ビジネス特集

“人と自然をつなぎ直す” ~34歳社長が見つけたもの~

広さ15万坪の本社にはキャンプ場も併設。
社員はテントが張られた部屋で思い思いに働き、ミーティングはたき火の前で…
そんな会社が新潟県三条市にあります。
アウトドア用品メーカー「スノーピーク」。社長は山井梨沙さん、34歳です。
2020年に就任し、コロナ禍で高まった自然志向も後押しして、過去最高の売り上げを更新し続けています。
コロナ禍がもたらした変化の中で、山井さんがあらためて見つけた価値とは。
本人に直接、聞いてきました。
(おはよう日本 おはBizキャスター 布施谷博人)

山井さんは1月3日放送のNHKスペシャル「ウィズコロナの新仕事術」に出演。
番組内容は文末に。

社長就任はコロナ禍の中で…

アウトドア用品メーカー「スノーピーク」 社長 山井梨沙さん
山井さんは1987年生まれ。

創業家の3代目です。

2012年に入社後、アパレル事業などに携わってきましたが、新型コロナの感染が拡大するさなかの2020年3月、32歳の若さで父親の山井太氏から社長を引き継ぎました。

会社は1958年に創業。

東証1部上場で、キャンプ用品や衣料品といったアウトドア用品の開発・販売のほか、全国各地にキャンプ場を展開するなど、幅広い事業を展開しています。

1996年に発売した「たき火台」など、新しい発想の商品を開発してブランドを確立。
たき火台
コロナ禍のアウトドア需要もあり、15期連続で増収を達成しました。

山井社長には、テントなどが展示してある本社のミュージアムでお話を伺いました。
布施谷キャスター
Q:2021年は山井さん、そして会社にとってどんな1年でしたか?
山井梨沙さん
山井梨沙さん
「社長に就任したのが2020年で、コロナの真っただ中というタイミングだったんですけれど、『自粛』で今まで体験したことのないような、個人的にも会社的にもこのままで大丈夫なんだろうかというような状況の中、世界中の方たちが本当にステイホームをして、ある意味、自然と人とのアクセスが途絶えてしまった年でもあったと思うんです」
「一方で、世界中の人たちがいま一度、自然と人とのかかわりの重要性に気づいてくれた年でもあったんですね。
2020年、21年は、新しく30代ぐらいのファミリーであったり、その上や下の年代の方も、キャンプを始められるっていう方がものすごく増えた年でした。
世の中で、キャンプだったり、自然の力が求められているんだというのを実感できる年になりました」
布施谷キャスター
Q:社長就任はコロナでどうなるかというタイミング。気持ちとしてはどうでしたか?
山井さんと布施谷キャスター
山井さん
「自分は今まで経営者というより、どちらかというとデザイナーという立場で仕事をしていて、「経営」をやったことがない。
そのタイミングで社長に就任して危機的な状況に直面して、自分の会社における存在意義というか、自分が本当にこの会社の未来のために何ができるんだろうということをすごく考えました」
「その中でキャンプ、自然志向のライフスタイルが今後、日常にも必要になってくるんじゃないか。
それが浸透してきた時に社会的に必要とされていくんじゃないかというのが、2年間で出口として見つかったんですね。
なので、本当に自分自身もキャンプの力を使って、日本中、世界中の人たちを幸せにしていけるんじゃないかと、未来ビジョンが広がった年でもありました」
布施谷キャスター
Q:ものすごい逆境の中かと思ったら、そこにユーザー側の変化があって、それにも支えられたという感じでしょうか?
山井さん
「そもそもキャンプというものが現代においてどういう価値があるか、改めて考えてみたんです。
キャンプって自然の中で、自分で寝床であるテントを立てて、リビングスペースになるようなタープを張って、その下にテーブルを並べて、火を起こして飯を煮炊きして家族で囲んで食べる。
これって太古の昔から人間が自然の中で行ってきた営みそのものだというふうに私は考えているんですけど、今やっぱり加速度的に進化している文明社会の中で、自然の中で家族で時間を過ごしたりとか、食卓を囲んで食事をとったり、コミュニケーションをとるということが当たり前じゃなくなってきてしまっていると思うんです」
「キャンプは本当に自然と近いところで人が生活を営む、根源的な豊かさそのものだなってあらためて感じていて、自然の力、キャンプの力でいま一度、人と自然とをつなぎ直すのが、すなわち人間性の回復であり、会社の社会的使命だというふうに言わせていただいています」

