年を越せない…若者たちのSOSはどこに?

年を越せない…若者たちのSOSはどこに?
「寒い 寒いよ 電気が止められた」

コロナ禍で2度目の年末年始。SNS上には生活の苦しさを訴える声が相次いでいます。中には学生や20代、30代の人たちも。

若者たちの声を聞こうと取材を始めましたが、はじめはなかなか出会えませんでした。背景には、若い世代ならではの“ある事情”がありました。

※文末に年末年始の主な支援の動きをまとめています。
(おはよう日本 山内沙紀 ネットワーク報道部 小倉真依 松本裕樹)

炊き出し会場では…

まず行ってみたのは、都内の炊き出し会場です。

平日の午後、公園でNPOが開いていました。配られるのは白米やバナナ、インスタントラーメンなどの食料に、靴下などの生活用品も。

寒空のなか200人以上が集まり、中には1時間以上前から待つ人もいました。
ほとんどが50代以上の人たちです。
食料受け取った56歳男性
「介護の仕事についていましたが、去年夏に施設でクラスターが発生して仕事を失いました。1週間飲まず食わずの時もあり、炊き出しは本当にありがたいです」
NPOの人に聞いてみると、炊き出しに並ぶ人の数は去年の同じ時期より1割ほど増えているということです。
若い人がいるか聞いてみると「もともとはいなかったが、ことしの6月ごろからは見かけるようになった」と話していました。

会場で比較的若い人を探して話しかけると38歳の男性でした。
「塗装の仕事をしていましたが体調を崩し、今は仕事がなく貯金も底をつきました」とのこと。
そのほか20代かも、という人を1人見かけましたがタイミングが合わず、話しかけることができませんでした。
取材を進めると「夜の街で働く学生が多い」との情報が。
「支援を受ける場所」やその周辺ではなく「働いている場所」。

夜になって私たちは、新宿・歌舞伎町へ向かいました。
入ったのは「ガールズバー」。女性の従業員がカウンター越しに接客する飲食店です。

学費や家賃を払うため 切実な実態

大学1年生のマコさん(仮名・19歳)に話を聞かせてもらいました。
ことし4月に大学入学のため上京し、都内で1人暮らしです。

お店で週4~5日働いて、月の収入は約15万円。
奨学金を借りていて毎月、学費と家賃合わせて13万円を支払っています。
残りは差し引き2万円。
ここから生活費や交通費をまかなっています。

実家にいる親はコロナの影響で収入が減っているため、仕送りはしてもらっていないということです。
マコさん
「生活はぎりぎりで厳しいです。外食はしないでコンビニも使わないようにしてお弁当を作って食費を浮かせています。化粧品はディスカウントストアで買ったりしています」
将来のために資格を取得したいと考えていますが、勉強時間を確保するのも大変な状況だといいます。
マコさん
「アルバイトのない日を1日勉強に費やしたりしていますが、働かないといけないので勉強できる時間も少なくなってしまいます。時間もお金ももっと余裕がほしいです」
生活が厳しいのはマコさんだけではありません。

この店で働く専門学校生や大学生たちは、親の負担を少しでも減らしたいと、学費や家賃をかせぐためにアルバイトをしていました。

生活保護うけるしか…

学業とアルバイトをなんとか両立させながら、ぎりぎりの生活を送っている学生たち。

若者の支援団体に取材すると「若い人は他人に頼らず、迷惑をかけちゃいけないという意識が強い。私たちもつながっている若者はごくわずかで、相談してくる人は限界まで耐えて、どうしようもできなくなって来る」とのことです。

そんな中「このままじゃ年を越せない」と切迫した状況で団体に相談してきた人がいると聞き、話を聞きに行きました。
都内で1人暮らしをする健太さん(仮名・28歳)です。

新型コロナの感染が広がる前は営業職の正社員として働いていましたが、税理士を目指して勉強に専念するため仕事を辞めました。

派遣の仕事を探したものの、コロナの影響が広がり始めると「ちょっと待ってほしい」と言われ、100社応募しても仕事が決まらない状況が続いたといいます。

コロナ禍のこの2年近く、短期の派遣の仕事を見つけてなんとか生活してきた健太さん。貯金を少しずつ切り崩してやりくりしてきましたが、そのお金も底をついてしまいました。
国の支援制度を活用しましたが、その返済金やカードローンの借り入れもあわせると、45万円の借金を抱えています。

