オミクロン株 “感染拡大 目の前に” わかってきたこと【1/5】

新型コロナウイルスの新たな変異ウイルス「オミクロン株」。各地で市中感染が確認され、沖縄ではこれまでにないペースで感染が拡大しつつあります。欧米各国では過去最多の感染者数になるなど、感染力の強さが明らかになってきました。重症化リスクは低いという報告が出てきていますが、感染が急激に拡大すると、医療機関に大きな負荷がかかるおそれがあります。国内でも感染拡大が目の前に迫っているいま、わかってきたことをまとめました。
(2022年1月5日現在)

オミクロン株、市中感染 確認相次ぐ

オミクロン株の市中感染と見られるケースが初めて見つかったのは、2021年12月22日。大阪府でのことでした。

その後も東京都や愛知県、沖縄県などでも確認され、市中感染の可能性があるところは、1月4日の時点で18都府県となっています。
市中感染とは、市中で「経路がたどれない感染」が起きていることを意味していて、今後、感染が地域に広がるおそれがあります。

沖縄県では感染者が日々倍増するような急速な拡大が起きていて、オミクロン株が影響している可能性が指摘されています。

年末年始に人出が増え、帰省で移動が多くなる中で、感染そのものが増加傾向になってきていますが、ここにオミクロン株の影響が加わることで、感染拡大の第6波につながるのではないかと懸念されています。

オミクロン株“感染力強い”

オミクロン株は、これまでに報告されてきたデルタ株などの変異ウイルスより、感染力が強いのは間違いないという評価になってきました。

デルタ株がほぼすべてを占めていた欧米各国でも1か月ほどで急速に置き換わり、オミクロン株がほとんどになってきています。
イギリスでは、12月30日までにオミクロン株への感染が確認された人が累計でおよそ24万7000人となっていて、イングランドのほとんどの地域で検出される新型コロナウイルスの95%ほどがオミクロン株だとみられています。

そして、1月4日には、1日の感染者数が20万人を超えて過去最多を更新しました。

フランスでも、1日の感染者数が27万人を超え、過去最多を更新しています。
アメリカでは、1月3日、1日に報告される新型コロナウイルスの感染者の数がおよそ108万人と、100万人を超え、これまでで最も多くなりました。

背景にはオミクロン株の拡大があるとみられ、バイデン大統領は「オミクロン株はこれまで見たことがないほど非常に感染力が強く、感染者の数は引き続き増加するとみられる。これからの数週間は厳しいものになるだろう」と話しています。
CDC=疾病対策センターによりますと、アメリカでオミクロン株が占める割合は、先月4日までの週では0.6%ほどとみられていましたが、25日までの週では77.0%、今月1日までの週では95.4%と、ほぼ置き換わったとみられるとしています。

一方で、感染してから発症するまでの潜伏期間は、日本国内の積極的疫学調査の暫定的なデータでは3日前後、韓国の保健施設での感染例の解析でも3.6日となっていて、デルタ株より潜伏期間が短いとされています。

“感染しても軽症”か

オミクロン株は感染しても重症化する割合が低いという報告が相次いでいます。

WHO=世界保健機関の責任者は、1月4日、オミクロン株の症状について、鼻やのどといった上気道の炎症を引き起こしやすいものの、ほかの変異ウイルスと比べて肺まで達して重症化するリスクは低いという見解を示しました。

一方で「証明するためにはさらなる研究が必要だ」と慎重な姿勢を示しています。
イギリスでは、12月30日までにイングランドでオミクロン株への感染が確認されたのは21万2000人余りで、入院は981人、そして75人が亡くなったとしています。

イギリスの保健当局によりますと、オミクロン株に感染して入院に至るリスクは、デルタ株の場合に比べて3分の1になっているとしています。

2回目のワクチン接種を終えてから14日以上の人では、ワクチンを接種していない人に比べて、入院するケースは65%低く、3回目の追加接種を受けてから14日以上の人では81%低くなっていました。
一方で、イギリスの保健当局は、オミクロン株は感染拡大のスピードの速さや免疫から逃れる性質があるため、重症化リスクが低いといっても、必ずしも医療機関への負荷が減ることは意味しない、と強調しています。

また、感染者が増加してから、重症化する人や亡くなる人が増加するまでは一定の時間がかかります。

WHOは12月28日に出した週報の中で「イギリスや南アフリカ、それにデンマークからの初期のデータでは、オミクロン株では、入院に至るリスクはデルタ株に比べて低いとみられるものの、酸素吸入や人工呼吸器の使用、死亡といった重症度を見るデータがさらに必要だ」としています。

ワクチンの効果

オミクロン株は、ワクチンを接種した人でも感染するケースが報告されています。
イギリスの保健当局が示したデータでは、オミクロン株に対しては、ファイザーやモデルナのmRNAワクチンで2回の接種から2週間から4週間後には発症を防ぐ効果が65~70%でしたが、20週を超えると10%程度に下がっていました。
一方、ファイザーのワクチンを2回接種した人が3回目にファイザーかモデルナの追加接種をすると、2週間から4週間後には発症を防ぐ効果は65%~75%に上がりました。

