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18歳?20歳? “揺れる”成人式

鮮やかな振り袖に身を包み、久しぶりに再会した友人たちと写真に収まる若者たち。

コロナ禍が続くことしも全国各地で成人式が行われました。

しかし、ことし4月からの成人年齢の引き下げを受け、三重県のある自治体では成人式の対象を18歳に引き下げるのか、20歳のまま継続するのか議論が繰り広げられています。
(津放送局記者 鈴木壮一郎)

成人年齢の引き下げ踏まえ 成人式も18歳に

“忍者の里”として知られる三重県伊賀市では、ことし784人が新成人の門出を迎えました。

伊賀市は3年前、成人年齢が令和4年4月に20歳から18歳に引き下げられることを踏まえ、成人式の対象者も18歳に引き下げる方針を表明しました。
市議会での岡本市長の答弁(2019年12月)
このため変わり目となる来年・令和5年の成人式は、1月に20歳、3月に19歳、5月に18歳と、3つの年齢を対象に行われます。

そして再来年・令和6年以降は、毎年5月に18歳を対象に成人式が行われます。

つまり多くの新成人が高校を卒業し、新生活を始めた直後の5月に成人式を迎えることになります。

18歳?20歳?かみ合わない議論

全国の多くの自治体は、成人式の対象をこれまでどおり20歳とする方針です。

全国に先駆けて打ち出された伊賀市の方針に対し、一部の市民からは反発の声が上がっています。

市民グループ「伊賀市の未来を考える勉強会」は去年10月、これまで通り20歳を対象に1月に成人式を実施するよう求める要望書を7500筆を超える署名とともに市に提出しました。
要望書と署名を提出
その場で、岡本栄市長との意見交換の時間が設けられましたが、両者の意見はかみ合わず、議論は平行線をたどりました。
岡本市長
「変えるべき部分と変えてはいけない部分がある。これは変えるべき部分」
市民グループ
「それを誰が判断するのか?」
岡本市長
「行政、行政」
市民グループ
「真っ向から聞く気がないとしか捉えられない」

そもそも成人式とは

そもそも成人式とはどういう位置づけのものなのでしょうか。

「国民の祝日に関する法律」では「成人の日」は「おとなになったことを自覚しみずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日、と定められています。
成人式の歴史に詳しい上智大学の田中治彦名誉教授は次のように解説します。
上智大学 田中治彦名誉教授
田中名誉教授
「もともと1948年(昭和23年)に『成人の日』が制定された。当時、戦後の新しい新生日本を築く上で『こどもの日』と『成人の日』をペアでつくり、日本を担う次世代に期待するという意味で制定されたもの。

その意味で成人式というのは、これからの社会の形成者の若者に自覚を持ってもらうとともに成長をお祝いするという意味がある」
この「自覚」と「お祝い」という成人式の持つ2つの側面が、伊賀市における議論をかみ合わないものにしているのです。

“20歳成人式”がうらやましい

市民グループのメンバーの1人で高校3年生の東勢己葉さんは、市の方針によって来年3月に19歳で成人式を迎えます。

高校卒業後は県外で就職する予定のため、就職から1年足らず、さらに年度末と仕事の忙しい時期に帰省できるのか、不安を募らせています。
東勢己葉さん
東勢さん
「卒業から2年後に久しぶりに会って懐かしむのはすごく大切な感情のひとつだと思う。私が就職する地域でも、9割以上が20歳で成人式をするので、周りに理解してもらえない」
“20歳で成人式に参加したい”

市に自分たちの思いを伝えようと、東勢さんたちは当事者である市内の高校生約120人を対象にアンケートを実施しました。
「何歳で成人式をしたいか?」と聞いた結果、“20歳成人式”を希望する回答が約8割に上りました。
また市民グループのもとには、成人式の対象年齢を18歳に引き下げることで、式典が進学や就職の時期と重なり経済的負担が増えることや、式典への出席者が減ることを懸念する声も寄せられているということです。
市民グループのチラシ
1月9日、20歳の姉の成人式に付き添った東勢さんは…。
東勢さん
「18歳のお姉ちゃんと20歳のお姉ちゃんを見ていると、20歳のお姉ちゃんの方が大人らしくてかっこいい。“成長している”と感じて、いい姿だった。いい姿を見せることも恩返しになると思う」
そして、振り袖姿で友人たちと旧交を温める姉を見て、おもわず口からこぼれたひと言は「うらやましい」でした。
姉の成人式に付き添った東勢さん

