ノーベル平和賞授賞式 受賞ジャーナリスト“真実伝え続ける”

ことしのノーベル平和賞の授賞式がノルウェーの首都オスロで行われ、受賞したフィリピンとロシアの2人のジャーナリストは、今後も国家権力による言論の弾圧に対抗し、真実を伝え続けていく決意を示しました。

ことしのノーベル平和賞に選ばれたフィリピンのインターネットメディア、「ラップラー」の代表のマリア・レッサ氏と、ロシアの新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は10日、オスロの市庁舎で開かれた授賞式で記念のメダルと賞状を受け取りました。

受賞後のスピーチでレッサ氏は、ジャーナリストを標的にする国家権力に立ち向かい報道の自由を守る必要があるとして、みずからもいつ拘束されるかわからない脅威にさらされているものの、ジャーナリズムはそのリスクを負うだけの価値ある仕事だと強調しました。

そしてソーシャルメディア上では、事実よりも怒りや憎しみが込められたウソが早く広がるとして、「事実なしには真理に迫れないし、真理なしには信頼は得られない。信頼がなければ民主主義もなく、気候変動や新型コロナにも対応できない」と訴えました。
一方のムラートフ氏は「ロシアではジャーナリズムが暗黒の時代を迎えている」として、メディアや人権団体などが人民の敵と位置づけられ、ジャーナリストが仕事を失ったり国を離れざるを得なくなったりしていると訴えました。

そして「われわれの使命は明白だ。事実とウソを区別することだ」と述べ、これまで権力の不正を追及して命を落としたジャーナリストたちに黙とうをささげました。

ノルウェーでは、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が広がっていて、式典は急きょ予定されていた出席者の数を減らして行われました。

平和賞の選考委委員長「ジャーナリズムの重要性 認識の機会に」

ノーベル平和賞の選考委員会のライスアンネシェン委員長がNHKのインタビューに応じ、2人のジャーナリストの受賞が、社会がジャーナリズムの重要性を改めて認識する機会になってほしいという考えを述べました。

ライスアンネシェン委員長は「ジャーナリズムは、新しい新聞を作ったり、ニュースを伝えたりするだけではなく、民主主義社会にとっての基本的な機能だ。人々が情報を得てみずからの考えを自由に表現できて初めて、真に社会に参加しているといえ、政治家も事実に基づいて政策を決定できる」と述べ、ウソや誤った情報が世界にまん延していると危機感を示しました。

そして、意見が異なるたびに暴力的な衝突が起こるような事態を避けるには民主主義が必要で、そのためにジャーナリストを守ることが不可欠だと訴えました。

またノーベル平和賞の社会的な意義について「誰が受賞しても肯定的な反応も否定的なものもあるが、否定的な反応も重要だと思っている。人々が議論するのは意見を持っているからで、ノーベル賞が意味あるものだからだ」と述べ、受賞者の選定にあたっては政治的に中立である必要はないという考えを明らかにしました。

さらにミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏やエチオピアのアビー首相など、受賞後の行動や活動が批判されノーベル平和賞を取り消すべきだという声が上がっていることについて「ノーベル賞は、授与される年に判断された功績によるものだ」として、受賞後に取り消すことはないという考えを明らかにしました。

ムラートフ氏「われわれは闘い続ける」

ノーベル平和賞を受賞したドミトリー・ムラートフ氏(60)は、ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の創設者の1人で、通算24年にわたって編集長を務めています。

プーチン政権によるメディアの抑圧が強まる中にあっても、言論の自由を守る闘いを続けてきたことが高く評価されました。

ムラートフ氏は先月11日、受賞の決定後、日本のメディアとしては初めてNHKのインタビューに応じました。

この中でムラートフ氏は「この賞は私に授与されたものではない」と述べ、まずは命を奪われた同僚6人のジャーナリストにささげられるべきだと強調しました。

そのうちの1人、アンナ・ポリトコフスカヤさんは、2006年10月7日、モスクワ市内の自宅アパートで銃で撃たれて殺害されました。

ポリトコフスカヤさんは、ロシア南部でのチェチェン紛争を巡ってプーチン政権の責任を厳しく追及していました。

ノーベル平和賞の受賞が決まる前の日で、事件から15年の節目にあたることし10月7日、モスクワ市の新聞社内にあるポリトコフスカヤさんの部屋が追悼の意味を込めて公開されました。

ムラートフ氏は、当時のまま残されているパソコンや眼鏡など、本人が使っていた物を紹介しながら「われわれは闘い続ける。ここで悲しみに暮れている時間はない」と述べ、政権への批判精神を持ち続けた信念を受け継いでいく覚悟を新たにしていました。

一方ムラートフ氏は、ロシア国内で政権側になびかない、独立したメディアや人権団体への抑圧が強まっているのは悲劇的だとしたうえで「人権と民主主義という概念は現政権にとって進歩に不要な条件となってしまった。社会の権利を保護することなくして国は発展できるはずがない。市民が議論に加わらなければ残るのは暴力だけだ」と述べ、強い危機感を表していました。

そして31年前、ソビエト崩壊の前の年にノーベル平和賞を受賞し「ノーバヤ・ガゼータ」への支援も行ってきたゴルバチョフ元大統領のことばを引用しながら「平和賞の命題とは、人権の擁護と人類の進歩、それに戦争は許されない、ということだ」と述べ、平和を維持するためにも報道や言論の自由を守り、真実を伝えていく決意を改めて強調しました。