都内「炊き出し」支援受ける人増加 “過去最多”の団体も

新型コロナウイルスの影響が長期化する中、都内では食事を無料で提供する「炊き出し」の支援に頼らざるをえない人が後を絶ちません。
NHKが取材したところ、民間の少なくとも8つの団体では緊急事態宣言が解除された後も支援を受ける人が増え、1か月当たりの人数が過去最多となった団体もあることが分かりました。
非正規雇用で働く人が主に増えているということで、専門家は「影響はより深刻になっており、早急な対策が必要だ」と指摘しています。

都内では緊急事態宣言が解除されたことし9月末以降、新型コロナウイルスの感染状況が大幅に改善し、日常の生活が徐々に戻りつつあります。

しかし、NHKが都内で炊き出しを行っている民間の支援団体などに取材したところ、回答が得られた17団体のうち、支援を受ける人が減ったと答えたのは1団体だけで、ほぼ半数にあたる8つの団体では今も増加傾向が続いていることが分かりました。

このうち統計を取っている3つの団体でみると、先月の人数は合わせて2457人と、初めての緊急事態宣言が出された去年4月以降で最も多くなりました。

去年4月の時点と比べると3倍余りに増えています。

中には先月の人数がリーマンショック後の記録を上回り、過去最多となった団体もあるということです。

生活相談も行っている複数の支援団体によりますと、主に増えているのは非正規雇用で働く人たちで、勤務のシフトが減ったままだったりと、今も雇用環境が改善していないことが背景にあるとみられるということです。

池袋の炊き出し 若い世代や女性の姿も

今月11日に豊島区東池袋の公園で行われた炊き出しには合わせて450人余りが訪れ、若い世代や女性の姿も目立ちました。

主催したNPO法人の「TENOHASI」では、毎月2回この公園で炊き出しを行っていますが、初めての緊急事態宣言が出された後の去年6月以降、訪れる人が増える傾向が続いているということです。

そして先月は合わせて906人と、リーマンショック後の2009年7月に記録した810人を上回り過去最多となりました。

この日も1回当たりの人数としては過去3番目の多さで、会場は夕方から長蛇の列ができ、中には2時間以上待ったという人もいました。

用意された酢豚弁当など450食分はすべてなくなり、提供を受けられない人もいたということで、NPOでは代わりに飲食店のチケットを配って対応していました。

また、会場では生活相談も行っていますが、NPOによりますと最近増えているのは非正規雇用で働く人たちで、初めて炊き出しに並んだという人も少なくないということです。

特に、貯金を取り崩したり、国から当面の生活費を借りられる制度を利用したりしてなんとか生活してきたものの、ここへきて立ち行かなくなったという人が目立つとしています。

炊き出しに並んでいた人のうち、デパートで契約社員として働く30代の男性は、シフトが少ない時は週3日の生活が1年半ほど続いているといいます。

男性は「ことしは新型コロナが収束して以前のような生活に戻れると思っていましたが、シフトが減ったままでまだまだ収入が少なく、炊き出しに並ぶほど生活は厳しいです。なるべく早くここに頼らなくても生活できるようになりたい」と話していました。

「TENOHASI」の清野賢司 代表理事は「かつてここを訪れるのはほとんどが路上生活者だったが、今は若い女性を含め、家を失う一歩手前の人たちが集まってきているという印象だ。もともと苦しい立場にあった人がどうにか綱渡りで生きてきたが、新型コロナでその綱が断ち切られ、炊き出しで1食を確保するしかないという状況になっている。こうした事態になるとは予想しておらず、私たちのような団体だけでは限界があると感じている」と話していました。

専門家「雇用形態にとらわれないセーフティーネット拡充を」

労働問題などに詳しい法政大学の酒井正 教授は、新型コロナウイルスの感染拡大後、企業が従業員の雇用を維持した場合に休業手当などの一部が助成される「雇用調整助成金」の特例措置を国が実施したことなどにより、失業率の上昇はリーマンショックの時と比べて抑えられているとしています。

その一方で、新型コロナウイルスの影響が長期化する中、非正規雇用で働く人は勤務のシフトが減ったまま収入が回復せず、生活がより厳しくなるケースが相次いでいるということです。

酒井教授は「統計に表れにくい失業すれすれの生活困窮者が増えていて、炊き出しに訪れる人の増加はこうした実態を反映していると考えられる。影響はより深刻になっており、雇用形態にとらわれないセーフティーネットを早急に拡充していく必要がある」と指摘しています。