おやじ、会える日まで頑張れ ~オミクロン株で再び面会制限~

おやじ、会える日まで頑張れ ~オミクロン株で再び面会制限~
繰り返される感染の拡大。
男性はずっと会えないままの父親に画面越しに呼びかけました。

「おやじ、会えるようになるまで頑張ってよ。ねぇ、おやじ!」

病院のベッドで寝たきりの父親の表情が、かすかに変わるのがわかりました。
一緒に来ていた母親がつぶやきます。

「お父さん泣きそうだね。私たちのこと、わかるんだね…」

再び対面できる日を信じて、家族は待ち続けています。
(ネットワーク報道部 記者 柳澤あゆみ)

10分間の幸せ

去年11月、新型コロナの感染状況は今とはまったく違っていました。
都内の1日の新規感染者数は2桁台。
医療機関は入院患者と家族との面会を徐々に再開し始めていました。

その頃、撮影された写真には夫の天野洋介さん(80歳)の顔をそっとのぞき込む妻の天野幸子さん(81歳)が写っています。
2人が直接、会うのは1年半ぶりのことでした。
大好きなお風呂に入れてもらった直後の洋介さんはずっと眠っていたそうです。
それでも顔色を確かめ、頭をなで、手を握ることができました。

幸子さんにとって、久しぶりにほっとできた瞬間でした。
妻の天野幸子さん
「オンライン面会ではすごくやせた感じがして、前とは違うなと思っていたので。実際に会ってみたら顔色もよくて元気な様子で、手を握り返されると大丈夫だなって。1年以上会っていなくて、ちょっと力が抜けたなっていう感じはあったんですけど、まだいくらか力が残ってるなって」
ことばを絞り出すように語る幸子さんの目には、涙が浮かんでいました。

一家の大黒柱が…介護の限界

重量物を専門に運搬する会社を立ち上げ、家族を養ってきた洋介さん。
若い頃は休日も昼夜も問わず働いていたといいます。

体調を崩したのは8年前。
脳炎を患い、体の自由が利かなくなり介護が必要となりました。
家族ははじめ、自宅で介護することにしましたが、24時間の介護は想像以上に大変でした。
2年ほどで家族は体を壊しかねないところまで追い詰められ、洋介さんは特別養護老人ホームに入ります。
当時、幸子さんは毎日欠かさず会いに行き、夕飯を食べさせました。
今思えば、幸せだったと語る幸子さん。
状況が変わったのはおよそ2年前でした。
誤えん性肺炎で入退院を繰り返すようになった洋介さんは、医療的なケアができる今の病院に移ることになりました。

そのころ新型コロナの感染が拡大。
毎日、会いに行く日常は突然断ち切られたのです。

会いたい、でも

会えなくなってからも、幸子さんは毎日のように病院を訪ねました。
洋介さんの寝具や寝巻きなど洗濯物を受け取り、新しいものを渡すためです。

洗濯を病院に任せることもできましたが、少しでも家のにおいを感じて、やすらいでほしい。
会えないけれど、できるだけ面倒を見たい。
そんな思いからでした。
息子の周之さんはそんな母親を病院まで送り迎えするのが日常になっていました。
最後に直接会ってから、1年半がたとうとしていた去年11月。
病院から面会を限定的に再開すると知らされました。
感染を防止するため、面会できるのは1人だけ、10分間のみ。

周之さんはまず母親の幸子さんに会ってもらうことにしました。
夜も寝つけないほど洋介さんの体調を心配していたからです。
息子の天野周之さん
「面会のあと、安心して帰ってくるおふくろを見て、やっぱり実際に会うのと画面越しでは全然違うんだなと感じました。オンラインでの面会は何度かできましたが、画面越しだと一方通行じゃないですか、語りかけても。目の前で触れたりするのでは、やっぱり、全然、安心感が違うのかなと思います。今のおやじは、どういう風なおやじなのかはすごく見たいし、会いたいですね」
このとき、周之さんは自分もすぐに会えると考えていました。

しかし病院が面会で受け入れるのは1日5人程度。
予約の順番を待っているうちに感染が拡大し、面会のめどは再びたたなくなってしまいました。

会えない日常ではなく、会える日常がほしい

年明け、1月5日。
オミクロン株の感染が急拡大する中、再び面会が禁止された病院に、天野さんたちの姿がありました。
いつものように洗った洗濯物を病院のスタッフに渡します。

そこで思いがけない提案を受けました。
オンラインの面会室がたまたま空いているというのです。
周之さんにとっては画面越しでも父親の顔を見るのは3か月ぶりのことでした。
「おやじ!あけましておめでとうございます。おやじ!聞こえる?」
何回か呼びかけると目をあけました。
「おやじ、会いに行くからね。会えるようになるまで頑張ってよ。ねぇ、おやじ」
画面越しに表情がかすかに変わるのがわかりました。
一緒に来ていた幸子さんがつぶやきます。
「泣きそうだよ。ほら、私たちのこと、わかるんだ…」
息子の周之さん
「ずっと言ってますけど、早く、コロナ禍の前の日常を取り戻したい。いま、コロナ禍で、会えなくても仕方ない、会えなくてもそれが当たり前みたいになってしまっている。そういう葛藤があります。会えないことが日常になってほしくない。コロナはなくならないかもしれないけど、会える日常を取り戻したいと願っています」
繰り返される感染の拡大。
大切な人と会えない日々が続いている人たちがいます。

感染すれば重症化するリスクのある人とその家族は、どのようにこのコロナ禍を乗り越えようとしているのか。
取材を続けていきます。