「自分だけの強み、きっとある」~フォーブスが選んだ経営者~

「自分だけの強み、きっとある」~フォーブスが選んだ経営者~
コロナ禍で広がった新しい働き方を加速させる注目の経営者がいる。
「ビザスク」CEOの端羽英子さん、43歳。
副業などを希望する個人と企業をマッチングするサービスを手がけ、2021年11月、経済誌「フォーブス」で影響力のあるビジネスウーマンの1人に選ばれた。
「自分だけの強みが、きっとある」
端羽さんに、ウィズコロナ時代に広げる新しい働き方の可能性。
そして、挑戦を続ける意味について聞いた。
(NHKスペシャル「ウィズコロナの新仕事術」取材班)

激動の20代 主婦の経験も

端羽さんは20代から30代にかけてさまざまな経験を重ねてきた。

21歳で学生結婚。

大学卒業後、外資系証券会社に入社し投資銀行部門で働いたが、妊娠をきっかけに1年ほどで退職した。

出産を経て、化粧品会社で勤務した後は、アメリカに渡り、MBA=経営学修士を取得。

アメリカでは主婦をした経験もある。

帰国後はシングルマザーとして子育てをしながら投資ファンドで勤務。

そして10年前の2012年に今の会社を起業した。

個人と企業をマッチング

会社が手がけているのは、個人と企業をマッチングする「スポットコンサルティング」と呼ばれるサービスだ。

副業などを希望する人が、アドバイザーとしてみずからが提供できるビジネスの知識や経験をサイトに登録。

一方の企業側は、ニーズに合ったアドバイザーをサイトで検索し、その道の“プロ”に1時間単位でピンポイントに相談できる仕組みになっている。
こちらの大手精密機器メーカーに勤める40代の男性も、端羽さんの会社のサービスを利用している。

この日は、本業の在宅勤務の合間に、企業から新規事業の立ち上げについて相談を受け、これまでの製品開発などで培った経験などをアドバイスした。

1時間で得た報酬はおよそ3万円だった。
大手精密機器メーカー社員
「僕にとっては当たり前のことが、クライアントにとっては当たり前じゃなくて、それを喜んでいただけたこともあります。
自分の強みが何なのか、何に価値があるのかみたいなところを再定義できるところがあって刺激になっています」

注目のビジネスウーマン 急成長の理由

登録者の数はコロナ禍で増え続け、現在およそ40万人。

2021年2月までの1年間の会社の売り上げは過去最高を更新した。

端羽さんは去年(2021年)11月、経済誌「フォーブス」で「アジア太平洋地域で影響力のあるビジネスウーマン20人」の1人にも選ばれた。

急成長するビジネスの理由を端羽さんはどう見ているのだろうか?
ビザスク CEO 端羽英子さん
企業のほうでオンラインの活用が進んでリモートでミーティングができるようになったことがいちばん大きいと思っています。
2015年ごろから働き方改革が始まり、副業も解禁されていたのですが、当時は会社の方も対面で仕事するのが当たり前でした。
例えば地方の企業さんに1時間のミーティングのために交通費を払うから来てほしいと言っても、それ、どれだけ時間がかかるんだろうと」
「でも、それがコロナですべてのミーティングがオンライン化してみて、そうすると1時間の社外の知見もより活用しやすくなったと。
オンライン会議の画面に顔が並んでいるうちの1人が社外の人でも違和感がなくなってきましたよね。
これがわれわれのビジネスがこのタイミングで伸びた1つのきっかけになったと思います」

広がる「副業」「兼業」

テレワークの普及で加速する新しい働き方。

「副業」や「兼業」の広がりはデータでも裏付けられている。

業務委託の仲介会社が去年9月から10月にかけて、全国の3000人余りを対象に行った調査から推計したところ、「副業」や「兼業」をする人は合わせて780万人。

去年から72万人増え、2015年以降で最も多くなった。

ただ「副業」といっても、まだまだハードルが高く、特殊な才能がなければ難しいと考えている人も多いのではないだろうか。
「会社のサイトに登録して活躍している方からも『本当に自分に案件があると思いませんでした』という声をよくいただくんですね。
ただ、同じ業界に長くいらっしゃる方からすれば『みんな知ってるよ』っていうことでも新しい学びになる。
自分の知見がほかの業界から見ると『当たり前じゃなかったんだ』ということが多々あります」
「みなさん『まだ20年しか働いてないから』『世の中には30年も40年も働いている方がいる』って言うんですけど、みんな、その道の第一人者の話だけを聞きたい訳ではないんですよね。
ほかの業界から学ぶことに価値があると思っています」

自分だけの“強み”どう見つける?

