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広がる「ナラ枯れ」被害 ~早期発見の新研究に期待~

木くずがたまり、無数の穴が空いた木。

全国でいま、ミズナラなどの木が枯れる「ナラ枯れ」の被害が広がっています。昨年度は42都府県で発生し、その被害量は19万2000立方メートルに及んでいます。

ナラ枯れは木を枯らすだけでなく、木が雨や風で折れやすくなって根元から倒れることもあり、人や民家などに危険が及ぶことも懸念されています。

被害を食い止めるための対策は待ったなしの状況で、ナラ枯れを効率よく迅速に発見するための新たな研究が始まっています。
(甲府放送局記者 清水魁星)

全国で広がる「ナラ枯れ」

「ナラ枯れ」は、ミズナラやコナラなどの木で起きる伝染病です。
原因は体長5ミリほどの昆虫「カシノナガキクイムシ」が媒介する「ナラ菌」という病原菌で、感染すると木の水を吸い上げる機能が妨げられ、枯れてしまいます。
1980年代以降、日本海側を中心に拡大し、最近では全国的に被害が増加しています。

昨年度は42都府県で発生し、その被害量は19万2000立方メートルに及んでいます。

ナラ枯れの木を放置すると、翌年には数百匹のカシノナガキクイムシが発生して周辺の別の木を新たに枯らしてしまうほか、枯れた木は雨や風で折れやすくなって根元から倒れることもあり、人や民家などに危険が及ぶことも懸念されています。

森林で囲まれた山中湖村で広がる被害

県の面積の8割を森林が占める山梨県。

2年ほど前、3つの村と町でナラ枯れが初めて見つかりました。

現在は、15の市町村に被害が拡大し、深刻な問題になっています。

その中でも最も被害が大きいのが、富士山のふもとに位置し豊かな自然を目当てに多くの観光客が訪れる山中湖村です。
去年、村の森林で確認されたナラ枯れは県内で最も多いおよそ3000立方メートル。

一般的な大きさの木で換算すると4600本分に上りました。
さらに、幼稚園や民家の敷地など人の生活圏でも600立方メートル、1000本分ほどのナラ枯れの木が見つかり、人や民家などに被害がおよぶ危険が高まっていることが分かりました。
村の職員
「山中湖村にはミズナラの木が比較的、住宅のすぐ近くに多くあります。ナラ枯れの被害を正確に把握して対策を取らなければ村民に危険が及ぶ可能性もあって、早期に対応する必要があります」

被害調査は根気のいる作業

調査する職員
村の職員がこの日訪れたのは村内にある寺。

枯れた木があるという連絡を受けて行ってみると、建物や墓のすぐそばに植えられたミズナラの木が枯れていました。
住職
寺の住職
「ニュースでナラ枯れのことを知って、寺にある木を見たら枯れていました。いつ枯れたかわからないのですが、あっという間に枯れたと思います」
村ではタブレット端末の専用アプリを使って調査を行っています。

職員たちはナラ枯れの木を見つけるとアプリで位置を記録し、木の種類や太さ、建物が近くにあるかどうかや電線の有無など、およそ10項目を入力して送信します。
これらのデータは、木の枯れ具合に応じて3種類の色別にオンライン上の地図に表示され、ナラ枯れの分布や住宅の近くにあるかなど、危険かどうかが一目でわかる仕組みになっています。
この方法を活用すると正確に被害を把握することができますが、職員が現場に足を運び、1本1本、木の状態を確認しなければなりません。

村が今年度配置した担当者はわずか5人。

通常の業務をこなしながら連日、現場に足を運びましたが3か月かけても終わらず、調査は打ち切りとなりました。
村の職員
「調査が終わったのは全体の8割くらいです。冬になって木の葉が落ちてしまっていて、健康な木なのかナラ枯れの木なのかを判断するのに時間がかかりました。

また被害が想像以上に広範囲で、調査を途中で断念しなければならなくなりました」

“ドローン”と“AI”を活用

人手が限られる中、効率よく被害を把握する方法はないか。

村からナラ枯れの相談を受けて対策を検討しているのが東京大学の三浦直子助教です。

三浦さんは現在、ドローンとAI=人工知能を活用した新しい仕組みの研究を進めています。
三浦助教(左)
三浦直子 助教
「さまざまなデータを集めてナラ枯れの被害をできるだけ効率よく、自動で判別できるシステムを作りたいと考えて研究を行っています」
三浦さんはまずドローンを使って上空から森を撮影し、木の位置や画像などのデータを集めました。
そして集めた木の画像を「健康なミズナラ」「ナラ枯れ」「それ以外の木」の3種類に分けてAIに学習させました。

AIがこれまでに読み込んだ画像は8万5000枚。

大量の画像を読み込むことでナラ枯れの特徴をAIが学習し、99%以上の確率でナラ枯れかどうかを見分けられるようになってきました。
左から「健康なミズナラ」「ナラ枯れ」「それ以外の木」
まだ試験段階ですが、完成すれば、人が1本1本、木を確認しなくても、ドローンで撮影した森の画像からナラ枯れの木を見つけられるようになります。
三浦直子 助教
三浦助教
「いまはまだ調査員が山などに入ってナラ枯れかどうかを目視で判断していますが、この方法が活用できるようになれば、一度に広範囲の森林の被害状況を把握することもできるし、道路や住宅のデータと組み合わせれば、特に危険がある木を自動的に抽出することも可能になると思います」
さらにこうしたナラ枯れのデータを毎年蓄積することで、将来、ナラ枯れになる可能性が高い木を見つけたり、次の年の被害を予測したりすることも可能になるといいます。
三浦助教
「ナラ枯れ調査の効率化に非常に役に立つと思うので、山中湖村だけでなく全国で活用できるシステムを作っていきたいです」
村の職員
村の職員
「山など調査が難しいところをドローンに任せることができれば、私たち職員は住宅周辺の調査や、ムシの駆除、危険な木の伐採に集中することができるため、より効率よく調査を行うことで被害の拡大を防ぐことができると期待しています」
山梨県だけでなく全国でも被害が広がっている「ナラ枯れ」。

ドローンとAIを使った三浦さんの研究は、ナラ枯れ被害を正確に把握し拡大を食い止める革新的な技術開発につながるとして、NEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受けていて、現在、民間企業と協力しながら実用化に向けた研究が進められています。
甲府放送局記者
清水魁星

2020年入局
県警取材、遊軍を経て現在は県政・甲府市政を担当

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