「TikTok売れ」若者はなぜ短い動画で本を選ぶのか

若者に人気の動画共有アプリで話題になった商品が爆発的な売り上げを記録するいわゆる「TikTok売れ」が若者の読書にも影響を与えています。動画での紹介をきっかけに過去に発表された小説が再びヒットするケースが相次ぎ、この冬、動画のクリエイターがおすすめの本を選ぶ新たな賞もでき、大手出版社も協力しました。なぜ、若者は短い動画で本を選ぶのか、取材しました。

32年前の小説がヒット

「TikTok」は数十秒の短い動画で有名人や若者が踊る様子が人気の動画共有アプリです。

ことしは、動画で商品が紹介されて爆発的な売り上げにつながるいわゆる「TikTok売れ」が話題になりました。

最近おすすめの小説を紹介する動画が増え、その結果過去の作品が急激に売り上げを伸ばすケースが目立っています。

ことし話題になったのが、作家の筒井康隆さんが1989年に発表した小説「残像に口紅を」です。

TikTokの動画で紹介されたことをきっかけに話題となり、ことし7月以降、11万部余りの増刷となりました。

それまで30年ほどでおよそ27万部発行されたロングセラー作品ですが、わずか数か月で10万部を超える増刷は異例の売れ行きと言えます。

クリエイター「冒頭3秒間でいかに興味を持ってもらえるか」

売り上げに大きな影響を与えたとされるのが、小説の紹介で人気のクリエイター、けんごさん(23)です。

けんごさんがこの作品を紹介した動画の再生回数は、2021年12月現在、890万回にも上っています。

なぜ、これほどまで多くの人に動画が見られたのか。

けんごさんを取材しました。

「残像に口紅を」は、章が進むごとに世界から使えることばが減っていくという設定のいわば実験小説です。

動画では、その設定を説明するのに次のような問いかけから始めます。

「もしこの世から、『あ』という言葉が消えてしまったら、どんなことが起きると思いますか?」

このように、数秒で本に興味を持ってもらうよう、冒頭の語りだしには特に注意を払っているそうです。

その後も「『あ』という言葉が消えれば、『愛』という言葉も『あなた』という言葉も使えないということです」など本への興味を引き付ける表現で伝えます。

一方、動画自体はわずか31秒で、肝心なところの「ネタバレ」を避け、見たいという気持ちにさせます。

けんごさんは、TikTokの魅力と動画のコツについて次のように話します。
「TikTokは自分で再生しなくてもおすすめ機能で勝手に流れてくるので、本に興味がなかった人でも見てもらえます。ただ、興味がないと思われたらすぐにスクロールされてしまうので、冒頭の3秒間でいかに興味を持ってもらえるかを意識して作っています」

大賞も設立 本屋でフェアも

今月15日にはけんごさんみずからが選ぶ「けんご大賞」が発表されました。

この賞は、けんごさんがみずから大賞を作りたいと発信したのに対し、大手の出版社などが協力を持ちかけました。

選考委員は、けんごさん1人です。

1番の「ベストオブけんご大賞」は小説家・綾崎隼さんの「死にたがりの君に贈る物語」。

さらに10の作品が大賞と特別賞に選ばれました。

大賞作品を発表する様子はTikTokで生配信され、およそ30分間の動画を1万2000人が視聴しました。

翌日の16日からはこの大賞と連動して受賞作品を特集するフェアが始まりました。

全国およそ800の書店などに特設コーナーが設けられる予定です。

(「SHIBUYA TSUTAYA」の担当者)「棚を設けると若い人たちが友達と小説について話している姿を見かけるので、本や活字に少しでも興味を持ってもらう入り口としてよい役割を果たしてもらい本当にありがたいです。本を読む文化を絶やさないためのよい流れなので、書店としても盛り上げていきたい」。

なぜ短い動画で本を ?

若者たちはなぜ短い動画の紹介で、本を手に取るのか?

東京・渋谷で高校生たちに聞いてみました。

はじめはTikTokで本を探す人が見つかるか不安でしたが、1時間足らずで合わせて3人見つかりました。

1年生の女子高生は、まさにけんごさんの動画を見て「残像に口紅を」を買ったそうです。

「話し方がうまいので、あらすじもすべておもしろそうに感じるし、問いかけるひと言で引き込まれ、昔の本とか全然知らない作者の本とかも買おうと思わせてくれるのがよいところだと思います」

本を読む習慣がなかったもののTikTokの動画をきっかけに本を買うようになったという高校生もいました。

(都内の高校に通う男子生徒)
「時間をとらずにぱっと視聴できて、内容も伝わってくるので本を買う気になりました」
(1年生の女子高生)
「芥川賞を受賞した作品などはすごい難しいイメージがあり、今まで読みませんでしたが、紹介される動画で見ると難易度が高いわけではなくて読みやすいことがわかるので、買って読んでみるきっかけになります」

TikTokで紹介された本が高校生に浸透していることをうかがわせる調査もあります。

全国学校図書館協議会などが行ったことしの「学校読書調査報告」です。

高校2年生と3年生の女子が「今の学年になってから読んだ本」の1位に宇山佳佑さんの「桜のような僕の恋人」が選ばれました。

若者の読書に詳しいライターの飯田一史さんによりますと、これはTikTokで人気となった作品で、この調査では、ほかにも動画で人気となった複数の作品が上位にあがっていました。

理解が得られないことも…

一方、まだ多くの世代に浸透していない面もあります。

けんごさんのもとには短時間の動画で本を紹介していることへの批判がたびたび寄せられたということで、けんごさん自身、今後TikTokでの発信をやめると発表したのです。

けんごさんはTikTok以外での発信は続けるとしています。

本との「偶発的出会い」提供

TikTokによる本の紹介は、今後どのように展開していくのか。

飯田さんは、読書の機会が減りがちな高校生などの若者に本を紹介する機会として、大きな可能性を秘めているとしてします。
「小学生までは読み聞かせなどの行事があり、関心のなかった本に出会う機会も用意されていますが、高校生になると読書の数が急激に減ります。TikTokの特徴は、勝手におすすめの動画が再生されることで、若者たちはたまたま流れてきた本の紹介動画を見ていますが、TikTokが本との『偶発的な出会い』を提供することで、読書の習慣が薄れてしまった人にもう一度本を読むきっかけを与えています。このことはすごく大事なことだと思う」と話しています。