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寿退社って、定年退職のこと?

「結婚したら仕事辞めるの?」
最近こういう会話を耳にしなくなりました。

かつて女性が仕事を続けたくても「寿退社」を選ばざるをえない時代がありました。今ではもとの意味とは違った捉え方をする若い世代が増えています。

(おはよう日本ディレクター・山内沙紀、ネットワーク報道部記者・廣岡千宇、國仲真一郎)

意味が変わってきている?

取材のきっかけは大きな反響を集めていたこんなツイートでした。
先日、高3向けの授業で「寿退社っていう言葉が昔よく使われていたんだけど、知っていますか?」と聞いたところ、ある女生徒が「定年まで勤め上げてめでたく退社すること」と回答。そう、もう純粋に寿退社の存在を知らないのだ。
塾講師をしているという投稿者に連絡を取ってみると、別の男子生徒との間ではこんなやり取りもあったとのこと。
男子生徒「子どもを産むときに辞めるやつでしょ」
投稿者「いや、結婚するときに辞めるの」
男子生徒「え、なんで結婚のタイミングで辞める必要あるんですか?」
投稿者は高校生全員がそのように思っているわけではなく、今はこう感じる高校生もいるという趣旨の投稿だったと断ったうえでこう話してくれました。
結婚して家庭に入る道も含め、ひとりひとりが自分に合った生き方を選ぶことができる社会であったらいいなと願っています

街で聞いてみると、ほんとだった…

今回の取材チームは30代から40代。思い返してみると、子どもの時にテレビドラマで「寿退社」という言葉を耳にした記憶があります。

東京・原宿で聞いてみることにしました。
この言葉の意味、知ってますか?
10代女性
会社で定年まで働いて退職することですか?
10代男性
寿というのは縁起のいい言葉なので…定年を迎えて退社しても金銭的に困ることがないとか…
この男性に「結婚して退職すること」と伝えると、きつねにつままれたような表情で「勉強になります、ありがとうございます!」とお礼を言われてしまいました。
こちらこそご協力ありがとうございます…!
意味を知っているという人に「寿退社」のイメージを聞いてみると…
10代女性
これからは社会じゃなくて家の中で暮らしていく…あんまりいいイメージじゃないです。自分の意思だったらいいかもしれないけど、結婚相手とか周りの人に言われるのは、幸せなことを(他人に)勝手に決められるの?ってすごくイヤな感じ。
20代男性
(寿退社を)してほしいとは思わないです。女性側の意思を尊重したいんでどちらでもいいです。
20代の2人にとって「寿退社」とは…
東京・原宿で聞いた若い世代で言葉を知っているかいないかは半々くらい。「寿」というめでたい意味の文字にもかかわらず、「結婚=退職」という考え方には疑問の声が多く聞かれました。

「結婚または満35歳に達したときは退職する」

今では考えられませんが、昭和の時代には女性が就職する際に「結婚したら退職する」という条件で採用していた会社もありました。

結婚を機に退職させられた女性が不当解雇だとして会社を訴えた1960年代の裁判。会社は女性職員の採用にあたって「結婚または満35歳に達したときは退職する」という内容を労働契約に盛り込み、念書も提出させていました。
判決ではこうした結婚退職制は性別による差別待遇で合理性がなく、結婚の自由を制限しているなどと指摘したうえで、公の秩序に反する以上、解雇は無効としました(後に女性と会社は和解)。

ただ、その後も「寿退社」がなくなることはありませんでした。
同志社大学 冨田安信教授(労働経済学が専門)
同志社大学 冨田安信教授
戦後の高度経済成長期には企業の賃金も右肩上がりに伸びていき、ホワイトカラーと呼ばれる人たちを中心に男手ひとりの収入だけで家族を養っていくことができた時代でした。企業の側にとっても、当時は結婚や出産を見越して女性には替えが効くような補助的な仕事だけを任せる傾向があり、結婚を機に退社を申し出る女性たちを引き留めようという意識が低かったように思えます。

あなたはどう?世代とともに変わる「寿退社」

「寿退社」を知っている人でも、世代によってその印象は異なっていました。
共働きの40代夫婦
(妻)子どもとずっと一緒にいられる専業主婦には憧れますが、結婚したから仕事を辞めようとは考えなかったですね。
(夫)寿退社?うらやましいですね、ひとりの給料だけで養えるっていうのは。こんなご時世なんで一緒に働いてもらわないと生活が成り立ちません。自分の会社でする人がいると、大丈夫?やってけるの?ってなります。
60代女性
私も寿退社をしました。だって結婚して辞めていくのが一番理想じゃないですか。だいたい24、5でお嫁にいくのが普通でした。
70代の女性グループ(高校の同窓生)
私たちの頃はみんなそうよ、寿退社が当たり前。夫のオカネで生活できるような人と結婚しなさいって。

