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松山ケンイチが「演じた」沖縄

Where have all the flowers gone,long time passing?
(花はどこへ行った? 長いときが過ぎた)
Where have all the flowers gone,long time ago?
(花はどこへ行った? 遠い昔に)
《「花はどこへ行った」/作詞:ピート・シーガー》
少女の歌声とともに舞台の幕は上がった。

沖縄の本土復帰50年に合わせて上演が始まった「hana-1970、コザが燃えた日-」。

2か月近くにわたって取材を続けた私たちの前で、主演の松山ケンイチさん(36)は、いつも厳しい表情を浮かべているように見えた。

本当に自分は“沖縄”のことを伝えられるのだろうか…

稽古の果てに、その答えは見つかったのか。
(科学文化部 信藤敦子)

「自分が演じる意味はある」

去年11月末、松山さんは演出陣、そして共演者と初めて顔を合わせた。

その場で、沖縄をテーマにした作品を手がけるなど四半世紀にわたって関わり続けている演出家の栗山民也さん(68)から、こう伝えられた。
演出家・栗山民也さん
栗山さん
「沖縄は戦後からずっと矛盾を抱えてきたように思う。本土のために基地が集中している。基地の存在に反対する人が、基地に関連する仕事で収入を得ていることもある。住民には、闘争に関わる一方で、お酒を飲めば、誰とでも一緒に歌をうたい、踊りだす明るさがある。そうした姿を、作品として残したいと思っている。沖縄の光と影を描いてみたい」
松山さんは、稽古が始まる直前に沖縄を訪問し、地元の人たちと交流することで学びを深めてきた。

栗山さんと呼応するように、こんなことを話した。
松山さん
「僕はウチナーンチュではないので、やはり、分からない部分はある。ただ本土にいる自分が演じる意味はあるかもしれないとも思う。沖縄に共鳴する部分があったり、沖縄の苦悩をそのままでいいと思っているわけではなかったり。自分たちも変わっていくという意思表明のような、そういう作品にしなければいけないなって思っています」

描かれる復帰前夜の“沖縄”

「hana-1970、コザが燃えた日-」は、次のように始まる。

沖縄の本土復帰を2年後に控えた1970年12月20日の未明、「おかあ」(余 貴美子さん)が切り盛りするコザ市(今の沖縄市)のバーに“長男”の「ハルオ」(松山さん)が突然、顔を見せる。

「ハルオ」は、ある出来事をきっかけに、高校をやめ、打ち込んできた音楽も捨てて、アシバー(遊び人)として“ヤクザな仕事”に携わるようになった若者だ。

その後、教員として働く“弟”の「アキオ」(岡山天音さん)が、同僚や本土から取材に来たルポライターと一緒に現れる。

その様子を父親のような存在の「ジラースー」(神尾 佑さん)と、きょうだいの“妹”で「おかあ」の娘の「ナナコ」(上原千果さん)が見守りながら、物語は展開していく。

“怒り”を表現するための試行錯誤

舞台への出演は約4年ぶりだという松山さん。

稽古場では、何度もセリフを反すうしながら行ったり来たり。

まるで、何かを探しているかのように。
松山さんが大切にしようとしていたのは、「ハルオ」が抱く怒りをどのように表現するかだった。

ハルオは、沖縄戦ですべての肉親を亡くした。

親も自分の名前も分からない状態で生き残り、おかあに引き取られた。

アキオとも、ナナコとも、血のつながりはない。

そんななかで、「何か、おもしろい話」を求めて本土からやってきてルポライターは、次のようにハルオに言う。
「僕は思うんです。沖縄がただの観光地でいいはずがない」
「この島で、悲惨な戦争がありましたよね?沖縄の4人に1人が亡くなった、って聞きました」
「なにを見て、なにを聞いたか、教えてもらえませんか?」
本土ではすでに戦争は過去のもの。

高度成長期を迎え、「三種の神器(テレビ、洗濯機、電気冷蔵庫)」だ、「3C=カラーテレビ、クーラー、カー」だと浮かれている。

聞きかじった知識を基に、軽い調子で踏み込んでくるルポライターに対し、ハルオは怒りをあらわにした。
「なにが三種の神器ね。なにが3Cね」
「本土が景気いいのは、ウチナーンチュが血を流したからやあらんね。アメリカ-がベトナムで戦争してるからやあらんね」
「親兄弟を殺されて、土地は取り上げられて、それでもアメリカーなしでは生きていけない、そんな気持ちわかるか」
「何万人も殺されたあらに。俺は忘れんぼーにはならん!」
この場面で、松山さんはルポライターから渡された名刺を破り捨てようと考えていた。

