睡眠不足を解消!?スリープテック最前線

睡眠不足を解消!?スリープテック最前線
睡眠不足の解消につながるかもしれません。

今、注目されているのが「スリープテック」という技術。
センサーやAIなどを使って睡眠の“質”などを詳細に計測し、そのデータを基に快適な眠りを促そうという製品やサービスのことですが、ここ数年、市場規模が拡大しています。

私たちの眠りをよりよいものにするかもしれないスリープテックの最前線を体験してきました。
(おはよう日本アナウンサー 渡辺健太/おはよう日本ディレクター 村上隆俊)

拡大続けるスリープテック市場

11月中旬、健康関連の最新技術が一堂に集まった展示会を訪れました。
最新のベッドや枕などと共に注目を集めていたのが、スリープテックの製品です。

例えば、いびき対策として首にかけるスリープテック。
センサーで呼吸をモニタリングし、いびきを検出すると装置が振動し、首元を刺激します。
睡眠を邪魔しない微弱な刺激を与え、いびきをかかない体勢への寝返りを促すそうです。
そうすることで通常の呼吸に戻り、いびきをかきにくくすると言います。

ほかにも、「体をかく回数」を計測するものもありました。
睡眠中、無意識で体をかいていることがあり、その回数が多いほど浅い睡眠につながるということです。
かいた回数が分かることで、肌が乾燥している指標となり、改善するよう意識付けができると言います。
民間の調査会社シード・プランニングによると、スリープテックの市場規模は年々拡大し、2021年は4600億円規模になっています。

出展していたスリープテックの開発企業の担当者は次のように話していました。
スリープテックの開発企業 担当者
「睡眠の状態を客観的に知り、眠りの改善につなげたいというニーズが高まっています。スリープテックの市場は過熱していますのでこれからもどんどん開発していきたい」

気軽に脳波を測れるスリープテック

スリープテックはどんな効果が期待できるのか。

筑波大学のベンチャー企業を訪ねました。
ここで開発されたのは、睡眠時の脳波を自宅でも手軽に測ることのできる装置です。
責任者の柳沢正史教授は、20年以上睡眠の研究を続け、最も注目したのが脳波だったと言います。
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 柳沢正史教授
「脳波を測ると睡眠の量だけでなく質が分かります。また、その人の睡眠の規則性など、いろいろなことが分かり、睡眠を改善する方法も提案することができます。脳波を測ることで睡眠の質を「見える化」することができるのです」
脳波を測ることで、脳が休息していて眠りが深いことの多い「ノンレム睡眠」と、眠りが浅いときの「レム睡眠」が分かります。

この2つが規則正しく繰り返されると質のよい睡眠がとれていると考えられています。

一方、これまで脳波を測るには検査入院をして、大がかりな機械をつける必要があったため、脳波を測ることは容易なことではありませんでした。
そこで、柳沢教授はAIを導入するなど3年かけて新たな装置を開発。
自宅でも病院とほぼ同じ精度で脳波を計測できるようにしました。
これまでおよそ1000人が利用し、2021年4月からは一部の病院で健康診断の項目として導入され始めています。

柳沢教授は、スリープテックによって多くの人のデータが蓄積されることで、今も謎が多い睡眠のメカニズムの解明につながると期待しています。
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 柳沢正史教授
「睡眠脳波のビッグデータが蓄積されていくことによって、睡眠障害だけでなく、いろいろな生活習慣病の予防や予測ができるようになると考えています」

渡辺健太アナ スリープテック使ってみました

柳沢教授が開発したこのスリープテックを実際に使ってみました。

私の職場は早朝出勤が多いなど、不規則な働き方になることもあるため「自分がどんな睡眠をとっているか」はとても気になっていたからです。

装置には5つの電極と手のひらサイズの計測器がついていて、おでこや耳の後ろなどに電極をつけると、睡眠中の脳波を測ってくれます。

「これだけで本当に計測できるの?」とはじめは疑っていました。
と言うのも、脳波を測るということで、ものものしいものを想像していたからです。

ところが、予想に反して装着にかかったのは1分ほど。
ストレスなく眠りにつくことができました。
5日間、毎晩装置をつけて寝てみました。

計測器から音はせず、寝返りもスムーズにできるなど、睡眠を妨げるようなことはありませんでしたが、夜起きてトイレに行く時には装置ごと持っていく必要があるため、多少のわずらわしさはありました。
最終日に計測器を柳沢教授に送ってすべて終了です。