結婚と同時に辞めてしまう、会社もそう思っていました。でも今の人、逆にかわいそうね。選べない、絶対働いてないといけないって。

あの人も「寿退社」だった

寿退社が多かった時代、女性たちにはどんな心の葛藤があったんだろう…そう考えた時に真っ先に私(山内)の頭に浮かんだのが58歳になる母でした。
母は結婚するまで航空会社の客室乗務員、キャビンアテンダントでした。

高校時代に亡くなった母の父が「男社会の職場が多い中で、この仕事は女性が活躍して認められている」と言ってくれたのが目指したきっかけだったと聞いたことがあります。当時は「スチュワーデス」と呼ばれ、女性にとって今以上に憧れの職業の1つでした。

母は最初の挑戦では不合格でしたが、父の言葉を胸に短大卒業後に事務職として働きながら勉強を続け、2度目のチャレンジで採用されました。

なのに、どうして「寿退社」を選んだのだろう。

辞めたくなかったよ、最初は。結婚したって、続けたかった。好きだったから。夢だったから。

仕事か結婚か、どちらか1つ

母が結婚のため退社したのは4年目の25歳。仕事を覚えて、やりがいも感じ始め、「チーフパーサー」と呼ばれるリーダー役の試験にも合格しました。

一方で上司や同僚からは結婚を勧められることが増えていました。
胸に付けたチーフパーサーのバッジが誇らしかった

仕事か、結婚か、2つに1つだった。それに(自分の両親も)共働きじゃなかったし、やっぱりそうなのかな、って。

夢だった仕事だけど4年しか働いてない。でも女性が結婚しても仕事を続けるための制度や仕組みが今みたいに整ってなかった。私は関西で、お父さんは関東勤務だったから別居婚になるし、子どもができても保育園も多くなかったし。
みずからのキャリアを誰にも相談せず諦める決断をした母。結婚したばかりの夫に相談できなかったのでしょうか、当時の事情を聞いてみました。
夫(私の父)
その頃はやっぱり男は一生懸命稼いで妻を養えるようにするのが当たり前だった。
当時はね、サラリーマンとして働いていて妻も働きに出ていると「あいつは稼ぎが足りないから奥さんに働かせている」なんて思われたりもしたんだ。だから自分からは仕事を続けていいよとは言えなかったかな。

結婚、出産しても仕事をしたい

「寿退社」についてこんな世論調査があります。NHK放送文化研究所が実施している「日本人の意識」調査です。1973年から5年おきに行われ、2018年が10回目でした。
全国の16歳以上を対象に個人面接法で実施
結婚した女性が職業をもち続けることをどう考えるか。
「結婚して子どもが生まれても、できるだけ職業をもち続けたほうがよい」と考える人は1973年は20%でしたが、その後はどんどん増えて、2018年は60%で最も多くなっています。

これに対し「結婚したら、家庭を守ることに専念したほうがよい」と考える人はわずか8%です。

1973年は42%で最も多かった「結婚しても子どもができるまでは、職業をもっていたほうがよい」も、2018年は29%に減っています。
結婚した女性が職業をもち続けることについて
「結婚して子どもが生まれても、できるだけ職業をもち続けたほうがよい」と答えた人を男女別にみると、男性でも5割を超えるようになっていて、女性が仕事をもつことへの意識は男女ともに大きく変わってきています。
同志社大学 冨田安信教授
女性の雇用を考えるときに無視できないのは、企業の賃金体系に関わる大きな変化です。世界で日本経済の低迷が目立つ中で、一昔前までのような賃金の上昇カーブがこの先見込めないかもしれません。そうした中で若い世代も含めて共働きで収入を確保しようという動きが広がりました。

企業側も人手不足が相まって女性を積極的に雇い入れるようになり、以前は考えられなかった重要なポストに就くようになっています。実際に女性が活躍する機会が広がったことで、貴重な戦力として女性を迎え入れる企業が増えています。

多様な生き方ができる社会に

母は「寿退社」当日のことを鮮明に覚えています。
最後の勤務日に選んだのは結婚式の1週間前。
目指すきっかけを与えてくれた父の命日でした。

当時キャビンアテンダントのラストフライトといったら、それこそ“女の花道”みたいな感じで盛大に送り出されてね。フライトの後には抱えきれないほどたくさんの花束を渡されて。
あれだけの花束をもらうことは一生のうちに二度とないだろうな、帰りのタクシーは後ろの席まで花束で埋まってたから…
でもね、今の若い人たち、もう寿退社って言葉知らないんだって。

時代が変わったな、すごくいいなって思う。結婚することで自分の道が狭められるんだって若い人たちが思わなくていい時代になったんだなって。もし今自分が25歳だったら絶対仕事を続けていると思う。

「寿退社」は長く働いてめでたく退社すること、か…そういう意味に置き換わっていったらいいね。
結婚をして子どもを産んでからも仕事を続けている私。確かに昔と比べて「結婚するから仕事辞めなきゃ」という女性は少なくなりました。これからの世代が、辞めずに続ける選択も、辞める選択も、周りから押しつけられない社会になるよう、変化を見つめ続けていきたいと思います。

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