大阪 ビル放火 発生からまもなく1か月 依然トラブル見つからず

大阪 北区のビルに入るクリニックが放火され、巻き込まれた25人が死亡した事件の発生からまもなく1か月です。容疑者が死亡し、動機が解明できない中、警察は周囲への聞き取りなどを進めていますが、クリニックとの間には依然として事件につながるようなトラブルは見つかっていません。

先月17日、大阪 北区曽根崎新地のビルの4階にある心療内科のクリニックが放火された事件では、巻き込まれた25人が死亡、1人が重体になっています。

警察はこの26人とは別に、一酸化炭素中毒で重篤な状態となっていた谷本盛雄容疑者(当時61)について、殺人と放火の疑いで捜査していましたが、先月30日、入院先の病院で死亡しました。

警察は周囲への聞き取りなどを進めていますが、依然として谷本容疑者とクリニックの間には事件につながるようなトラブルは見つかっていないということです。

一方、容疑者は、事前に購入したガソリンをまいて火をつけ多くの人を巻き込んだとみられ、関係先の住宅からは過去の放火事件の新聞記事が見つかるなど、事前に計画したうえで強い殺意を持って事件を起こしたとみられています。

現場のクリニックには数年前から通院していたということで、警察は電子カルテを復元するなど引き続き捜査を進めるとともに、今後、容疑者を書類送検する方針です。

これまでのガソリンめぐる規制強化

ガソリンを使った凶悪事件は、過去にもたびたび起きていて3年前、「京都アニメーション」のスタジオが放火され、36人が死亡した事件でも、ガソリンが犯行に使われました。

死亡した谷本容疑者の関係先の住宅からは京都アニメーションの事件を含む過去の放火事件の新聞記事が見つかっていて、警察は容疑者が過去の事件を参考に計画を立てた疑いもあるとみて捜査しています。

京都アニメーションの事件を受けて総務省消防庁はおととし2月に「危険物の規制に関する規則」を変更し、ガソリンスタンドがガソリンを容器に詰め替えて客に販売する場合には、▽運転免許証などで本人確認を行うこと、▽使用目的を確認し、販売した日時、量などの記録を作成することを義務づけていました。

ガソリンスタンドに対する持ち帰り販売自粛要請 府内8自治体でも

大阪 北区のクリニックの放火事件のあと、大阪市は市内すべてのガソリンスタンドに対し、新規の客へのガソリンの持ち帰り販売を自粛するよう要請しました。

同様の要請は大阪府内でほかの8つの自治体でも出されていて、事件の再発防止に向けた模索が続いています。

捜査関係者によりますと死亡した谷本盛雄容疑者(当時61)は事件で使用したガソリンを去年11月、大阪 西淀川区内のガソリンスタンドで購入したとみられています。

このガソリンスタンドには、容疑者が本人確認のための書類を提示した履歴が残っていたということです。

今回の放火事件を受けて大阪市は市内にある248すべてのガソリンスタンドに対し、過去に販売実績がない新規の客へのガソリンの持ち帰り販売を自粛するよう要請しました。

要請にあたって大阪市の松井市長は「法律に基づくものではないが、罪のない人が事件に巻き込まれるリスクを少しでも減らしたい」と述べました。

一方、NHKが大阪府内の各消防本部に取材したところ、大阪市と同様の販売自粛の要請は池田市、吹田市、堺市、高石市、大阪狭山市、摂津市、貝塚市、交野市でも出されていることがわかりました。

自粛要請の期限などは定められておらず、事件の再発防止に向けた模索が続く中で、市民の生活や事業者への影響も予想されます。

ガソリンスタンド経営者「新規客かどうかの確認 難しい」

ガソリンスタンドに出された販売自粛の要請に、現場は難しい判断を迫られています。

取材に応じた大阪市内のガソリンスタンドには近くの工事現場で働く作業員らが発電機に入れるためのガソリンなどを買い求めにやってきます。

店は規則に従い、購入した人の氏名、購入日時、量などの記録をすべてファイルにとじて保管していますが、客が来るたびに記録をさかのぼり相手が新規の客かどうかを確認するのは事実上、難しいといいます。

店の経営者の男性は、「ほかの県から大阪に仕事のために来ていて、ガソリンが必要になることも考えられるし、お客さんを最初から疑ってかかることもできない。本人確認や用途の確認にも応じてくれたら売るのを断るすべはない」などと話し、新規とみられる客であっても販売を続けざるをえない現状を語りました。

男性は「店にとっては、『前にも入れてもらった』と言う相手に売らなければトラブルにもつながるし、ガソリンを自由に買えないと現場の仕事が前に進まなくなり社会問題にもなると思う」と話していました。

建築会社「使う側の問題 理解してほしい」

住宅の基礎工事などを手がける東大阪市の建築会社は、電源が無い現場で作業をするための発電機や、地盤の強度を測るための調査機器などをガソリンで動かしています。

機械は重量があって簡単には運べず、現場での作業を止めないためには、携行缶のガソリンがどうしても必要だといいます。

この会社の男性社員は、「携行缶でガソリンを買えなくなれば、頻繁に作業が止まり時間のロスだらけになってしまう。仕事が終わらず自分たちも大変だが、工程がずれて顧客も困る。悲しい事件が起きてしまい、規制を強化した方がよいという気持ちは分かるが、ガソリンは欠かせないもので、使う側の問題だということは理解してほしい」と話していました。

業界団体 “国が法規制検討を”

ガソリンスタンドなどの業界団体は、悪意を持った人物がガソリンを購入することを、店や従業員が見抜いて止めることには限界があると主張し、国が法規制を検討するよう、求めています。

全国石油商業組合連合会の加藤文彦副会長・専務理事は「責任を担わされる現場が大変困惑している実態がある。農業に従事する人や重機を使う人など、ガソリンが必要な人は事前に消防当局に登録し、店には登録証を持って買いに来てもらうような制度が安全と命を守るためにはあってよいのではないか」と話しています。

専門家「“拡大自殺” 一般的な犯罪と区別し より厳しい規制を」

犯罪やテロ対策に詳しい日本大学危機管理学部の福田充教授は、危険物の購入履歴を残したり購入を規制したりすることは、一定の抑止効果があるとしたうえで、「犯人が自暴自棄になり多くの人を殺して自分も死のうと考える、いわゆる“拡大自殺”を図るようなケースについては、履歴を残してもほとんど抑止力はないのではないか。そうした犯罪を抑止するためには、一般的な犯罪とは区別したより厳しい規制が必要になる」と話しています。

一方で福田教授は「過去の犯罪歴をデータベース化して購入できないようにしたり、履歴の監視を強化したりすれば安心安全は高まるが、人々の自由や、人権、プライバシーを犯してしまうことになる」などとして、法規制のあり方については慎重に議論する必要があると指摘しました。

また、法規制を行う場合には、都道府県ごとにルールが異なると抜け道ができてしまうとして、国単位で行うことが望ましいと話していました。