武漢での“最初の発症”から2年 発生源めぐり米中の主張隔たり

中国の湖北省武漢で、新型コロナウイルスの感染者が、最初に発症したとされる日からきょう8日で2年となります。ウイルスの発生源をめぐっては、アメリカのバイデン政権が引き続き情報提供を求めていて、米中対立の要因の1つとしてくすぶり続けています。

中国の衛生当局は、湖北省武漢で、新型コロナウイルスの感染者が、2年前の8日、最初に発症したとしています。

その後、世界的に広がった新型コロナウイルスの発生源を解明するため、WHO=世界保健機関の調査チームは、ことし1月から2月にかけて武漢を訪れ、調査を行いました。

調査結果では、コウモリから哺乳類の「センザンコウ」などを介してウイルスが広がった可能性があるとする一方、発生源の特定には至っていません。

一方、アメリカの情報機関はことし8月、▽感染した動物との接触によるものか▽武漢のウイルス研究所から流出したという2つの仮説には妥当性があるなどとした報告書を公表し、バイデン政権は、中国側に引き続き情報提供を求めています。

これに対し中国政府は「ウイルスの発生源の調査を政治問題化することに反対する」などと強く反発していて、ウイルスの発生源をめぐる主張の隔たりが、米中対立の要因の1つとしてくすぶり続けています。

武漢のいまは…

湖北省武漢では、感染が拡大した去年1月から当局がおよそ2か月半にわたる都市の封鎖などの感染対策を行い、ウイルスを封じ込めたとしています。

一方、当初、感染源とみられていた海鮮市場は、周囲に高さ2メートル余りの壁が設けられ、閉鎖されたままとなっています。

中国政府が感染を徹底して封じ込める「ゼロコロナ政策」を続ける中、武漢では、ことし8月中旬以降、市中感染は確認されていません。

市内を流れる長江沿いの遊歩道では、散歩を楽しむ人などの姿が見られたほか、中心部の繁華街も、買い物や食事に訪れた大勢の人たちでにぎわっていました。

武漢に住む78歳の女性は、「中国の指導者は感染対策に責任をもって対応してくれます。武漢は偉大で、市民は共産党を支持しています」と話していました。

また、27歳の男性は「武漢は安全で心配することはありません。新型コロナウイルスの発生源を追及する必要はなく、感染症の問題をみんなで克服することが最も重要だと思います」と話していました。

遺族は当局に賠償や謝罪求める

新型コロナウイルスの感染で76歳の父親を亡くした張海さんは当局が情報を隠蔽したのが原因だとして、今も賠償や謝罪を求め続けています。

父親が転倒して足を骨折したため、張さんは去年1月、父親を武漢市内の病院に入院させました。

当時、武漢では、急速に感染が拡大していたとみられていますが、当局は「ヒトからヒトへの感染は確認されていない」などと説明し、十分な警戒を呼びかけていませんでした。

父親はその後、病院内で新型コロナウイルスに感染し、亡くなりました。

父親を入院させたことを後悔した張さんは、武漢市などを相手取り謝罪や賠償などを求める訴えを起こしましたが、裁判所への訴えは受理されませんでした。

訴えを広く知ってもらおうと、習近平国家主席宛ての嘆願書をインターネット上で公開するなどしましたが、警察に呼び出され、圧力をかけられるようになったということです。

張さんは「共産党を支持していますが、党を支持することと当局者の責任を追及することは矛盾しません。声を上げなければ、この問題は過去のものにされてしまいます」と憤りをあらわにしています。

ことし8月には、海外メディアの取材を受けようとしたところ、自宅のドアを見知らぬ4人の男にふさがれ、4日間ほど、軟禁状態に置かれました。

その後もたび重なる嫌がらせや圧力を受けているということです。

張さんは「市民の命が公正に守られてこそ、この国はよくなるはずです。当局は真相を説明し、賠償や謝罪をしなければいけません。声を上げる人は少なくなっていますが、私1人になっても、声を上げ続けます」と話していました。

最初に発症した日付めぐり別の指摘も

中国の衛生当局は、湖北省武漢で新型コロナウイルスの感染者が2年前のきょう、最初に発症したとしていますが、この日付をめぐっては、別の指摘も出ています。

アメリカのアリゾナ大学の研究者は先月、科学雑誌「サイエンス」の電子版で、実際に発症したのは、その8日後だった可能性を指摘しています。

一方、当初、感染源とみられていた海鮮市場で働いていた女性が、12月11日に発症していたとして、初めての症例としては、この女性のほうが早かったのではないかという見方も示しています。