オミクロン株懸念で予約キャンセルも 不安募らせるバス会社

新型コロナウイルスの感染状況が低い水準に抑えられ、年末年始に観光需要の回復が期待される中、新たな変異ウイルス「オミクロン株」の影響に懸念が広がっています。
貸し切りバスを運行する都内のバス会社では予約のキャンセルが出ていて、感染拡大のときの状況に逆戻りするのではないかと不安を募らせています。

東京 北区の「東京ヤサカ観光バス」は、関東の旅行を中心に貸し切りバスを運行しています。

会社によりますと、令和2年度と令和3年度は新型コロナの感染拡大の影響で売り上げが大幅に減少し、東日本大震災が発生した平成23年度以来の赤字となりました。

バスの稼働状況の記録には、感染拡大前のおととし10月は所有する159台のバスが毎日稼働していたのに、第3波にあたる去年10月は予約が入らず1台も稼働していなかったことが記されています。

感染者が減少し始めたことし10月以降は少しずつ予約が入り始め、ピーク時の半分程度にまでバスが稼働するようになったということです。

しかし今月に入り、国内で「オミクロン株」の感染確認が相次ぐようになると、この会社でも実際に影響が出始め、年明けに予定されていた小中学校の修学旅行の予約が相次いでキャンセルになったということです。

会社では、国の補助金を活用したり、所有しているバスの台数を10台余り削減するなどして経営を維持していますが、このまま需要が回復しなければ感染拡大のときの状況に逆戻りするのではないかと不安を募らせています。
「東京ヤサカ観光バス」の滝口勝雄常務は「感染状況が落ち着いてきたので、ことしは赤字から脱却できると考えていたが、オミクロン株による影響でまた赤字に戻ってしまうのではないかという不安もある。企業努力だけでは、もはやどうしようもなく、早くコロナが終息してほしい」と話しています。

スーパーでアルバイトする運転手も

オミクロン株の影響が出ていることで、現場を支える運転手も不安を感じています。

「東京ヤサカ観光バス」の金子周史さん(38)は、この会社で運転手として働いて、ことしで10年目になります。

ことしは新型コロナの感染拡大の影響で仕事が激減し、多くの期間で会社から「自宅待機」を命じられました。
自宅待機の運転手が受け取れるのは基本給のみとなりますが「生活が苦しくなる」という声が上がり、会社は去年10月から運転手の副業を特別に認めています。

会社をやむなく辞める同僚もいた中で、金子さんは妻や幼い2人の子どもを養うため、自宅近くのスーパーでアルバイトすることを選びました。

これまで多いときは週に6日、バスの運転をしていましたが、ことしは月に1日か2日ほどしか本業の仕事ができなくなりました。

アルバイトを週5日入れても、月々の収入はこれまでの3分の2程度にしかならなかったといいます。

ことし10月以降は週に2、3回、バスの運転の仕事が入るようになりましたが、オミクロン株の影響を不安に感じる日々が続いています。
金子さんは「住宅ローンが30年くらい残っているうえ、光熱費もかかり、手元に残るのはごくわずかで、ぎりぎりの生活です。新規感染者が増えれば、今あるバスの仕事もなくなってしまう可能性があり、すごく不安です。バスの仕事一本で生活できる世の中になってほしい」と話していました。

貸し切りバス事業者の休廃業相次ぐ

国土交通省によりますと、去年2月から先月末までの間に「コロナ禍の影響」を理由に事業の休止や廃止を届け出た貸し切りバスの事業者は、全国で合わせて314に上っています。

このうち、関東の事業者は合わせて107となっています。
こうした現状について、東京バス協会の上田信一理事長は「このところ感染状況が落ち着いて人の移動が少し戻ってきたが、貸し切りバスの業界はほとんど恩恵を被っていない。需要の回復を期待しては再び感染が広がるということが繰り返され、深刻な状況だ。運転手の中には職を失う人もいる状況で、感染の終息を祈るしかない」と話していました。