愛子さま成年の行事で注目 皇室とティアラ

愛子さま成年の行事で注目 皇室とティアラ
今月(12月)1日に20歳の誕生日を迎えられた、天皇皇后両陛下の長女の愛子さま。

5日には成年の行事に臨まれました。

ロングドレス姿の正装で、ひときわ目を引いたのが光り輝く髪飾り、ティアラでした。

女性皇族を華やかに彩る皇室のティアラ。

その歴史を取材すると、特別な役割も見えてきました。

(社会部記者 橋本佳名美)

愛子さま 光輝くティアラ

20歳になり、成年皇族として成年の行事に臨まれた愛子さま。

両陛下へのあいさつを終えたあと、初めて報道陣に正装した姿を見せられました。
ローブ・デコルテと呼ばれる白いシルクのロングドレスに、この日、天皇陛下から授けられた勲章「宝冠大綬章」。

そして、頭の上にはティアラが輝いていました。

女性皇族のティアラ 多くは新調

女性皇族のティアラは、成年を迎える際などに新調されることが慣例となっています。
近年は皇室の公的な予算にあたる「宮廷費」で製作されることが多くなっています。

宮内庁によりますと、平成15年に三笠宮瑤子さまが成年になられた時から、指名競争入札で製作業者が決められるようになりました。

また、平成25年の秋篠宮ご夫妻の次女の佳子さまの時には、金額だけでなく、デザインも含めた選考で業者が決められました。

費用は、おおむね1500万円から2800万円となっています。

公的な予算で製作したティアラは国の所有となり、女性皇族が結婚などで皇室を離れた場合、返却されます。

ことし10月に結婚した眞子さんのティアラなどこれまで計8個が、宮内庁で保管されています。

特別な宝飾品 熟練の技術も

こうしたティアラは、どのように作られているのか。

眞子さんのティアラなど複数の女性皇族のティアラを製作してきた、東京・千代田区の工房を取材することができました。
デジタル技術が進んだ今、デザインには、コンピューターの設計システムが使われています。

部品の形や傾き、宝石の大きさなどを調整。

構成する部品のもとになる型は、3Dプリンターで作ります。

ただ、今でも組み立てや仕上げは、すべて職人の手作業です。
1000個近くに上るという部品の1つ1つを熟練の職人が組み立てていきます。

そして、繰り返し研磨して形を整え、ダイヤモンドなどの宝石をはめ込みます。

製作期間は最短でも半年、皇室のティアラではおよそ1年半かかるものもあるといいます。
手鹿製作室長
「ティアラは一般的なジュエリーとは格が違い、技術の高さが問われ、経験がないと作れません。

工房では、かつての職人たちが残してくれたスケッチなどが受け継がれてきました。朝から晩まで何日も同じティアラと向き合い、集中力が途切れないようにして製作しています。

特に皇室の方のティアラに携わるのは、本当に名誉なことで、特別な思いで作っています。ティアラをご着用されたお姿を見た時、職人冥利につき、この仕事をやってよかったなと思います」
製作の発注元で、皇室のティアラも手がけてきた宝飾品などの専門店「和光」の担当者は、ティアラは宝飾品の中でも特別な魅力があるといいます。
藤本アシスタントマネージャー
「ティアラの歴史はとても古く、ギリシャ、ローマ時代にさかのぼると言われています。非常に壮麗で優雅、幸福の象徴で、デザインや素材、技術面においても宝飾製作の全てが凝縮されていると思います。

着用される方とそれを見る周りの方が、美しさや楽しさを共有できるジュエリーです。皇室の方のティアラは、格調の高さを象徴していて、取り扱う機会に恵まれたことを誇りに思っています」

愛子さま ティアラ新調せず

女性皇族を彩ってきた美しいティアラ。

ただ、今回の愛子さまの成年にあたっては、新たなティアラの製作は見送られました。

宮内庁によりますと、新型コロナウイルスの影響による社会情勢を踏まえてのことで、愛子さまは、天皇陛下の妹で叔母の黒田清子さんからティアラを借りて、成年の行事に臨まれました。
黒田さんのティアラは公的な予算ではなく、天皇家の生活費などにあてられる「内廷費」で作られ、結婚後も黒田さんの所有となっています。

快くティアラを貸してくれたことに、両陛下と愛子さまは深く感謝されているということです。

皇室のティアラは明治時代から

皇室のティアラの歴史は明治時代にまでさかのぼります。
明治19年、当時の宮内大臣の通達として、宮中における女性の正装が洋装と定められ、明治22年の元老院の資料には、当時最も格式の高い礼服とされた大礼服(マント・ド・クール)の例として、ノースリーブのロングドレスに長手袋、頭にはティアラのような髪飾りが描かれています。
明治天皇の后、昭憲皇太后の肖像写真では、ドレスで正装し、ティアラを着用しています。