人間性を取り戻す“キャンプの力”とは?

幼少期の山井さん
父親の影響で幼い頃からキャンプに親しんでいたという山井さん。

キャンプには人間性を回復させる力があると確信するようになったのは、東京での1人暮らしの経験がきっかけだったと振り返ります。
山井さん
「東京って生活インフラが整いすぎていて、全く1人でも孤立して生活ができてしまうんですよね。朝起きて電車に乗って会社に行って、帰りもコンビニだったり、ファストフードで軽くご飯を済ませて1人で家に帰るみたいな。
そもそもやっぱり自分は小さい時からキャンプの価値観、家族で自然の中で火を囲んで絆を深めてくるという価値観の中にいたので、私自身も年月を増すごとに孤独感がどんどん強くなってきて、『あ、なんかこのままじゃだめだ』って東京の生活で感じたことがあって」
「キャンパーのコミュニティーは、当たり前にお互いが助け合って、一緒に週末キャンプを楽しむためにお互い気配りをしたり、助け合って過ごしている、すごく平和なコミュニティーなんです。
例えばちょっとカレー作りすぎちゃったらお隣のサイトにおすそ分けに行ったりですとか、昔はご近所づきあいではそういうことあったかもしれないですけど、今、ほとんどないじゃないですか。そういう他者を気遣うとか、思いやりを持つみたいな価値観も自然の中だと当たり前に出てくるもので、いま一度そういった人と自然とのつながりと、人と人との本来あるべきつながり方というのが必要なんじゃないか。それを会社が培ってきた価値観で取り戻せるんじゃないかっていうことを考えています」
布施谷キャスター
Q:これからどのような世の中になっていくと思いますか?
山井さん
「今、文明の側面で見ると、より効率的であったり、合理的、資本主義的な文明の流れと、我々が提案しているような自然志向の本質的な豊かさ、非効率ではあるかもしれないですけど、そうしたものに二極化していくような感覚があります」
「そもそもやっぱり仕事が人生の大半を占めているじゃないですか。
そういった面で合理化、効率化のためのITやデジタルというのももちろん必要だと思いますし、やっぱり週末に自然の中に身を投じて人間性を取り戻して豊かになるという、そういった価値観も必要だと思っています。
両極化してしまっていた価値観がだんだん歩み寄ってきているんじゃないのかなという感覚があって、文明と自然との共生社会みたいなことによりピントが合ってきて、そういった社会がこれから実現できたらいいなと感じています」

場所にとらわれずに働く その思い

スノーピークの本社
「人と自然をつなぎ直す」という思いを形にしている場所の1つが、新潟県三条市にある本社です。

敷地は15万坪もあり、キャンプ場も併設しています。

本社にある「クリエイティブルーム」にはテントなど自社製品が置かれ、社員は自分の好きな場所で働きます。

ミーティングや商談を、たき火を囲みながら行うことも。
たき火を囲みながら商談
「オフィスで机に向かって」という日本の“当たり前”を覆す働き方に注目が集まっています。

