日本経済はどこへ向かうのか? 新年祝賀会で企業トップに聞く

新型コロナの変異ウイルス「オミクロン株」の感染が世界的に拡大する中、ことしの景気はどうなるのか。そして日本経済はどこへ向かうのか。
2年ぶりの開催となった、経団連など3つの経済団体の新年の祝賀会で企業の経営トップに聞きました。

経団連と日本商工会議所、経済同友会による新年の祝賀会は、去年は感染拡大で初めて中止となりましたが、ことしは出席者を前回の9分の1程度となる200人余りにまで減らすなど規模を大幅に縮小して開催しました。
この中で主催者を代表して経済同友会の櫻田代表幹事があいさつし「世界各地でオミクロン株が猛威を振るっているが、今後も新しい変異ウイルスが発生し続けることは間違いない。『ウィズコロナ』が新しい日常となる」と述べました。
そのうえで、新しい日常をチャンスと捉え、企業のイノベーションで社会の課題を解決し、経済成長へとつなげるべきだと訴えました。
続いて、岸田総理大臣が壇上で「成長の果実をしっかりと分配することで、経済の好循環が生まれ、次の成長につながる。企業による賃上げは今後の経済成長の観点から極めて重要だ」と述べました。

そのうえで「コロナ禍からのリバウンドと新時代への挑戦が重なるタイミングを官民でしっかりとらえ、局面転換をしていかなければならない。日本経済の局面転換に弾みをつけるためにも、攻めの姿勢での協力をお願いしたい」と要請しました。
このあと経済3団体のトップがそろって記者会見し、この中で経団連の十倉会長は、岸田総理大臣が賃上げへの積極的な取り組みを要請したことについて「業績を維持したり、好調だったりする企業は社会に還元すべきだ」と述べました。
その一方で「将来不安があると賃金や手当が本当に消費に回るのか」と指摘し、政府に対して持続可能な社会保障制度の構築を求めました。

企業の経営トップ10人に聞く「ことしの景気」

新年祝賀会に参加した企業の経営トップに、ことしの景気はどうなるのか、数字で予想してもらい、キーワードとともに聞きました。
▽景気がよくなる場合は、プラス1~5
▽景気が悪くなる場合は、マイナス1~5

「三井住友フィナンシャルグループ」太田社長【景気予想+4.5】

最も高い予想【+4.5】を示したのは、大手金融グループ「三井住友フィナンシャルグループ」の太田純社長。
ことしの景気について「コロナをコントロールすることで、個人の行動制限が緩和され、それに伴って個人消費が回復し、日本の景気も回復するというのがメインシナリオだ」と述べました。

そのうえで、ことし予想されているアメリカの利上げについて「アメリカの金利が上がると為替が円安傾向になるが、それほどの急激かつ過激な円安にはならないと思っており、日本経済や日本人の生活に直接大きな影響は与えないと思う」と述べ、日本の景気に与える影響は限定的だという認識を示しました。

一方、企業の間で広がる脱炭素社会の実現に向けた取り組みについて、太田社長は「気候変動対応に関する情報開示や、温室効果ガスの排出量の削減に向けて、企業がさまざまな悩みを抱えている。その解決策を提供する大規模な部隊を作って対応していくことで、銀行にとっても新たなビジネスチャンスにつながってくると思う」と述べ、グループとして、企業の脱炭素への対応を支援していく考えを示しました。

「オイシックス・ラ・大地」高島社長【景気予想+4】

食品宅配大手「オイシックス・ラ・大地」の高島宏平社長は【+4】。
ことしの景気について「新型コロナによって日本はデジタル後進国であるという危機感を多くの人が共有したがこのことが大きなバネになるという期待感がある。働き方をはじめとしたさまざまな変化が企業にとってはチャンスになる」と述べました。

また、コロナ禍で変化する生活様式への対応については「コロナ禍で巣ごもりが進んでいるといっても中身は変化している。最初の頃は、新鮮さもあって『料理を家族で頑張ろう』という声もあったが、徐々に、1日3食すべてを家で作るのは大変だという感じになってきた」と述べて、こうした変化を捉えながらサービスを提供していきたいという考えを示しました。

「ブイキューブ」間下社長【景気予想+4】

テレワーク向けの個室ブースなどを展開する、スタートアップ企業、ブイキューブの間下直晃社長は【+4】。
ことしの景気について「景気のよくなる会社と悪くなる会社の差は大きくなると思う。新型コロナウイルスの感染拡大がおさまり、以前のように元に戻ることをただ待っている会社は厳しくなると思う」と述べ、コロナ禍での変化に対応できるかどうかで企業業績の回復スピードに差が出てくるという認識を示しました。

そのうえでこれからの働き方について「若い世代になればなるほど在宅勤務など働き方を選べるかが重要で選べる働き方を提供できるよう変われる会社に人材も集まるようになっている」と述べ、柔軟に働ける環境を整えることが、優秀な人材の確保に向けて重要になるという考えを示しました。

