犬と猫がペットショップから消える日

犬と猫がペットショップから消える日
半数以上の家庭がペットと暮らすフランス。この動物好きが多い国はいま、大きく揺れています。

再来年から、ペットショップで犬や猫の販売が禁止されることが決まったのです。

(ヨーロッパ総局 古山彰子記者、経済部 茂木里美記者)

ペット大国フランス

パリで暮らしていると、犬を見ない日はありません。

自宅を一歩出れば、飼い主と散歩中の犬と次々にすれ違います。電車に乗れば、飼い主に連れられて旅をする犬に出会います。カフェやレストランにも飼い主とともに入り、お座りして食事が終わるのをじっと待っています。

世論調査によると、フランスで何らかの動物を飼っている家庭は50.5%(2020年)。ペットショップでも、通りかかった人たちがショーケースの前で足を止めて、動き回る子犬の姿を眺める姿が見られます。

姿を消す犬や猫の店頭販売

ところが、こうしたペットショップでの犬や猫の展示や販売は、2年後の2024年には見られなくなります。フランスの議会上院は去年11月、動物の扱いに関する法律の改正案を可決しました。

新たな法律に盛り込まれた規定です。
・ペットショップなどで犬や猫の販売を禁止する
・動物のショーケースでの展示を禁止する
・インターネットで一般の人が犬や猫の販売を行うことを禁止する
犬や猫を飼いたい場合、正規のペットショップからインターネットを通じて購入、ブリーダーから直接購入、または保護施設からの引き取りなどに限られることになります。

捨てられる犬や猫が後を絶たない

なぜ厳しいルールが実施されるのでしょうか。背景にあるのは、捨てられる犬や猫が後を絶たない現状です。

フランスの動物保護団体によりますと、毎年10万匹もの犬や猫などが捨てられているといいます。それは5月から8月に集中しています。

時期が重なるのが「バカンス」です。フランスでは多くの人が、夏に数週間単位で休暇を取ります。動物保護団体は、バカンスの先に連れて行きにくいなどの理由で、ペットを手放す飼い主がいるとみています。

コロナが捨てられるペットを増やした

さらに今、バカンスの時期に捨てられるペットが増えていて、その背景には新型コロナの感染拡大があります。

動物保護団体によりますと、おととしの外出制限の期間中には室内で飼える猫を飼い始めた人が多くいましたが、その後、捨てるケースが相次いだといいます。
外出や出勤がふだんどおりできるようになると、世話をするのが面倒になったとみられます。

法案を提出した1人、ロイック・ドンブルバル議員は、ペットが衝動買いされ、捨てられていく現状を変えることが法改正のねらいだと強調します。
ロイック・ドンブルバル議員
「動物はいま、ただの商品として売られています。売り上げにしか関心のない店舗で展示されている姿を見てどう感じますか。深刻だと思いませんか」

問題のすり替えと反発の声

法改正にペット業界は強く反発しています。パリ市内のペットショップを回って取材したところ、店主や店員から「がっかりしている」「ルールを守りながら販売してきたのに、動物が捨てられることと安易に結び付けられている」といった声が多く聞かれました。

犬を専門に扱うペットショップの責任者が、思いを話してくれました。彼女は両親が50年前に始めた店を受け継ぎ、ショーケースに犬を展示しています。

通りかかった人や客とのふれあいが生まれ、特に子犬にとっては良い影響をもたらしていると考えています。犬がストレスを感じないように、閉店後は別室で休ませるなど、健康状態に注意を払っているといいます。
ペットショップの責任者
「問題なのは、スマートフォンのアプリを通してワンクリックで動物を飼い、すぐに飽きて捨ててしまう人が多いことで、問題点がすり替えられています。理不尽な理由でペットショップを廃業しなければならないことは、納得できません」

ペットをめぐる規制の動き 日本は?

大きな議論を巻き起こしながらも、ペットショップでの犬と猫の販売禁止へとかじを切ったフランス。ペットをめぐる規制の動き、日本はどのような状況なのでしょうか?

日本では今のところ、フランスのようにペットショップでの販売を禁止する動きはありませんが、ペットショップやブリーダーなど犬や猫を扱う事業者に対する規制は強化が進んでいます。
環境省では、飼育するケージの大きさや1人当たりが飼育できる犬や猫の頭数などに初めて数値基準を設ける省令を整備し、去年6月に施行しました。たび重なる出産の強制や、狭いケージといった劣悪な環境での飼育などを行う、悪質な業者に対する取締まりを強化するためです。

具体的には、運動スペースが分離されている場合のケージの大きさは、犬は高さが体高の2倍以上、縦は体長の2倍以上、横は体長の1.5倍以上の広さを設けること。猫は高さが体高の3倍以上、縦が体長の2倍以上、横は体長の1.5倍以上の広さにすることなどが新たに設けられました。

また、1人当たりが飼育できる数にも上限が設けられ、原則、犬は20匹まで、猫は30匹までと決められました。

さらに母体への負担を抑えるため、生涯の出産回数にも上限が設けられています。犬は6回まで、猫は回数の上限はありませんが、交配時の年齢は原則6歳までと定められています。

マイクロチップの装着も

ことし6月からは、犬や猫へのマイクロチップの装着が義務づけられます。マイクロチップを装着することで、捨てられた場合や災害などで生き別れになった場合でも、飼い主の情報を把握できるようになります。
ブリーダーやペットショップなどの業者には、販売用の犬や猫にマイクロチップを装着し、品種や毛の色などの登録を行うことが義務づけられます。また犬や猫を購入する際、飼い主も氏名や住所、電話番号などを登録することが義務づけられます。

こうした規制の強化について、法律を所管する環境省は、「悪質な業者がなかなかなくならないなか、動物の管理において適切な基準を設けるべきだという声を受けて改正にいたった。国としては、法律の適正運用に努めていきたい」としています。

私たちは動物とどう向き合う

フランスでは、ペットショップでの犬や猫の販売禁止に加えて、2026年にイルカやシャチのショーを禁止、2028年には巡回式のサーカスで野生動物の利用も禁止されることになっていて、動物をめぐる規制はさらに強化されます。


犬や猫は家族と同じかけがえのない存在で、大切に扱うのは当たり前と感じる方が大多数だと思います。一方で、人間側の都合で一部の犬や猫が苦しい境遇におかれているのも現実です。

社会全体でこの問題にどう向き合うか、立ち止まって考える必要がありそうです。
ヨーロッパ総局記者
古山 彰子
2011年(平成23年)入局
広島局、国際部を経て現在はパリを拠点にフランスの社会問題などを取材
経済部記者
茂木 里美
さいたま放送局
盛岡放送局を経て
4年前から現所属
デパートやコンビニなど
流通業界を担当