NHKスペシャルの中では、このように話しています。
山井さん
「事業自体が遊びをクリエートする、遊びの中にある体験価値を作っていくのが仕事だったので、社員も日々お客さんがキャンプ場の中で自分たちの製品がどうやって使われているのかとか、実際それを見て自分たちも外に机を持ち出してとか、テントを張って外で自分たちも体験をしながら、頭だけじゃなくて体も動かしながら、体験から新しい製品、サービスが生み出し続けられています。
私も外をふらふら歩きながらリモートでミーティングしたり、非常にストレスなく楽しく働かせてもらっています」
そのうえで、リモートワークの広がりをどう生産性や創造性につなげていけるのかについては「使い分け」が大事だと指摘しています。
山井さん
「在宅のミーティングは、アジェンダベース=実施計画の答えが決まっていることに対しては機能していると思っているんですけど、会社の開発ミーティングとか、新規事業のミーティングとか、なかなか現場の空気感が伝わりにくいというのはすごくありました。
動かなくてもできることはウェブでやって、何か新しい価値を生み出さなきゃいけないことは対面みたいな、そういう座組みは社内でもできてきているように感じますね」

“怖さは感じない” コロナ禍を生き抜く経営とは

リゾート施設の完成予想図
会社では、キャンプを体験したことのない人にもアウトドアに触れてもらうための取り組みも進めています。

今年の春には、本社の敷地内に温泉施設やレストランなどを併設したリゾート施設をオープンする予定です。
布施谷キャスター
Q:2022年に限らずなんですけど、どのような将来像やゴールをイメージしていらっしゃいますか?
山井さん
「人が生きるフィールドすべてに人生価値を届けられるブランド、ライフバリューを提供していきたいというビジョンを、10年先になりますけど考えさせていただいていて、それが実現できたら、本当に生きることがより豊かになっていく、生きるフィールドまでつくっていきたいと思っています。
会社があって日本が豊かになったとか、日本が各国、グローバルに出会ったから地球がよくなってきたみたいな、そういった生きる本質的な価値観を届けて、世界中を豊かにしていける企業に成長したいですね」
布施谷キャスター
Q:いまコロナや競争の激化、あるいは脱炭素など、いろんな変化の中で多くの会社が悩みを抱えています。
そこで大事になってくる「軸」みたいなことは何でしょうか?
山井さん
「上場企業なので、年度ごとのコミットメントを達成する事はすごく重要なんですけど、売り上げというのはあくまでも自分たちに関わる人たちを豊かにできた、幸せにできた対価だと思っています。
今、経済活動、それこそDXだったりIT化されていく中で、もしかしたら数字を積み上げることが目的になっている企業が多いんじゃないのかなと思っていて」
「売り上げをつくるという視点ももちろん企業活動の中では大切な事なんですけど、あくまで本当に世の中にどういう価値が与えられるのかとか、人の生活だったり、どういった豊かさ、価値が提供できるのかという、その筋を持ち続けることがやっぱり企業が成長していったり、企業としての存在意義をいま一度考えて実行していくことが企業の発展にもつながっていくんじゃないのかなってすごく実感しています」
「なので、自分たちはこういうバリューがお客様に提供できる、地域や社会にとって還元できるという、その芯があるからこそ、今あまり怖い事ないんですよ、経営をしている中で
自分たちが確固たる価値提供できるという確信があるからこそチャレンジもできますし、本当にそれがしっかりと届けられているんだという実感を持って経営ができているので、そういう『売り上げ軸』より『価値軸』で企業活動をする事っていうのは、何か1つヒントがあるのではないのかなと思います」
コロナ禍という大きな変化の中で、「人と自然をつなぎ直す」という会社の価値をあらためて確信したという山井さん。

「自然の中だからこそ、人と人とのふれあいもつなぎ直せる」という手応え。

34歳の若き経営者が「経営に怖さはない」と言い切る自信は、そこにあるのではないでしょうか。
おはよう日本 おはBizキャスター(経済部デスク)
布施谷 博人
平成5年入局
経済部の記者として金融の現場や財務省を取材
アメリカ・ワシントンに駐在しTPPやアメリカの金融政策を取材した

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