伊賀市長「自覚を促すことが必要」

伊賀市はなぜ、“18歳成人式”を行うという姿勢を崩さないのか。

岡本市長は次のように説明します。
伊賀市 岡本栄市長
岡本市長
「成人年齢が18歳に引き下げられれば、本人たちの心の準備ができているか、できていないかに関わらず、社会からは大人としての振る舞いや行動を迫られる。

大人になりきれないかもしれないけれども、しっかりと本人が自覚をしない限り、18歳になった途端に、本人にとっていろんな不都合なことが生じたり、危険なことがあったりする。

我々、社会や行政も、そんなことのないようにしっかりと自覚を促すということが必要なのではないか」
ことし4月からの成人年齢の引き下げに伴い、18歳で親の同意がなくてもクレジットカードや携帯電話、アパートの契約などが可能になります。

さらに裁判員にも選ばれるようになることから、場合によっては人を“裁く”ことに関わる可能性もあります。

これまで以上に、大人としての自覚と責任が求められることは間違いありません。

お祝いや喜びを分かち合う場としての成人式を重視する立場と、成人になったことの自覚を促したいとする立場。

田中氏が指摘した、成人式が持つ「お祝い」と「自覚」という2つの側面が、伊賀市の成人式の年齢をめぐる議論を交わらなくさせています。

なぜ、成人年齢が引き下げられるのか

田中名誉教授は、背景には「なぜ、成人年齢が引き下げられるのか」という根本的な議論の不足があると指摘します。
田中名誉教授
「児童福祉法、労働基準法、国民投票法、公職選挙法。300以上の法律が18歳を成人としていく。世界では18歳が“大人”の国際的なスタンダードになっている。

そういう理由をきっちり説明しないまま、あるいは議論しないまま、18歳選挙権と成人年齢引き下げの法律改正が行われてしまった。やはり議論不足だと思っている。

こうしたことの議論や啓発は、市町村の役割でもあるし、教育機関の役割でもあるし、もっと言えばメディアの役割が一番大きいと思う」
さらに、これを機に“大人になる”とはどういうことか、より深く考えてほしいと呼びかけます。
田中名誉教授
「20歳であろうと18歳であろうと、子どもから大人への通過点だ。いっぺんに人間は子どもから大人になるわけではなく、10代前半から30歳位にかけて、徐々に大人になっていく。

その間に“自分は何をすべきなのか”“自分はどういう生き方をしていくか”ということを考えてほしい。これは、別に成人式が何歳であろうと考えていくことだと思う」

“大人になる”ってどういうこと?

今回取材した人たちに、自分が思う“大人”について聞いてみました。
「自分は“大人”だと思いますか?」

「あなたにとって“大人”とは?」
伊賀市 岡本市長(70)
「大人になったかと聞かれたら、申し訳ないけど大人になったかどうかはよくわからない。だけど大人になるべく努力はしている。その積み重ねが“大人になる”ということだと思う。

じゃあ、大人になるということは、どういうことかというと“人のために生きられる人間”であるか、それから“大きな目線で物事を考えられるか”それから“しっかりとした根拠に基づいて自分の信念を持ち、生きていけるか”ということだろう」
ことし4月に“新成人”
東勢己葉さん(18)

「“大人”について考えるんですけど、正直まだ『ん?』ってなる位、ピンとこない。自分の行動に責任を持って自分で判断できるようになったら大人なんじゃないかとは思うんですけど、18歳になった今でもそれはできていない。

まだまだ大人の力を借りて動くことしかできないので、大人になるのは、まだちょっと難しいかなと思う」
18歳と20歳の間で“揺れる”成人式。

その背後にある「大人とは何か」という問いは、若者たちだけでなく、私たち日本社会全体に対して向けられています。
津放送局記者
鈴木壮一郎
2008年入局
津局、神戸局、政治部を経て、再び津局に
成人式から16年もまだまだ子ども

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