つい最近まで次の仕事も決まらず、このままでは家賃も払えなくなって、生活保護を受けるしかないと考えていました。
健太さん
「なるべく暖房をつけないで部屋の中でダウンジャケットを着て勉強したり、自炊や家計簿をつけたりして節約しています。ずっと厳しい生活でゆとりなんて全然ありません。そうした生活にももう慣れてしまいました」

把握しにくく、つながりにくい若者たち

長年、若者や女性の貧困について取材を続けているノンフィクションライターの飯島裕子さんです。

飯島さんは、困窮する若者は炊き出しなどの目に見える支援にはつながりにくく実情を把握しにくい点が課題だといいます。
飯島さん
「路上生活のような状況なら支援の手は届きやすいですが、多くの困窮する若者は日雇いやバイトでその日を食いつなぎ、ネットカフェや友人宅に泊まるなどぎりぎりのところで踏みとどまるため支援側とつながりにくい面があります。しかし、今はコロナによってバイトや非正規の仕事を辞めさせられ実際はその居場所すら失う人が増えていると思います」

大学生自身の“気付き”から支援へ

こうした状況をなんとかしようと、若い世代の人たち自身の動きが始まっています。
都内の大学4年生、岩本菜々さん(22歳)です。

労働や貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」で、ボランティアとして活動しています。

岩本さんが活動のなかで出会ったのはまさにコロナ禍で仕事を失い、行政の支援につながることもできないまま、ネットカフェや見知らぬ人の家を転々とする若者たちでした。
岩本さん
「頑張ったら生活がうまくいくと思っていたけど、現実はそうじゃなくて、どんなに働いても解雇されて一瞬にして家を失ってしまうことがある。家を失うことって簡単なんだという現実を知りました」

「家に住む」という当たり前の権利が守られ、誰もが安心して暮らせるようにしたい。岩本さんたち大学生が中心となって立ち上げたのが「家あってあたりまえでしょプロジェクト」。

住まいを失った若者は受けられる支援の情報を知らないことも多く、行政の窓口に足を運ぶこともハードルが高いといいます。相談を待っているだけでは支援を必要としている若者には届かない。
そこで岩本さんたちは12月28日から31日まで、駅前やネットカフェの前で相談を呼びかけるチラシを配り、年末、過ごす場所がない人たちに自分たちから声をかけて働きかけることにしています。

活動拠点となるのは、さいたま市のJR大宮駅前にある鐘塚公園。食料や生理用品を配布したり何か困っていることがないか聞き取りをして、必要に応じて行政が提供する一時宿泊施設に案内したりすることにしています。また、TikTokで情報発信したり、LINE(ID:@205hpims)で相談を受け付けたりもしています。
岩本さん
「『コロナ世代』とも言われる私たちは、かわいそうだとよく言われますが、コロナの危機をきっかけに貧困問題に立ち上がった同世代の若者が多くいます」

「行政に支援の拡充などの働きかけを行っていきたいし、このプロジェクトに共感して共に動いてくれる仲間が増えてくれたらうれしいです」

「現金給付」に乗り出すNPOも

大阪市にある認定NPO法人「D×P(ディーピー)」です。

これまで進学や不登校などに悩む若者からの相談に応じてきましたが、コロナが長期化する中で経済的な苦しさを訴える声が増え続け、全体の半数を占めるまでになりました。
そこで年末年始にかけて1人暮らしや金銭的に家族に頼ることができない10代~20代前半の人を対象に、8万円を給付することにしたのです。

12月6日にSNSで呼びかけたところ
1週間で想定を大きく上回る380人余りから相談が寄せられました。

団体によりますと、相談のうち約6割は家賃の滞納や借金などを抱え、経済的に深刻な状況を訴える内容だったといいいます。
「今は生活するのがやっとで、冬服は手持ちの2着を着続けています。手持ちのお金では年末年始の生活は確実に無理で、毎日毎日どうしたらいいのか、どうなるのか不安です」(20代・女性)