新卒一括採用や終身雇用などの「日本型雇用システム」が崩れつつある中、自分がほかの会社でどこまで通用するのか、不安に感じる人も多いはず。

端羽さんが、自分だけの強みを見つける、とっておきの方法を教えてくれた。
「グループになって3分間、自己紹介して『自分はこういう人間だ』『あなたはこういう人だ』というキーワードをお互いに書いてみる。
すると自分が思っていることと他人が思っている印象が全く違って、自分では分からない“強み”に気付くことがあります
「“知らない自分”に価値がある」ということなのだろうか。

そしてもう1つポイントに挙げたのが『キーワードのかけ算』だ。
「例えば、インターネットについて話せますって言っても、ネットについて話せる人は世の中にたくさんいるわけですよね。
でも『どの業界のどういうシステムを使った効率化なら話せます』とか、そのことに詳しい人がいなくなるまでキーワードを重ねていくとオンリーワンになれる。
競争しなくていい自分、自分だけの強みが見つかっていく。
私がアメリカのビジネススクールに行ったとき『ヤング・ジャパニーズ・ワーキング・マザー』と言えばあなた1人だと言われました。
『1人』になるまでキーワードを重ねていくことは強みになると思います」

さらなる挑戦 “地方”そして“世界”へ

端羽さんは日本人の働き方をさらに変える挑戦を始めている。

2021年11月、同じような「スポットコンサルティング」を世界各国で展開してきたアメリカの企業を買収した。

実はこの企業、当時の端羽さんの会社より規模が大きい。

コロナ禍で買収の交渉はすべてオンライン。

相手の経営陣に一度もリアルで会わないままの大きな決断だった。

オンラインのミーティングを重ねることで国境の壁を越え、「一緒にグローバルに頑張っていく」という関係を築くことができたという。

買収によって、サイトに登録した日本人がスキルやノウハウを海外の企業にも提供できるようになり、日本の企業も海外の知見を取り入れやすくなることが期待されている。
2021年10月からは、鳥取県と連携し、中小企業のDX=デジタル変革の支援事業を始めている。

学習塾やフィットネスジムなどを経営する鳥取県米子市の会社。

コロナ禍で営業停止を余儀なくされるなどして業績が低迷した。

業務の効率化や社内の体制見直しなどを考えたが、社内にはこうした分野の知見を持つ人材が限られていた。

そこで頼ったのが端羽さんの会社のサービス。

業務効率化などのスキルがある都内のITサービス会社の社員とのマッチングが成立し、今はオンラインで打ち合わせを重ねている。
伊田武志 社長
「県内各地で20以上の店舗を展開していますが、コロナ禍で行き来するのが難しくなり、社内のシステムのデジタル化を進めたいと考えたときにこのサービスを知りました。
地方の人材は限られているので、すごく期待しています」
端羽英子さん
「自分の何が求められているのかというのを、自分の目の前じゃなくてもっと広いところから求めている人を見つけてくるのはすごく大事だと思っています。
それは東京一極集中じゃなくて、地方と東京かもしれないし、海外と日本かもしれない。
視野を広げて自分が提供できるものは何なのか。それに向かって攻めていくことが必要になっていくんじゃないかと思っています」

豊かさとは“選択肢の多さ”

さまざまな経験を重ねながら、今も挑戦を続ける端羽さん。

「副業」などの新しい働き方を広げようとする理由はどこにあるのだろうか。

その思いについて聞いた。
選択肢の多さが“豊かさ”だと思っているからです。
豊かさの基準は人それぞれ違うはずでいろんな豊かさがあっていい。
自分が信じる豊かさをちゃんと選べる選択肢があること、それに向かって頑張れることが豊かな社会だと思います。
やっぱり人と比べて『自分は足りないかもしれない』ってずっと焦り続けるより、『自分はこれを選んだんだ』って思えることが重要なんじゃないかと」
そしてみずからの経験を振り返り、こう力を込めた。
「副業をしたくなかったらしなくていいし、転職したくなかったらしなくていいと思います。
例えば私は子育てをしていたころにはやっぱり焦って、周りの人はもっと活躍しているのに自分にはそんな時間がないと。
でも、そのときの自分は人と比べない何かを選べた。それに向かって頑張れていることが幸せじゃないかと思っています
最後に、端羽さんが挙げたキーワードが「ゼロよりプラス」だ。
私も起業したのが33歳か34歳くらいだったんですけど、そのとき『ゼロよりプラス』と思ったんですね。
変化しなかったらゼロだと。変化して失敗しても何か学べているから10点で終わるかもしれないけど変化しなかったらゼロのまま。
そうしていくうちに10点になった自分がもう1回チャレンジしたら、0点より賢くなっているから何かできるかもしれないと。
変化に前のめって『ゼロよりプラス』。
100点じゃなくてもいいってちょっと期待値低くしていったらいいんじゃないかと思いますね
1月3日放送のNHKスペシャル「ウィズコロナの新仕事術」社会の仕組みや価値観が大きく変わる時代にどう働けばいいのか。

端羽さんら経済の新潮流を切り開く4人のリーダーが、私たちの疑問にとことん答えます。

ぜひ、ご覧ください。
大型企画開発センター ディレクター
西田勝貴
2008年入局 初任地高松局では「盆栽」や「直島」を取材。報道局では政治番組を担当し、「永田町」の権力攻防を味わう。現在は、「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代+」などを担当。時代の変化に取り残されないかと不安な毎日。
政経国際番組部 ディレクター
新野高史
2011年入局 京都局、首都圏局で勤務し、環境問題や防災、不動産などを取材。2021年から経済番組を担当、日本経済を基礎から勉強中