このティアラ、当時の新聞記事によりますと、ドイツの職人に製作を依頼し、60個ものダイヤモンドが用いられたということです。
明治の日本は、欧米諸国と対等の外交を目指して、装飾品を含む服装やマナーを西洋から積極的に取り入れていたのです。

歴代の皇后に受け継がれるティアラ

昭憲皇太后のために作られた王冠型のティアラは、「皇后の第一ティアラ」とも呼ばれています。

大正天皇の后の貞明皇后、昭和天皇の后の香淳皇后、上皇后さまへと、事実上、受け継がれました。
皇室のティアラで最も格式が高いとされ、上皇后さまは、平成2年の上皇さまの即位に伴うパレードや天皇陛下のご成婚にともなう「朝見の儀」など格式の高い場面で着用されました。

そして、おととし11月の天皇陛下の即位にともなうパレードでは、皇后さまがつけられました。
宮内庁に情報公開請求した「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」の資料には、「皇后陛下御正装の装身具類」として「御冠(ダイヤ)A型」「御冠(菊型)B型」という記載がありました。
皇室のファッションに詳しい、歴史文化学研究者の青木淳子さんによりますと、「A型」が、「第一ティアラ」、「B型」は「第二ティアラ」と呼ばれるものだといいます。
過去の上皇后さまの映像では、「B型」とみられる菊の花があしらわれたティアラを、平成10年(1998年)、デンマーク訪問の際の晩さん会などで着用されていました。

また、平成18年(2006年)、タイの国王の祝賀式典の際には、これとは別のティアラをつけられています。
青木さん
「宮内庁が正式に公表しているわけではありませんが、上皇后さまは『皇后のティアラ』を3種類使われていました。通称『第一ティアラ』は、ダイヤモンドで装飾された王冠型です。明治時代から5代の皇后に継承されていて、格式の高い場面で必ず着用されています。

『第二ティアラ』は中央に菊という天皇家を象徴するモチーフがあります。海外の晩さん会でも、日本らしさをアピールできるデザインです。

『第三ティアラ』は唐草模様が優雅なデザインで、秩父宮妃がお使いになっていたものと大変よく似ています。『皇后のティアラ』は、皇室という存在の証しと言っていいと思います」

女性皇族のティアラの役割は

成年の女性皇族は、国賓を歓迎する宮中晩さん会などの公式行事では、正装してティアラを着用します。
おととし行われた、天皇陛下の「即位の礼」の儀式のひとつ、「饗宴の儀」には、皇后さまをはじめ出席した女性の皇族方はいずれもティアラを着用して臨まれました。

また、海外の王室から招かれたスペイン王妃やオランダ王妃などもティアラをつけたドレス姿でした。
しかし、ことしの新年祝賀の儀では、コロナ禍での人々の厳しい状況を踏まえて、女性の皇族方はティアラの着用を控えられました。
高額なティアラを公費で製作することに対しても、批判の声があるといいます。

しかし、皇室のファッションに詳しい青木さんは、外交儀礼上もティアラは必要だといいます。
歴史文化学研究者 青木淳子さん
「海外の王室などでも、ティアラは儀式や公式な場面で着用されてきました。晩さん会などでも、ティアラをつけたドレス姿でいろんな交流をされているように、プロトコール(国家間の儀礼上のルール)の要素として、女性皇族がティアラを含む装飾品一式とローブ・デコルテを着用して正装をすることは必要だと思います」
宮内庁の西村長官も先月25日、定例の記者会見で、「ティアラは儀式の際に、女性皇族がおつけになるものとして必要なもので、それを作ることが、むだづかいという批判にはあたらない」と述べました。

愛子さまのティアラについても、「コロナの状況を踏まえて、両陛下と相談した上で国費で製作することは見合わせているが、いずれは検討することになる」と話しています。

今回の取材を通じて、皇室のティアラは、時代と人を経て受け継がれてきたものだと知りました。

また、5日の成年の行事では、光り輝くティアラとともに愛子さまが微笑まれる姿を間近で見て、幸せな気持ちになりました。

女性の皇族方が着用されることで、ティアラは特別な存在になるのだと実感しました。

今後の皇室取材では、歴史やその役割にも思いをはせ、皇族方の服装にも注目していきたいと思います。
社会部記者
橋本佳名美
2010年入局
国税、司法担当を経て
ことし11月から宮内庁担当