応援は力になる!

応援は力になる!
新型コロナの影響を大きく受けているスポーツ界。新たな変異株が現れる中で先行きは不透明です。声を出して応援できずファンの思いも複雑なままです。でも、こんな時だからこそひいきのチームを支えよう!応援は力になっています。(ネットワーク報道部記者・松本裕樹)

カープファンに聞いてみた

この2年、球場で思うように応援できないファンはどのような思いなのでしょうか。今や全国区の人気を誇るプロ野球・広島カープのファンに聞きました。入道まい子さん(広島県三原市在住)は、日米通算203勝をあげた黒田博樹投手を応援してきました。これまでは毎年、家族や友人と本拠地のマツダスタジアムで観戦していましたが、去年はゼロ、ことしも球場を訪れたのは1度だけでした。

入道まい子さん

球場に行きたい気持ちは強かったですが、コロナの感染状況を考えるとこの2年間はずっと我慢する日々でした。テレビで試合を見ていてももの足りないし、みんなで試合の雰囲気を共有できない寂しさも感じています。来シーズンはもっと球場に行きたいですが、どうしてもコロナの感染状況が気になってしまいます。
大リーグ挑戦を表明した鈴木誠也選手のファンという27歳の男性(神奈川県在住)は、球場に行っても応援のしかたに違和感がありました。

カープファンの27歳男性

やっぱり声を出さない応援というのがいまいち盛り上がらない。手拍子だけの僕たちの応援って、選手に届いているんですかね?
感染対策のため、声を出した応援やジェット風船を飛ばすことができなくなりました。グラウンドの選手に全身全霊で応援のパワーを伝えたいというファンには、もの足りない状況になっています。応援って、選手の力になっているのかなぁ?と調べていると、こんな検証が行われていました。

応援されると運動量アップ!

富山県の高校のハンドボール部で、無観客と有観客で紅白戦の選手のプレーに違いが出るのか検証したところ、無観客の前半と応援する観客がいる後半でパフォーマンスに差が出たというのです。

選手を後押しする「観衆効果」

日本大学文理学部の水落文夫教授は観客がいることによって、選手のプレーにプラスの効果があったと指摘します。

水落文夫教授

選手がどのように応援を受け止めるかにもよりますが、総じて陸上のトラック競技やマラソン、相撲、水泳などでは心理学の「観衆効果」によって、アドレナリンが出てパフォーマンスの向上が期待できます。一方、アーチェリーやテニスのサーブなど、ふだんのルーティーンに意識を集中させる競技では「観衆効果」で過剰に興奮してしまい、微妙な調整に狂いが生じることがあります。

ファンにも応援でプラス効果

応援についてファンヘの影響も調べると、精神科の梶本隆夫医師は次のような効果を教えてくれました。

梶本隆夫医師

スタジアムという非日常の空間で好きな選手や試合を見られる。それだけでも快感や幸福感を感じさせるドーパミンや、興奮や緊張によってアドレナリンが出ます。特にサッカーや野球など点が入った時には多くのドーパミンやアドレナリンが出ます。会場に行くだけで精神面で多大なプラスの効果を与えています。

声なし応援でも意味はある

鶴見大学歯学部の斎藤一郎教授は、スポーツ観戦による老化防止の効果を指摘します。

斎藤一郎教授

コロナ禍でマスクをつけたことで表情筋を使った喜怒哀楽を示しにくくなっています。それがスタジアムに行けば、劇的な試合展開が待っていて、強烈な喜怒哀楽があり、声は出せなくても口角が上がり、表情は豊かになります。さらに試合後、仲間と話すことで試合中に声が出せない状況でも十分、スタジアムに行く意味があります。
口の老化は全身の老化につながるとされています。口の機能が低下すると、慢性炎症性疾患を引き起こす原因にもなるし、よりひどくさせる増悪因子になることが研究で分かっています。

コロナ禍のシーズン 経営者は

観客数の制限や従来の応援スタイルを規制せざるを得なかった状況をチームの経営者はどう考えているのでしょうか。サッカーJ2のヴァンフォーレ甲府を訪ねました。ヴァンフォーレ甲府は熱心なサポーターとJリーグトップクラスという約270のスポンサーで支えられています。佐久間悟社長は、5年ぶりとなる来シーズンのJ1昇格をあと一歩で逃した次の日から、スポンサーへのお礼のあいさつ回りを始めていました。
佐久間社長
「物心両面で支援頂き、ありがとうございました」
ドラッグストアチェーン社長
「スポーツの活性、地域の活性は大事なこと。頑張ってやってほしい」

大幅に減少した入場料収入

ヴァンフォーレ甲府はコロナ禍でのスポンサー収入の減少をほぼ食い止めましたが、入場料収入は激減しています。J1だった2017年に約1億5000万円あったものが、去年とことしは3分の1以下に落ち込みました。これによって外国人選手を思うように獲得ができないなどチーム強化に影響が出ました。

佐久間悟社長

まず心理的な側面で、この2年間でサッカー観戦が日常生活の中になくてもいいなって考える人がいると思います。私は来年以降、観客数が100%に戻るのは難しいんじゃないかなと予想しています。なので、そうした懸念を上回る熱い戦いを見せて、サポーターがスタジアムに駆けつけたいというチーム作りをすることがこれまで以上に求められています。

プロ野球も記録的な観客数の減少

国民的スポーツとして戦後、人気を博してきたプロ野球もコロナ禍で記録的な観客数の減少となっています。1950年以降のセ・リーグの入場者数の推移です。今シーズンは約450万人で1試合当たりの平均で見ると1万223人。球場の収容人数が少なかった1953年の規模にまで落ち込みました。そうした中でファンの声を紹介した広島カープも、去年の決算では約29億円の赤字となりました。赤字は46年前の1974年以来でした。

チームの存在意義を考える機会に

プロスポーツチームの経営に詳しい九州産業大学人間科学部の西崎信男教授は、チームの経営側が厳しい財政状況についてファンと共有したうえで、その地域に絶対に欠かせない存在になることが求められるとしています。

西崎信男教授

Jリーグもプロ野球も海外に比べると入場料収入の割合が大きいので、コロナによるダメージは大きい。例えば日本のプロチームで株の買い付けを導入することは現実的ではありませんが、「このチームが本当に必要なのか」ということをファンも考えるべきです。

海外のサッカーチームの株主なんです

西崎教授は大学教授になる以前に、イギリスで証券マンとして働いていました。こうした経緯から、当時住んでいた地域にあったイングランド3部に相当するリーグに所属する「AFCウィンブルドン」を応援するようになり、株主にもなりました。

西崎信男教授

私自身、チームの株を持ったことでチームへの愛情とともに、運営面について今まで以上に考えるようになったと思います。もちろんチームを存続させる責任感も生まれました。

球場で応援するだいご味を味わってほしい

今回紹介したプロ野球、Jリーグはともに来シーズンについて、観客の制限を設けずに試合を行うことを目指しています。かつての応援スタイルがすぐに復活するのは難しいかもしれませんが、ファンは新たなシーズンの開幕を心待ちにしています。

上垣健司さん

4歳の息子もいろいろ野球がわかるようになってきました。子どもに球場の雰囲気だったり、選手の躍動する姿を見たりしてほしいです。マスクをして、感染対策で声も出せない状況ではありますが、手拍子だけでもいいので子どもと一緒に選手に思いを届けたいです。
プロ野球の番記者を経験したこともある私は、スポーツがつらいことがあっても人が前を向いて生きていくための力を与えてくれることを信じています。

応援は力になる!


このことを知っていてほしいです。