3回目のワクチン接種 オミクロン株への効果を専門家に聞いた

オミクロン株の出現で、新型コロナウイルスのワクチンの効果が下がるのではないかと懸念されています。

その中で、進められている3回目の接種。接種するワクチンはこれまでと同じで、従来のウイルスに合わせて作られたものです。

オミクロン株が出てきている中で、なぜ、そのワクチンで3回目の接種をするのか、その効果や意義について専門家に聞きました。

3回目接種始まる オミクロン出現で急ぐところも

日本国内では2回目の接種を終えた人が80%に迫り、12月1日からは、医療従事者を対象にした3回目の接種が始まりました。年明け以降は、高齢者などに対しても接種が行われます。

この中で変異の数がこれまでのウイルスより格段に多いオミクロン株の感染が各国で広がってきていて、中にはイギリスのように3回目の接種を早めるところも出てきています。
いま世界各国で接種が進められているワクチンは、従来の新型コロナウイルスに対応して作られたものです。

オミクロン株は、細胞に感染するときの足がかりとなるスパイクたんぱく質に多くの変異があるため、感染を防ぐ中和抗体が結合しにくくなり、効果が下がると懸念されています。
(重症化予防については、アメリカの製薬大手、ファイザーとともにワクチンを開発したドイツの製薬会社、ビオンテックのCEOは、アメリカメディアのインタビューで、オミクロン株に対しても効果がある可能性が高いという見解を示しています)

3回目接種 抗体増でオミクロンに結合するものも

政府の基本的対処方針分科会のメンバーで、国立病院機構三重病院の谷口清州院長は、オミクロン株でワクチンの効果が低下する可能性があるとしても、3回目の接種を行うことに意義はあるとしています。
谷口さんは「たとえば、ウイルスが変異して中和抗体の効果が4分の1になったとしても、ワクチンを追加接種することで免疫の機能を高めて、中和抗体の量が4倍になれば、ウイルスに結合する中和抗体も増える」と話しています。

ワクチンを追加接種することによって中和抗体の量を増やせば、中にはオミクロン株に結合するものも出てくるというのです。

3回目接種 重症化や感染を防ぐ効果 期待できる

また、国立感染症研究所感染症危機管理研究センターの齋藤智也センター長も、今月7日に放送された「クローズアップ現代+」の中で、追加の接種で抗体の量、レベルを上げれば、ウイルスの形が異なっていたとしても重症化や感染を防ぐ効果が一定程度期待できるとする見方を示しています。

齋藤センター長は「いま使っているワクチンは、どうしてもだんだんと免疫力、防御力が落ちてしまうため、免疫のレベルを上げて長く持続させるための接種が3回目の接種になる。今のワクチンに合わないウイルスであっても、接種によって、体の中では防御するためのいろいろな抗体が作られる。ぴったり合う抗体ばかりでなくとも、少しでも合うものがたくさんあれば、多少ウイルスの顔つきが変わっていても、全体の防御レベルが上がっていることで、感染や重症化を抑える効果が期待できる」と述べました。

“プライム・アンド・ブースト”

3回目の接種に期待されるのは、抗体の量だけではありません。

政府分科会のメンバーで、国立病院機構三重病院の谷口院長は、3回目接種で“免疫の記憶”を確立させることも重要なポイントだとしています。

ワクチンは、1回目の接種で、体に備わっている免疫のシステムにウイルスが攻撃対象の「敵」であると認識させます。

これを英語で事前に教えることを意味する「プライム」と言います。

そして、2回目の接種では、何が攻撃対象なのか、その「敵」の記憶を免疫に定着させます。

3回目の接種では、その記憶を強固にして長続きさせるようにします。

3回目の接種は、英語で強化することを意味する「ブースト」と呼ばれています。

敵が何かを教え、その記憶を強化する「プライム・アンド・ブースト」という戦略です。

谷口さんは「変異が重なって新たな変異ウイルスが出現しても、ワクチンを接種して免疫をきちんとつけておけば重症化は避けられるのではないかということは、オミクロン株にも当てはまることだと思う。ワクチンの追加接種は進めていくことが大切だ」と話しています。

3回目までの間隔は短いほうがよい?

オミクロン株の感染が各国で報告される中、少しでも早く3回目の接種を行うべきでしょうか?

3回目の接種について、厚生労働省は2回目からの接種間隔を原則8か月以上としていて、医療機関や高齢者施設でクラスターが発生した場合などには厚生労働省に事前に相談したうえで施設の利用者や職員に対しては6か月に前倒しできるとしています。

ウイルスやワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は、オミクロン株に対する効果が低下することを考えても、2回目の接種のあと、6か月から8か月の間に接種するのが妥当ではないかとしています。

一方で、がん治療を受けている人や糖尿病の持病がある人などは、体内に侵入したウイルスなどを攻撃する免疫細胞が働きにくく、免疫力が弱くなっているため、早めの接種も検討すべきだと指摘しています。
中山特任教授は「透析やがんの治療、免疫抑制剤を使った治療を受けている人たちなどは、2回目の接種をしても、抗体の上がり方や免疫が誘導されるレベルが低い。感染した時に、重症化するかどうかに関わると考えられる免疫細胞も働きにくい。早く接種する必要があるかもしれず、6か月を待たずに接種するかどうか議論する必要がある」と話しています。

一方、接種の間隔をさらに短縮し、イギリスでは2回目の接種から3か月で3回目の接種を進めていることについて、中山特任教授は、イギリスは感染拡大の局面にあり、これ以上感染を広げないためという意味合いが強いと指摘します。

中山特任教授は「イギリスの状況から見ると2回目の接種から3か月、4か月くらいからブレイクスルー感染が増えていく中で、早めに打つことを選んだのだと思う。日本は感染状況が全く違っていて、今のところ、感染がほとんど抑えられているため、3か月、4か月後にワクチン接種をしようということにはならない。日本でも今後、感染が爆発的に拡大し、ブレイクスルー感染が増えてくれば、接種後どのくらいで増えてきているか見極めたうえで、接種間隔の短縮を考える必要が出てくるかもしれない」と話しています。

「2段構え」で考えるべき

アメリカの製薬大手ファイザーなどは8日、オミクロン株に対するワクチンの効果について、3回目接種で中和抗体の効果が2回接種の場合の25倍になり、従来のウイルスに対する効果と同じ程度に高まったとする初期の実験結果を発表しました。

ワクチンのオミクロン株への効果については3回目の接種の効果を含め、いま世界各国で研究が進められています。

オミクロン株に適合したワクチンが必要になってくる可能性はありますが、そうなった場合、実際に接種できるようになるにはまだ時間がかかります。

国立感染症研究所の齋藤センター長は、3回目の接種を含め、今あるワクチンの効果を確かめながら、今後、必要になればオミクロン株に適合したワクチンの導入を考えるという「2段構え」で考えるべきだと話しています。