後日、睡眠データを分析したレポートが送られてきました。
結果は、AからEまでの5段階評価で上から2つ目の「B」。
「質のよい睡眠が取れている」ということで、正直、ほっとしました。

レム睡眠やノンレム睡眠の規則、脳が覚醒している時間、そのほか、入眠するまでの時間などが分かり、それらを総合して「質のよい睡眠」と判定されたということです。

寝る時間が勤務の内容によって違うため寝つきが悪いことを気にしていましたが、およそ7分で寝ている日もありました。
睡眠時の自分の姿がいろいろなデータから浮かび上がってくることにとても驚きました。
一方、自分では気付かなかった意外なことも分かりました。
データから「“軽い”無呼吸症状」の傾向があるとされたのです。

原因の一つは、不規則な睡眠と指摘されました。

妻に「いびきがうるさい」と言われたことはあったものの、これまで深刻には考えてこなかったので少しショックを受けました。
適正な体重の維持、仰向け以外の姿勢で寝る、睡眠の1時間から2時間前には食事をすませるなどの注意点がレポートに書かれていて、これからは意識して改善していきたいと思いました。

また、寝る時間が不規則で睡眠不足の時には、日中の時間帯に1時間未満の睡眠をとることも勧められました。そうすることで、夜に眠れなくなる心配が少なくなるということです。

どうすれば質のよい睡眠を取れるのか?

では、日頃から質のよい睡眠を取るにはどうすればよいのか。
スタンフォード大学医学部の西野精治教授に話を聞きました。
ポイントは「寝る前の90分」だと言います。

まず「就寝の90分前に入浴する」こと。
人間は体温が下がると眠くなりますが、入浴して上がった体温が徐々に下がり、眠りを感じ始めるのがおよそ90分たったころで、その頃に布団やベッドに入ることですぐに眠りにつくことができると言います。

また「寝る準備の習慣化」も大切です。
就寝前はスマホなどを見ず、寝るための準備に専念することがおすすめです。
例えばお気に入りの曲を聞くなど、専念することを決めておけば、他のよけいなことを考えずにすみ、快適な睡眠につながると言うことでした。

認知症の予防も スリープテックに注目する自治体

スリープテックの新たな活用方法が大阪府堺市で始まっています。
住民の病気の予防などにつなげようという取り組みです。
11月下旬から始まったのが、最新のスリープテックを住民およそ300人に配るという取り組みです。

大手通信会社、ベッドメーカー、大阪大学が2年ほどかけて共同開発した装置を、布団やベッドの下に置き、睡眠時の呼吸や心拍数、体の動きなどを測ります。
これらのデータを測ることで、特に期待されているのが認知症の早期発見です。
睡眠時、体が激しく動いたり、寝る時間や起きる時間が毎日違うなど睡眠のパターンに乱れがあったりすると認知症が疑われることがあります。

スリープテックでこうした動きをとらえて認知症の兆候をつかみ、専門医の治療につなげることにしたのです。
堺市 政策企画部 手取祐介課長
「スリープテックを使うことで将来的には社会保障費の削減につなげたいと考えています。自治体として、認知症など、睡眠から分かるデータをどんどん活用していきたいと考えています」
客観的なデータに基づいて自分の睡眠状態を知ることは、健康維持に役立つきっかけになります。

睡眠不足に悩む人が多い日本で、注目されるスリープテック。
今後のさらなる進化に期待が高まります。
おはよう日本アナウンサー
渡辺健太
2012年入局
秋田局、長崎局を経て2020年からおはよう日本リポーター
おはよう日本ディレクター
村上隆俊
2016年入局
徳島局を経て2020年から現所属