「今は友達の家を転々とし、お風呂は4日に1回、洗濯は1週間に1回、コインランドリーで生活しています。親が借金をしていて家族もコロナで仕事を失ったため、自分が実家に仕送りをしています」(20代・男性)

「バラマキ」ではなく支援のきっかけに

代表の今井紀明さんは、現金の給付はあくまで「緊急的な措置」で、情報が届きにくく必要な支援につながりにくい若者たちに“きっかけ”をつくることが目的だといいます。
今井さん
「今回の現金給付は単なる「バラマキ」ではありません。お金を配るだけでは寄り添った支援とはいえないので、その先の生活を一緒に整えていくことや支援制度につなげていくことが私たちのやるべきことだと考えています。なにより、若年層に情報が届いていないことが問題です。私たちの団体に相談にくる若者の多くが国や行政の支援を知りません。孤立している10代・20代に手を差し伸べるためには、SNSやネットでの発信でこちらからアプローチする必要があります。今回の取り組みがそのきっかけとなればと考えています」

「あなたは1人じゃない」

ノンフィクションライターの飯島裕子さんは、長引くコロナ禍の中で、大学生や若者の実家も経済的に困窮していたり、親子の関係が途切れていたりして、頼ることができないケースもあることなどを挙げ「学生なんだから実家に頼ればいいでしょ」とか「若者なんだからほかにも仕事があるでしょ」といった世間一般の認識・意識を変えていく必要があると指摘しています。
そのうえでこの年末年始、いちばん気になっていることは「孤独」と「孤立」だと言います。
飯島さん
「『孤独』や『孤立』がいちばんつらいと言う人が多いんですよね。周りの音を聞いてホッとしたくてネットカフェを選ぶ人もいるぐらいです。年末年始を1人で過ごすというのはメンタル的にも相当きついと思います。年末年始は役所も閉まるところも多いですが支援団体は取り組みを続けているので声をあげてほしいです。『あなたは1人じゃない』ということを知っていてほしいです」
苦しさを訴える若者となかなか出会うことができなかったわけ。

それは、苦しい生活の中でもアルバイトや非正規で働きながら自分でぎりぎりまでなんとかしようと必死にふんばって頑張っているからでした。

そして、頑張りたくても頑張れなくなるまで深刻な状況に陥った若者たちが、支援からこぼれ落ちてしまっている現実がありました。

年の瀬のいま、寒さのなか1人不安を抱えて悩んでいる人がいるなら…どうか支援を求めてください。

聞こうとしなければ、聞こえてこない切実な声。
私たちは耳を澄ましていかなくてはならないと思います。

年末年始困ったら

公的機関が休みに入る年末年始ですが、各自治体やNPOなどの支援策があります。
ここにまとめておきます。
【東京都 ビジネスホテルを無償提供】
【対象】:新型コロナの影響で失業するなどして住まいを失った人
【支援の期間】:12月27日~1月5日まで。
(受け付け:27日~/時間:午前10時~午後5時まで)
※ただし、12月31日、1月1日、1月3日の3日間は受け付けていません。
【申し込み方法】
「TOKYOチャレンジネット」経由フリーダイヤル 0120ー874-225女性専用ダイヤル0120-874-505
日本労働弁護団など
「年越し支援・コロナ被害相談村」
【内容】
・食事の提供、医師による診察、宿泊場所の確保支援など
【場所】
東京都新宿区大久保公園
【日時】
・12月31日
午前11時~午後5時
・1月1日
午前10時~午後4時
NPO法人
「BONDプロジェクト」
【対象】
家に居場所がない若い女性
【内容】
メールやLINEによる相談
一時的な居場所の提供などの支援
▽LINE相談
12月29日~1月1日
午前10時~午後9時半
(ID:bondproject)
▽メール相談
hear@bondproject.jp(24時間受付)
新型コロナ・住まいとくらし緊急サポートプロジェクトOSAKA
【内容】
生活や就労の相談、宿泊・食料支援
【日時】
12月30日~1月3日
午前10時~午後3時
【場所】
大阪市西成区「東田ロージ」
これ以外にも、全国各地の支援活動については「NPO法人 ホームレス支援全国ネットワーク」がホームページでまとめています。