しかし、演出の栗山さんからは「それは少し違う」と告げられた。
松山さん
「怒りというものをきちんと表現する必要があるなと思っていたんです。ただ、なんて言うんですかね、日本人を恨む、アメリカ人を恨むっていうことよりも、怒りを向けるのは、もっと大きなものに対してですよね。アメリカ人が悪いんじゃなくて戦争が悪いとか。結局、どの視点から見るのかという、いろんな視点ってあるはずじゃないですか。日本から見た視点、ウチナーンチュから見た視点、アメリカ側から見た視点、それぞれあると思うんですけれど…」
怒りを向けるべきなのは、ルポライター個人ではなく、もっと大きなものだということだろうか…

こだわったのは沖縄の人の温かさ

もうひとつ、松山さんがこだわったのは、「温かさ」を表現することだった。

沖縄で学んだ「ちむぐくる」=人の思いやりや優しさなどを表したことば。

そして、「いちゃりばちょーでー」=一度会えば、みんなきょうだいだという意味のことば。

松山さんは、血のつながらない妹、ナナコへの愛情を丁寧に語っていく。
「学校行くとき、『にいにいを見送る』って玄関までついてきてさ。『んじ、ちゃーびら(行ってきます)、ナナコ』っていうと、『んじ、めんそーれー(行ってらっしゃい)、にいにい』って手ぇ振るわけ。あきさみよー!、こんな可愛い子は世界中さがしてもいないさー、そう思ったよ」
大きな悲劇が家族を襲ったときも、必死で母親を励ます。
「おかあはいつも笑ってたやあらんね/明け方に帰ってきても、朝はちゃんと起きて、うまい朝飯と弁当を作ってくれて、笑って送り出してくれた。学校でケンカして泣いて帰ったときも、笑って鼻水拭いてくれた」
「笑えばいいさ!なにもかもみんな、笑い飛ばせばいいさ!おかあ!」
怒りや悲しみを癒やすために必要なのは「人の温かさ」だという思い。

それを松山さんがセリフに込めたように見えた。

初日の幕が上がって

1月9日、幕は上がった。

感染防止対策が取られた会場で、多くの観客が松山さんたちの演技に見入った。

物語では沖縄戦だけでなく、日中戦争やベトナム戦争についても触れていく。

戦争がもたらした悲劇、そして、アメリカ統治下の沖縄の苦しみについても描かれる。
松山さんをはじめとする出演者は、全員が、沖縄の思いを、そして平和への願いを伝えようとしているように思えた。

舞台では再び、反戦歌として知られるあの曲=「花はどこへ行った」が流れる。
Where have all the husbands gone,long time passing?
(夫たちはどこへ行った? 長いときが過ぎた)
Where have all the husbands gone,long time ago?
(夫たちはどこへ行った? 遠い昔に)
Where have all the husbands gone?
(夫たちはどこへ行った?)
Gone for soldiers everyone
(みんな戦場へ行った)
Oh,when will they ever learn?
(いつになればそれが分かるの?)
Oh,when will they ever learn?
(いつになればそれが分かるの?)
ナナコが歌い、アキオが歌い、おかあも加わる。

一度は、音楽を捨てたハルオ。

ギターを手にして、舞台の幕は下りる。

「寄り添う」ことがテーマに

公演後の松山さんは、ほっとしたような表情を見せた。
松山さん
「この台本を読んだとき、どう受けていいのか分からず、すごく戸惑いがあったんです。だから、お客さんの空気もどういうふうになるのかは、気になっていた。ただ、僕が感じたかぎりでは、すごく寄り添ってくれたんですよね。今回のテーマ、本質のすべてが、この作品だけで分かるわけではないとは思います。それでも知ろうとしてくれているという気持ちをすごく感じました」
そして、沖縄についての思いを口にした。
松山さん
「今、本土復帰50年。50年というのは1年しかないわけですよね。ただ、その1年で終わるものではないですから。これは、ずっと、僕たちと制作側とお客さんが、寄り添い続けなきゃいけない問題なんですよね。だから、寄り添うっていうのは僕の中のテーマになりましたね。今後の…」
「hana-1970、コザが燃えた日-」は、東京・豊島区の東京芸術劇場で1月30日まで上演される。
11日(火)おはよう日本でリポートを放送予定ですのでぜひご覧ください。
本記事の前編は「あわせて読みたい」から。
関連記事は「サイカルジャーナル」でも公開しています。

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