【詳報】アメリカ竜巻被害 巨大積乱雲「スーパーセル」の脅威

こちらの映像、アメリカで相次いで発生した竜巻で倒壊した、ケンタッキー州のろうそく工場です。この工場に2時間以上閉じ込められ、その後、救出されたという従業員の女性がフェイスブックのライブ中継で当時の状況を伝えていました。

「この動画を見ている人がいるかどうか分からないけれど、竜巻が直撃して工場の中に閉じ込められている。誰か助けて」
一面に暗闇が広がり、叫び声や泣き声が聞こえる緊迫した様子が映し出されています。

バイデン大統領も「歴史上最大規模の竜巻被害の一つだ」と述べた今回の竜巻、なぜこのような事態になったのでしょうか…。

■6つの州で発生

竜巻は今月10日夜から11日にかけてアメリカ南部や中西部の6つの州で発生しました。

▽南部ではケンタッキー州のほか、テネシー州、ミシシッピ州とアーカンソー州
▽中西部ではイリノイ州とミズーリ州で
大小合わせて数十もの竜巻が相次いで発生し、多数の死傷者や建物の倒壊など甚大な被害が確認されています。

■被害の状況は…?

南部ケンタッキー州のベシア知事は州内で1000棟を超える住宅が大きな被害を受けたと明らかにしています。ケンタッキー州メイフィールドではろうそく工場が倒壊し当時、中にいた従業員などおよそ110人のうち多くの人ががれきの下に閉じ込められました。これまでに40人が救助されたということですが、そのほかの人たちの安否は明らかになっていません。
また中西部のイリノイ州ではアメリカのIT大手、アマゾンの倉庫が屋根が崩れ落ちたり壁が100メートルほどにわたってなくなったりする大きな被害を受けて、少なくとも6人の死亡が確認されています。

このほか
▽南部のテネシー州で4人、アーカンソー州で2人
▽中西部のミズーリ州で2人の
死亡が確認されています。

ただ現在も各地で行方不明者の捜索は続けられていて、依然として被害の全体状況は明らかになっていません。

■なぜ竜巻発生?

なぜ、これほど多くの竜巻が発生したのか?専門家や気象庁の分析です。

1. 巨大積乱雲「スーパーセル」

竜巻発生のメカニズムに詳しい防衛大学校の小林文明教授は「スーパーセル」と呼ばれる巨大な積乱雲によって多くの竜巻が起きたとみられると指摘しています。

「スーパーセル」は非常に強い上昇気流によってできる巨大な積乱雲で、空気が回転しながら上昇し建物に大きな被害を及ぼすような破壊力の強い竜巻をいくつも引き起こすのが特徴です。

小林教授は広範囲で竜巻の被害が相次いだことに注目し「スーパーセルによって複数の竜巻が次々に生み出されたとみられる。スーパーセルは巨大なため、なかなか衰弱しないのが特徴で、今回も長時間にわたって州をまたいで移動し広い範囲に被害がでた」と指摘しました。

2. 暖気候+寒気 急速に大気不安定に

気象庁はこの時期としては高い気温に加え、上空に流れ込んだ強い寒気の影響で大気の状態が急速に不安定になり、竜巻が発生しやすい条件となった可能性があるとみています。

気象庁によりますと、竜巻の被害が比較的早くに報告されている南部の
▽ミシシッピ州ジャクソンでは10日の最高気温は27.3度
▽テネシー州のメンフィス国際空港では26.7度に
達していました。

平均気温は平年を5度から10度前後上回り、この時期としては気温が高いところが多かったということです。
一方、暖かい空気が広がっていた各地の上空に10日ごろから強い寒気が流れ込んで寒冷前線ができていきました。現地では北寄りの風との間で気温の差が大きくなり、大気の状態が急速に不安定になっていったとみられるということです。

気象庁異常気象情報センターの竹川元章所長は「寒気を伴う気圧の谷が通過するタイミングで前線ができ、その周辺では積乱雲が次々に発生しやすくなっていたと考えられる。急速に大気が不安定化して竜巻などの発生しやすい条件となった可能性がある」と話しています。

■「フックエコー」確認 “破壊力強く継続時間長い竜巻か”

さらに今回の竜巻は破壊力が大きく継続時間も長いものだった可能性があることが専門家の分析でわかりました。

竜巻の発生メカニズムに詳しい東京大学の新野宏名誉教授はアメリカの国立気象局(NWS)がホームページで公開している気象レーダーの画像を分析しました。
それによりますと、南部ケンタッキー州の周辺では現地時間の今月10日の夜「フックエコー」と呼ばれる「かぎ」のような形をした雨雲が確認されました。

