紙のハンガーでプラスチックごみ削減を!

紙のハンガーでプラスチックごみ削減を!
紙のストローに続いて開発したのは「紙のハンガー」。

これまで大量のプラスチックが使われてきた分野で紙製品を相次いで開発したのは山梨県のNPO法人です。

そのきっかけとなったのはプラスチックごみの問題で世界に衝撃を与えたあの映像でした。

(甲府放送局記者 青柳健吾)

世界の意識を変えた1つの動画

世界中にプラスチックごみの問題を知らしめるきっかけになった1つの動画。

ウミガメの鼻にプラスチック製のストローが刺さり、保護した人が引き抜こうとしますがなかなか抜けません。ウミガメは目を強くつぶったり、口を大きく開けて鳴き声を上げたり、必死に痛みに耐えているように見えます。

皆さんも一度はこの動画を目にしたことがあるのではないでしょうか。この動画は世界中に拡散され、海を汚染し生物を傷つけるプラスチックごみの問題の深刻さを私たちに知らしめました。

この動画を見たことがきっかけで、プラスチックごみの問題に取り組もうと動き出した男性が山梨県にいます。

藤原行雄さんです。藤原さんは2年半あまり前、「マイプラ対策室」というNPO法人を立ち上げて、プラスチック製品を紙製に置き換える活動を始めました。
NPO法人マイプラ対策室 藤原行雄 理事長
「動画を見たときに、人間の勝手な生活、人間だけよければいいという傲慢さを感じて私自身も反省しました。何もしなかったら子どもたちの時代にはもっと汚染が進んでしまう。それに抵抗したいという思いで動き始めました」

まずはストローを紙製に

紙製にこだわっているのには理由があります。

藤原さんは山梨県の森林資源を活用しようと県産材から紙を作る活動をしていたため、こうした紙を活用し環境にいい製品を作れないかと考えたのです。

まず作ったのはストローです。すでに紙製のストローは市場に出回り始めていましたが、実際に使ってみると、紙の匂いが強かったり口触りに違和感を感じたりして、使いたいと思える商品がなかったといいます。

そこで、少し価格が高くなっても素材や機能にこだわったストローにしようと考えました。
こちらが藤原さんが作った紙製のストローです。表面には米ぬかの油から作った天然由来の塗料を使用しています。色を黒くしたのは、使用したときに飲み口についた口紅が目立たないようにするためです。
さらに、紙の巻き方や味に影響を与えないのりにもこだわっています。こうしたこだわりが評価されて大手外食チェーンや世界的なブランド企業などで採用され、1年半余りで20万本を販売しました。
NPO法人マイプラ対策室 藤原行雄 理事長
「世の中に出しても恥ずかしくないものができました。プラスチック対策というのは身近なところで変えていけるものから変えていけばいいのです」

次は紙製のハンガー

さらにプラスチック製品を減らすことはできないか。

次に目をつけたのがハンガーです。プラスチック製のハンガーは、国内最大のシェアを占めるメーカーだけでも年間1万トンが出荷されていて、これを紙製に置き換えられないかと考えたのです。
商品化にあたって重視したのは十分な重さに耐えられる強度を確保しつつ、軽い製品を作ること。

100人以上から聞き取りを行って完成したハンガーは厚紙を3枚重ね合わせた厚さ3ミリのハンガーで、10キロの重さにも耐えられます。
ハンガーに着目した理由は、ことし4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行される予定になっているからです。

プラスチック製品を無料で提供している事業者は削減のための取り組みが求められ、クリーニング店のハンガーも対象になっています。

環境省などは、プラスチック製品を有料化したり消費者に対して使用するかどうかの意思確認をしたりすることなどを推奨しています。

問題はコスト…

紙製ハンガーの製作に取り組み始めて半年。藤原さんは、できあがったハンガーを見てもらおうと地元のクリーニング店を訪れました。

店主が手に取ると反応は上々。強度などについてはお墨付きをもらいましたが、価格の高さを指摘されました。藤原さんが想定していたのは1本400円での販売。この店で扱っている最も安いプラスチック製ハンガーと比較すると40倍です。

藤原さんは「大量生産ができれば単価を下げることができる」として、前向きに検討してほしいとお願いしました。
クリーニング店 店主
「お客さんに価格を上げた分を転嫁できるかというと、サービス業なのでなかなかできないが、趣旨や目的なども説明したうえで提供し、納得して使ってもらえればと思います」

コストか環境か

環境問題を考えるときにコストの問題は切っても切り離せません。

藤原さんは「安さという経済の合理性」を上回る「環境問題に取り組むことの価値」に共感してもらうことが重要だと考えています。
NPO法人マイプラ対策室 藤原行雄 理事長
「私たちの活動は普通の会社のように利益を得ることが目的ではありません。紙製ストローを使ってくれている企業には価格だけではない価値判断の基準があり、私たちに共感してくれています。極力価格を抑えていく努力をする一方で、まずは少しでも多くの人に取り組みを知ってもらい、製品を使ってもらうことに重きを置いた活動が重要だと思っています」

まずは知ってもらうきっかけに

「環境問題に取り組むことの価値」を消費者一人ひとりにも考えてほしい。藤原さんは、山梨県や長野県でドラッグストアを経営している企業を訪ね、紙のハンガーを商品として店舗に置いてもらいたいと交渉しました。
企業の担当者
「今のうちから環境問題に取り組むことが大切だと思います。地元の企業として、環境問題にも積極的に取り組んでいきたいと思います」
企業の担当者は藤原さんの活動に共感し、44のすべての店舗で紙のハンガーを販売してもらえることになりました。
NPO法人マイプラ対策室 藤原行雄 理事長
「まだ始まったばかりで微々たるものですが、こういった活動がいろいろなところで出てくれば、ものすごい力になるだろうと思います。プラスチックではなく紙でもいいんだというところを認識してもらって、少しずつ活動を広げていきたいです」
環境問題は一朝一夕で解決できる問題ではありません。

しかし藤原さんの活動や思いを取材することで、身近な生活を少し変えるだけでも環境問題を解決していく一歩として大事なことだと感じました。

これからも取材を通じて藤原さんのような人たちの思いを伝え、「共感の輪」を広げていきたいと思います。
甲府放送局記者
青柳 健吾
2017年入局
事件取材、経済担当を経て、現在は県政キャップ