「三菱商事」垣内社長【景気予想+3】

大手商社「三菱商事」の垣内威彦社長は【+3】。
ことしの景気について「以前からデジタル化の遅れを実感していたが、コロナ禍はこうした遅れた部分を一挙に取り返す絶好のきっかけにもなった。災い転じて福となす絶好のチャンスだ」と述べました。

またアメリカが利上げに踏み切ることが、世界や日本の経済に与える影響について、「一時的にはプラス・マイナスの両サイドの動きがあると思うが、利上げがスムーズに行われればアメリカ経済が非常におかしな状態になるということは想定していない。このことが景気動向に決定的に影響を与えることはないのではないか」という考えを示しました。

その一方で、アメリカと中国の対立について、「米中の問題は簡単に収束する問題ではなく、今後も対立が続くと見るのが自然だ。中国に頼ったビジネスは潜在的なリスクを無視するわけにはいかず、万が一に備えた生産拠点や販売拠点などの再構築が必要になる」と述べました。

「ホンダ」三部社長【景気予想+3】

自動車メーカー、ホンダの三部敏宏社長は【+3】。
ことしの景気について「去年は天気でいうとどんよりとした曇りという感じだったが、ことしはだいぶ薄日がさしてきて、年後半にはぜひとも晴れにもっていきたいと思っている」と述べました。

また「半導体不足などもことし前半までは影響あるが、後半は影響が少なくなるとみているので、ぱっと晴れた世界にいち早く持って行きたい」と述べ、自動車業界にとって大きな打撃となった半導体不足は、年の後半に向けて解消していくという見通しを示しました。

一方、脱炭素社会の実現に向けた取り組みについて、三部社長は「一企業として確実にやっていきたい。EV=電気自動車に欠かせない充電インフラや、送電網の整備を進めることでカーボンニュートラルを早期に達成できると思うので、国と連携を取りながら積極的に進めていきたい」と述べました。

「ANAホールディングス」片野坂社長【景気予想+3】

航空大手「ANAホールディングス」の片野坂真哉社長は【+3】。
ことしの景気について「国内線を中心にお客様が戻ってきた。これまでは雨から曇りだったがことしは日がさしてくる。オミクロン株も出てきて不安もあるが、間違いなく日本の企業も業績が改善し、運輸業界、航空業界も回復していく年になるだろうと見ている。これまでのコスト削減の力がエネルギーとなっているので、2022年度は黒字化を必ず達成したい」と述べました。

その上で、ことしの春闘での賃上げについて「ベースアップはなかなか難しい。月例賃金がカットされ賞与がゼロという状態だが、会社が黒字化する時に社員の給与を元に戻したい」と述べました。

一方、航空業界の脱炭素の取り組みについては「私たちも2050年にカーボンニュートラルを達成すると宣言した。『SAF』と呼ばれるバイオジェット燃料を輸入に頼っているので、早く国産化や量産化をしていただき、この燃料に切り替えていきたい」と述べ石油を使わない代替燃料への切り替えを加速させる方針を示しました。

「NEC」遠藤会長【景気予想+3】

NECの遠藤信博会長は【+3】。
ことしの景気について「世界中でオミクロン株が問題になっているが、オミクロン株を抑えられるだけのワクチンや、飲み薬といった対応がきちんとできるかどうかが重要だ」と述べ、飲み薬の普及などが進めば、さまざまな人の交流が再開し、景気が上向くという認識を示しました。

そのうえで、「ウィズコロナ」の中で生き抜くカギについて「DX=デジタル変革に対する意識をもっと強く持つ必要がある。また、DXが起こると標準化が起こるので、その標準化について積極的なリーダーシップをとっていくことがとても重要だ」と述べました。

また、ことしの春闘に向けた賃金の引き上げについては「賃上げはとても重要な領域だが、北欧などを見ると社会保障がしっかりしている。社会保障も含めて、国民の皆さんが少しでもいい生活に変わっていくという感覚を得られることが重要だと思う」と述べ、賃金の引き上げだけでなく社会保障も含めて生活を豊かにする方法を模索する必要があるという考えを示しました。

「ENEOSホールディングス」杉森会長【景気予想+3】

石油元売り大手「ENEOSホールディングス」の杉森務会長【+3】。
ことしの景気について「オミクロン株の拡大やエネルギー価格の上昇といった下振れリスクはあるが、日本の経済は社会経済活動が再開され緩やかな回復基調にある。脱炭素やデジタル変革の分野で投資の拡大が進めば、本格回復に進んでいくのではないか」という見通しを示しました。

