ビジネス特集

日産 EV “勝負の年” 社長に聞く

2010年に世界に先駆けて量産型のEV=電気自動車「リーフ」を投入し、EVのパイオニアとも言われている日産自動車。
EVをめぐる競争はこの10年あまりで一変し、異業種も巻き込んだ大変革の時代を迎えました。
日産にとってことしは、新たなEVを次々と投入する“勝負の年”となります。
どのような戦略を描いているのか、内田誠社長に直撃しました。
(おはよう日本 おはBizキャスター 神子田章博/経済部記者 樽野章)

5年間で2兆円の巨額投資へ

日産自動車 内田誠社長(右)
カルロス・ゴーン元会長らの報酬をめぐる一連の問題のあと、経営再建にあたってきた内田誠社長。

私たちの取材に対し、電気自動車への思いをこう語りました。
日産 内田社長
「電気自動車は、われわれがやってきた証しであると思っているし、技術の日産を示すものだと思っている。
日産らしい電気自動車を、お客様にどんどん提供していきたい」
EVのコンセプトカー
去年11月29日、日産は新たな電動化戦略を打ち出しました。

EVの開発などに今後5年間でおよそ2兆円を投じ、電動化を加速する計画です。

日産がこれまでに車の電動化に費やした投資額はおよそ1兆円。

その2倍の金額を向こう5年間で一気に投資することになります。

昨年度まで2期連続となる巨額の赤字が続いていましたが、構造改革には一定のメドが立ったとして「未来の創造へと、ギアをシフトする時が来た」と強調しました。
日産 内田社長
内田社長
「将来の電動化社会の実現に向けて、多額の投資を進めていくが、営業利益率5%以上はしっかりと確保し、長期的な事業の継続性を維持していく。
将来の電動化の時代に向けて成長を維持し、長期的な収益性を高めるための新たなビジネスチャンスを追求する」

過熱する海外での投資

日産など国内メーカー各社がEVの研究・開発を急ぐ背景には、海外での急速なEVシフトがあります。

とりわけ、過熱感すら漂う、投資マネーの動きが昨年注目されました。
新興メーカー「リビアン・オートモーティブ」が上場
象徴的だったのが、去年11月にアメリカの新興メーカー、リビアン・オートモーティブのナスダックへの上場です。

まだ、納車実績はそれほど多くはない新興メーカーですが、上場初日の時価総額は9兆7000億円にのぼり、120年近い歴史がある大手のフォードの時価総額を瞬く間に抜き去ったのです。

IT大手、アマゾンなどからも出資を受け、期待先行で株価が上昇しました。

さらに、同じくアメリカのテスラも去年、時価総額が1兆ドル(115兆円)を越え、今後の成長を期待する投資を呼び込みました。
ソニーグループが公開した最新の試作車
EVをめぐっては、自動車メーカー以外からの参入も相次いでいます。

1月5日、ソニーグループは、開発中のEVの市場への投入を本格的に検討する方針を明らかにしました。

ことし春に新会社を設立する予定です。

ルーツは70年以上前

たま電気自動車
急速な世界の“EVシフト”の潮流のなかで、日産はどのように存在感を示していくのか。

実は日産のEV開発のルーツは、70年以上前までさかのぼります。

1947年に、のちに日産と合併するプリンス自動車工業の前身の会社が、鉛蓄電池に電気をためるEV「たま電気自動車」を開発。

一度の充電で65キロ走行でき、石油が市場に出回らなかった当時、タクシーなどとして活躍したといいます。
初代リーフ
そして2010年、“技術の日産”を自負する会社が世界に先駆けて投入したのが、初代リーフです。

当初は多くの予約が集まり、翌年にはルノーと合わせ2016年度までに累計150万台のEVを販売するという目標を掲げました。

しかし、実際には、当時の想定のようには普及しませんでした。

なぜ普及が進まなかったのか。

取材の中では、充電インフラなどの整備が世界的に進んでいないことや、脱炭素への関心が今ほど高くなく、世界的にEVの市場が成熟していなかったことが要因だという声が聞かれました。

内田社長は、充電スタンドの設置などもメーカーとして支援し、利用者が使いやすい環境を整えることにも注力したいとしています。
内田社長
「やはり充電スタンドの設置は重要で、公共の場で充電ができないとEVの利便性を理解していただけない。
私たちは、この10年間に充電スタンドの設置で250億円の投資を行ってきたが、2026年までにさらに200億円をかけて整備をすることで、EVの普及を進めていきたい」
政府も、充電スタンドの数を2030年までに、今のおよそ5倍の15万基に増やす目標を掲げていて、官民一体となって充電スタンドの整備が進められる見通しです。

軽EV ゲームチェンジャーとなるか?

