。

青木惠子さん「国にはえん罪をなくす気持ちがない」

裁判所の和解案を国側が受け入れず、和解が成立しなかったことについて、青木惠子さんは「裁判所がこれだけ審理をして和解を勧告したのに応じないのは裁判所をばかにしている。国はえん罪をなくす気持ちがなく、えん罪をまだまだつくるという宣言だ」とコメントしています。

青木さん側が公表した裁判所の和解勧告の全文

青木惠子さんが起こした国家賠償請求の裁判は、国側が裁判所の和解勧告に応じなかったため、早期の解決にはなりませんでした。

ただ、この裁判を担当している大阪地方裁判所の本田能久裁判長が去年11月に示した和解勧告は「冤(えん)罪」ということばの歴史をひもとくところから始める異例の表現で、その根絶の必要性を強調するものでした。

この中では、青木さんが冤罪の被害者であることを明確にしたうえで、寄り添い、その訴えに耳を傾けています。

一方で、そのことを否定するような警察や検察の対応を厳しく批判しています。

そして、刑事司法に携わるすべての関係者に、冤罪被害の根絶に向けた取り組みを強く促す内容になっていました。

以下、青木さん側が公表した裁判所の和解勧告の全文です。

いわゆる東住吉冤罪事件・和解勧告 大阪地方裁判所第16民事部・合議1係

1 冤罪の「冤」の文字は、うさぎが拘束され、脱出することができない状態を表しているが、一説によれば、この文字は、漢(紀元前206年~220年)の隷書の時代から見られるようである。

この文字の歴史は、古来、冤罪により、無実の人間及びその愛する家族らが、筆舌に尽くし難い精神的・肉体的・社会的苦痛を受け、かけがえのない人生を奪われ続けてきたこと、また、間もなく2022年を迎える現代においても、冤罪がいまだ克服されていない重い課題であることを、物語っている。

2 原告の青木惠子氏は、保険金を詐取する目的で自宅に放火し、長女を殺害した嫌疑により、約21年もの長きにわたり身柄を拘束された後、再審において無罪判決が確定した。

同判決において、青木惠子氏の捜査段階の自白に任意性が認められないと明確に判断され、検察官も、控訴を提起しなかった。

よって、青木惠子氏は、完全に無罪であり、もはや何人もこれを疑う余地はない。

本和解勧告も、青木惠子氏が完全な無罪であることを、当然の前提としている。

これに反し、当時の担当警察官は、青木惠子氏の面前で、今でも青木惠子氏が犯人であると考えている旨の証言をしたが、到底、採用することができない。

3 本件の各争点については、当事者間に鋭い対立がある。

しかしながら、少なくとも、青木惠子氏が無罪であるにもかかわらず、約21年もの間、身柄を拘束され続け、その御家族も含め、甚大かつ深刻な被害を被ったこと、青木惠子氏が今もなお苦しみ続けていることは、疑いのない事実である。

このような悲劇が繰り返されることを防止するとともに、冤罪により毀損された国民の刑事司法に対する信頼を回復・向上させるためにも、刑事手続きに関わる全ての者が全身全霊をもって再発防止に向けて取り組むべきであることについては、民事責任を争う被告らにおいても、否定されないと信じたい。

青木惠子氏も、二度と冤罪が繰り返されない社会の実現を切望して、本件訴えを提起されたと述べられている。

4 その上で、和解のために必要な限度で、争点についての所見を示す。

被告大阪府については、取調状況報告書の記載内容だけでも青木惠子氏に対して相当な精神的圧迫を加える取調べが行われていたことが明らかである。

被告国についても、上記取調状況報告書の取扱い及び警察官の証人尋問に関する検察官の対応には大いに疑問がある。

当裁判所は、上記3において説示したところに加えて、これらの所見をも踏まえ、被告らに対し、一定の和解金を連帯して支払うよう求めるものである。

なお、本和解勧告において提示した和解金額を含む当裁判所の所見は、当然のことながら本和解勧告の限りのものであり、今後の判決を拘束するものではないことを、念のため、申し添える。

5 以上を踏まえ、青木惠子氏の受けた甚大かつ深刻な被害に関する紛争を最終的に解決するとともに、古来繰り返されてきた冤罪による被害を根絶するための新たな一歩を踏み出すべく、当裁判所は、下記のとおり和解を勧告する。