また、脱炭素社会の実現に向けた取り組みについて「去年はカーボンニュートラルに明け暮れたが、ことしはこの流れが一層加速するとみている。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする政府の目標を達成するには、エネルギーを変え、産業の構造を変え、国民生活も変えなければならない。社会を根底から変革しなければならず、果敢にチャレンジしていく」と述べ、石油業界としても再生可能エネルギーをはじめ、次世代エネルギーとして活用が期待される水素やアンモニアなどの普及に力を入れる考えを示しました。

「JSR」小柴名誉会長【景気予想+3】

大手化学メーカー、JSRの小柴満信名誉会長は【+3】。
ことしの景気について、今月から発効した日本や中国などが参加するRCEP=地域的な包括的経済連携により貿易が活発化することから、去年よりも景気が上向くという見方を示しました。

一方で日本経済のキーワードについて、脱炭素に関連したモノの価格があがる現象、グリーンとインフレを合わせた「グリーンフレーション」をあげ、「意図せずコントロールできないインフレが懸念される。これが起きるとマイナスに働くのではないか」と述べ、日本企業が脱炭素化が進めるにあたって、価格への転嫁がうまくいかなければ、景気減速のリスクになると指摘しました。

また、アメリカと中国の対立の影響について、小柴名誉会長は「アメリカ、中国ともことしはそれぞれの国内景気の動向に意識が引っ張られると思うので、米中対立がさらにエスカレートはしないだろう」との見方を示しました。

そのうえで、経済安全保障などの企業の対応については「企業の生産拠点を米中で完全に分断するということはできない。できるところとできないところを見分けて事業戦略を作っていく上で企業の国際感覚やガバナンスの意識が企業間の大きな差となって出てくるだろう」と述べました。

「森トラスト」伊達社長【景気予想+2】

不動産大手「森トラスト」の伊達美和子社長は【+2】。
ことしの景気について「新型の変異株、オミクロン株による第6波の可能性は出てきているものの、ワクチンの3回目の接種の開始や飲み薬の開発により、これまでの感染拡大期と比べて個人消費は落ち込まない」という見方を示しました。

そのうえで、岸田内閣が主導する賃金の引き上げをめぐって、伊達社長は、「政府が強い意志を持って、新しい制度を取り入れたことは評価する。一方で、税制は一過性のもので、賃金上昇など、継続的に適正配分が行われるためには、日本型の特殊な雇用制度を見直す必要がある。社会全体でどうやって人材を育て、賃金を配分していくのか、制度的な見直しを含めてやっていくべきではないか」と指摘しました。

また、オフィスビルやホテルの運営を手がける伊達社長は、コロナ禍で変化する生活様式について「ワーケーションなど余暇を楽しみながら働くという新しいライフスタイルが出てきたことで、観光地域も平日の需要を取り込むことができるようになった。一方で、企業のオフィス需要については出社制限など、オフィスの在り方が問われる時代となり、何を目的にオフィスに来て、仕事をしていくのか、改めて見直す時代が来た」と述べ、事業環境の大きな変化に対応する必要があるという認識を示しました。

ことしは “物価が上がる” かも?

「ニュース シブ5時」や「サクサク経済Q&A」などでおなじみの経済担当・永野解説委員は、ことしの日本経済について、次のように見ています。
日本経済を長く苦しめてきたデフレ。
でも、ことしは、物価が上がるかもしれないと指摘されています。
読み解くキーワードの1つが「円安ドル高」です。
新型コロナで大きな打撃を受けた世界経済ですが、人々や企業の経済活動の回復に伴ってモノの需要が高まり、特にアメリカでは物価が急上昇しています。
このため、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、金融政策の正常化に向けて動き出しました。
まずは、市場に大量のドルを供給する「量的緩和」を、この3月で終えることにしています。
また、今後は「ゼロ金利」もやめて、段階的に利上げする見通しです。
そうなると、外国為替市場では、金利の付くドルを買って、円を売る動きが広がりやすくなります。
つまり、ことしは「円安ドル高」が一段と進むのではないかというのが、多くの市場関係者の見方です。
円安は、輸出企業の収益力を高めますので、日本経済にとってプラスです。
ただ、原油などの原材料高に円安が加われば、企業にとっては仕入れコストが一段と上昇することになります。
客離れをおそれて取引価格に転嫁しない企業が多いのが現状ですが、その一方で「もはや自社の努力だけでは吸収しきれない」という声も増えています。
このため、幅広い商品や製品に値上げの波が及んでいくのではないかと指摘されているんです。
しょうゆや冷凍食品の一部など、私たちの生活に身近な食品も値上げが予定され、GDP=国内総生産の半分以上を占める個人消費の回復に水を差すことが心配されています。

こうした心配を払拭(ふっしょく)するためには、やはり、賃上げの動きを広げていくことが重要になってきます。

感染拡大を抑えながら、日本経済を力強い成長軌道に導き、個人が安心してお金を使える環境を整備することが、政府には求められます。