アリアの発表会見(2021年6月)
ことしは日産にとって、EVの新車投入が相次ぐ勝負の年になります。

まずは、1月から発売するSUV=多目的スポーツ車の「アリア」。

新たなEVを投入するのは、「リーフ」以来、およそ10年ぶりです。

続いてこの春、他社に先駆けて投入するのが、“軽自動車サイズのEV”。

新車販売に占めるEVの割合が1%に満たない日本で、EV普及の起爆剤となるか注目されています。
軽EVのコンセプトカー
連合を組む三菱自動車工業と共同開発を進めていて、1度の充電で走れる航続距離は170キロ前後と、すでに市販されているEVと比べると短めです。

なぜ航続距離が短い車を投入するのか。

EVの車両価格は、電池にコストがかかるため高くなりがちですが、航続距離を買い物などふだんの生活で使うのに足りる距離に抑え電池の容量を減らすことで、販売価格を抑えるねらいがあります。
内田社長
「お客様が軽自動車ならこの金額であれば出してもいいよという価格で提供したい。
軽自動車はやはり日本の市場の40%を占める市場で、軽自動車においてのEVの利便性をお客様にご理解いただければ、“ゲームチェンジャー”となり、日本でのEVの市場もできてくるとわれわれは期待している」
政府は去年、EVを購入する際の補助金を拡充する方針を示し、今後、軽自動車サイズのEVに最大で50万円を補助するとしています。

日産と三菱自動車は、補助金を活用した際の購入価格が、およそ200万円になると発表していますが、今回の補助金の拡充で実質的な負担額が引き下がるのかも焦点となりそうです。

軽自動車や小型車サイズのEVは、ホンダが2024年に、ダイハツ工業とスズキも2025年までに販売する方針を示していて、いち早く市場に投入することで普及に弾みをつけたいと考えています。

全固体電池を強みに

日産の全固体電池の研究
さらに内田社長が、普及のカギを握ると考えているのが、電池の改良です。

日産は現在主流のリチウムイオン電池に次ぐ、次世代の電池「全固体電池」の開発に総力をあげて取り組んでいます。

全固体電池は、電気をためたり放出したりするのに必要な「電解質」が、液体ではなく固体であることが特徴で、リチウムイオン電池より出力を高めることが可能だとされています。

内田社長は、2028年度までには全固体電池を搭載したEVを市場に投入すると明言しました。

ためられるエネルギーは、リチウムイオン電池の2倍に。

充電時間は3分の1に短縮することを目指すとしています。

実現すれば、走行距離や充電にかかる時間といったEV普及の壁を解消する、“夢の技術”です。
この全固体電池を搭載した3種類のEVのコンセプトカーも発表。

車内空間をこれまでよりも広くした車や、多くのエネルギーをためられる特長を生かしてピックアップトラックを投入する計画です。
内田社長
「われわれは30年前から車載用のリチウムイオン電池に関する研究をずっと続けてきて、20年かけてようやくリーフという量産のEVを世に出した。
電池のノウハウや基礎研究は当社の一番の強みであり、われわれの資産だ。
全固体電池の分野で日産として打ち出していきたいという思いが非常に強く、技術進化や進捗は、随時、発表していきたい」

日産の経営課題は?

EVの普及に向けて、戦略を相次いで打ち出す日産。

しかし、あしもとを見ると、カルロス・ゴーン元会長時代の負の遺産への対応が不可欠だという声もあります。

専門家は、ゴーン元会長の時代に販売台数を増やすことを追い求め過ぎたことや、車のモデルチェンジまでの期間が長く新型車の投入が少なかったという課題に向き合う必要があると指摘しています。
東海東京調査センター 杉浦誠司シニアアナリスト
杉浦シニアアナリスト
「日産では長年、北米市場などで値引きをしてでも販売を増やす手法がとられ、インセンティブ=販売奨励金ありきの販売となっていた。
去年は半導体不足で新車が足りなくなり値引きをしなくても売れていたが、インセンティブに頼らない取り組みを続けることが大切だ。
今後は他社に比べて長いモデルチェンジのサイクルを短くし、磨き上げた技術をそのつど、新型車に搭載し、昔からのファンが満足する車を出し続けることが重要だ」
最後に、内田社長に会社の将来像と、ことし1年の抱負を聞きました。
内田社長
「やはり、お客様が日産自動車があってよかった、社会に必要だと言っていただける会社にしていかないといけないと思っている。
皆様がワクワクする車を引き続き、日産らしい車としてお客様にお届けしたい、そういう年に必ずできるので期待していただきたい」
ワクワクする車を出す。

運転支援機能なども含めたさまざまな技術革新で、どう他社と差別化を図るのか。

“技術の日産”を長年うたってきた会社にとって、真価が問われる1年になりそうです。
おはよう日本 おはBizキャスター
神子田 章博
昭和62年入局
経済記者として日米自動車摩擦や山一破綻などの金融危機、アメリカで同時多発テロ事件、中国では“一帯一路”戦略とホットな現場を取材

経済部 記者
樽野 章
平成24年入局
福島放送局を経て
令和2年から現所属 自動車業界などを取材

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