ただ、5週間から9週間後では55~70%に、10週を超えると40~50%に下がりました。
その一方で、重症化して入院するリスクを下げる効果は高くなっています。

ファイザーやモデルナ、それにアストラゼネカのワクチンを接種した人で分析すると、入院に至るのを防ぐ効果は、2回の接種後2週間から24週間では72%、25週を超えても52%、3回目の追加接種をしたあと、2週以降だと88%となっていました。

これまでの変異ウイルスとの比較

感染力や病原性など、いまわかっていることをWHOや国立感染症研究所、各国の公的機関などの情報をもとに、ほかの「懸念される変異株=VOC」と比較する形でまとめました。

感染力

オミクロン株は、スパイクたんぱく質の変異の数から見て、感染力が強まっている可能性が指摘されていましたが、実際に各国でこれまでにないペースで拡大しています。

病原性

▽『アルファ株』
→入院・重症化・死亡のリスク高い可能性

▽『ベータ株』
→入院のリスク・入院時の死亡率高い可能性

▽『ガンマ株』
→入院・重症化のリスク高い可能性

▽『デルタ株』
→入院のリスク高い可能性

▽『オミクロン株』
→入院のリスク低いか
各国からオミクロン株では重症化するリスクがデルタ株に比べて低いという報告が相次いでいます。

ただ、WHOは感染したあと重症化するまでの間には一定の時間があるほか、ワクチンを接種済みの人やこれまでに感染したことのある人にオミクロン株が感染することで軽症となっている可能性もあるとして、慎重に見る必要があるという考えを示しています。

再感染のリスク

▽『アルファ株』
→ウイルスを抑える抗体の働きは維持、再感染のリスクは従来株と同じか

▽『ベータ株』
→ウイルスを抑える抗体の働きは減る、ウイルスを攻撃する細胞の働きは維持

▽『ガンマ株』
→ウイルスを抑える抗体の働きはやや減る

▽『デルタ株』
→ウイルスを抑える抗体の働きは減る

▽『オミクロン株』
→再感染のリスク上がる

WHOでは、ワクチンや過去の感染によって免疫を持つ人でも再感染しやすくなる変異があるとしています。

イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンは、オミクロン株の再感染のリスクは、デルタ株に比べて5.41倍と高くなっているとする報告を出しています。

ワクチンの効果(ファイザー・モデルナのmRNAワクチン)

▽『アルファ株』
→感染予防・発症予防・重症化予防ともに変わらず

▽『ベータ株』
→発症予防・重症化予防ともに変わらず

▽『ガンマ株』
→感染予防・発症予防・重症化予防ともに変わらず

▽『デルタ株』
→感染予防・発症予防・重症化予防ともに変わらず
(感染予防・発症予防は下がるという報告も)

▽『オミクロン株』
→発症予防効果低下・重症化予防効果はあるという報告も3回目接種で発症予防効果・重症化予防効果も上がる報告も
オミクロン株について、ワクチン接種を完了した人でも感染しているケースが報告されています。

発症予防効果は接種から時間を経るごとに下がるものの、重症化を予防する効果は一定程度保たれるというデータが出てきています。

また、3回目の追加接種で発症予防効果、重症化予防効果が上がるという報告も出てきています。

治療薬の効果

重症化を防ぐために感染した初期に投与される『抗体カクテル療法』は、効果が低下するとされています。

開発したアメリカの製薬会社「リジェネロン」は12月16日、「オミクロン株に対して、効果が低下する」とする声明を出しています。

一方で、ウイルスの増殖を防ぐ仕組みの飲み薬には影響が出ないのではないかと考えられています。

また、WHOは、重症患者に使われる免疫の過剰反応を防ぐ薬やステロイド剤は、引き続き効果が期待されるとしています。

感染経路

新型コロナウイルス感染経路は、飛まつや「マイクロ飛まつ」と呼ばれる密閉された室内を漂う小さな飛まつが主で、ウイルスがついた手で鼻や口などを触ることによる接触感染も報告されています。

オミクロン株について、感染力が強まっているおそれはありますが、同様の感染経路だと考えられています。

舘田一博教授「国内でも来月には置き換わる可能性」

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授は「各地でもオミクロン株の市中感染が起きていて、2月には国内のウイルスがすべてオミクロン株に置き換わる可能性もある。オミクロン株はデルタ株に比べ重症化する人が少ないという指摘もあるが、感染力は3倍から4倍高いという報告がある。感染者が爆発的に増えると、一定の割合で入院する人や重症化する人が出てくるので、医療のひっ迫につながることに注意しなければならない。オミクロン株に対しても、変わらず基本的な感染対策を徹底することに尽きる。密を避けるとともに、マスクを適切に使うこと、冬であっても換気を心がけることが重要だ。飲食の場での感染の広がりも注意すべきで、大人数や長時間での会食は避けるべきだ」と話しています。

対策は変わらない

オミクロン株は、現在、感染力や病原性などについて、世界中で研究が進められていて、WHOや国立感染症研究所などが情報を更新していく予定です。

私たちができる対策はこれまでと変わりません。

厚生労働省の専門家会合も、ワクチン接種の推進に加えて、特に会話時などでのマスクの着用、消毒や手洗い、換気や密を避けるといった基本的な対策を続けるよう呼びかけています。