「フックエコー」は発達した積乱雲に特有の円を描くような小さな渦で、竜巻が発生する際によく見られ、非常に強い上昇気流によってできる巨大な積乱雲「スーパーセル」が確認されることが多くあります。

この「フックエコー」がろうそく工場が倒壊するなど甚大な被害が出たケンタッキー州メイフィールドの上空を北東の方向へ通過していたことも分かりました。

新野名誉教授は「スーパーセルができたことで竜巻の破壊力が大きく継続時間も長くなり、甚大な被害につながった可能性がある」と指摘しています。

■気候変動との関連は?

一方、今回の竜巻と気候変動との関連について、竜巻などの気象を専門とするアイオワ州立大学のウィリアム・ギャラス教授は、局地的な竜巻への影響を判断するのは難しいとしながらも「気候変動によって以前は竜巻が起きなかった時期にも発生するようになる。冬場に巨大な竜巻が発生するのは気候変動の影響として予測されていることと一致する」と話しています。

■「スーパーセル」による竜巻 日本で過去に被害も

「スーパーセル」と呼ばれる巨大な積乱雲はこれまでに日本国内でも発生し、竜巻などによって被害が出ています。

総務省消防庁などによりますと
▽平成24年5月にはスーパーセルとみられる積乱雲の下で竜巻が発生し、茨城県つくば市などで死者やけが人が出たほか、多数の建物が全半壊するなどの被害が出ました。

また
▽平成25年9月にもスーパーセルとみられる積乱雲の下で発生した竜巻によって埼玉県や千葉県などで大きな被害が出ました。
さらに
▽平成29年8月には愛知県付近でスーパーセルとみられる積乱雲が発生し、民間の気象会社の解析ではおよそ6900回の落雷が確認されたほか、落雷が原因とみられる火災も相次ぎました。

■一定の条件整えば冬場でも竜巻発生のおそれ

竜巻の発生メカニズムに詳しい東京大学の新野名誉教授は、冬の時期に今回のような竜巻被害はアメリカでも珍しいということですが、日本でも1990年12月に千葉県茂原市で竜巻が発生して1人が亡くなり、およそ250の建物が全半壊するなどしました。

新野名誉教授は日本でも大気の状態が不安定になるなど一定の条件が整えば冬場でも竜巻が起きるおそれがあるとしたうえで「決して油断せず、竜巻注意情報が発表された際には頑丈な建物の中に入るなど注意をしてほしい」と話しています。

■竜巻から身を守るポイントは

気象庁によりますと、日本では大気の状態が不安定になりやすい7月から11月にかけて竜巻が発生しやすくなるということですが、急速な低気圧の発達などによって冬に竜巻が起こるおそれもあると専門家は指摘します。覚えておきたい竜巻から身を守るためのポイントをまとめました。

1. 家や建物の中にいたらトイレや風呂場へ逃げる

竜巻の被害は日本でも起きています。木造家屋の屋根などが飛ばされたり横倒しになったりする被害が出ていて亡くなるケースもあります。

特に住宅の窓が割れたり屋根が飛ばされたりすると屋内に風が入り込むとともに、がれきや窓ガラスなどがものすごい勢いで飛んでくるおそれがあり、まず屋内で身の安全を確保することが大切です。

飛散物から身を守るためにはトイレや風呂場など小さな個室で窓が小さい部屋が安全です。特に浴槽は基礎がしっかり作られていて、アメリカでは過去に竜巻で住宅が跡形もなく吹き飛ばされたもののバスタブの中にいた人が助かったという事例があるということです。

2. 屋外にいたら竜巻発生のサインに注意!

次のような現象を確認したら、それは竜巻が発生するサインかもしれません。すぐに近くの頑丈な建物の中に避難するようにしましょう。

▽「あたりが急に暗くなる」
巨大な積乱雲が日の光を遮っているおそれがあります。

▽「冷たい風を感じる」
発達した積乱雲の下では冷たい空気が吹き出すことがあります。特に暖かい日中は温度差を肌で感じることがあります。

▽「雷の音がする」
積乱雲によって雷も発生します。音を聞いたら積乱雲が発達しているかもしれません。落雷からも身を守ってください。竜巻が起きるときには天候が急激に変わることが知られています。異変を感じたらすぐにできるだけ安全な場所に避難するなどして身を守ってください。