オミクロン株に治療薬は効くのか? 専門家の見方は?

6日は、日本国内で3例目となる新型コロナの新たな変異ウイルス、オミクロン株の感染者が確認されました。
また、NHKが6日午後4時時点でまとめたところ、オミクロン株の感染は日本を含め世界の44の国と地域で確認されています。

瞬く間に世界に広がる新たな変異ウイルスに治療薬は果たして効くのか。
これまでに使われている治療薬や開発中の治療薬など、さまざまな治療薬のオミクロン株への効果について専門家に聞きました。

「点滴薬」と「飲み薬」効果は?

話を聞いたのは新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄 客員教授です。
オミクロン株に対する治療薬の効果について、森島客員教授は新型コロナウイルスの表面にある突起「スパイクたんぱく質」を標的にしている点滴薬は、変異がある場所によっては効果に影響が出るおそれがある一方、ウイルスの増殖を防ぐ軽症者用の飲み薬については、効果は変わらないのではないかと指摘しています。
新型コロナウイルスの治療薬は、
▽ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ薬、
▽細胞に侵入したウイルスが増殖するのを抑える薬、
▽増殖したウイルスに反応する過剰な免疫の働きを抑える薬
の3つのタイプがあります。

細胞に侵入するのを防ぐ薬 “効果に影響出るおそれ”

国内で承認されている薬のうち「抗体カクテル療法」の薬と「ソトロビマブ」は抗体医薬と呼ばれ、ウイルスが細胞に侵入する際の足がかりとなる、表面にある突起の「スパイクたんぱく質」を標的にして攻撃することで細胞への侵入を防ぎます。

これらの薬は、患者が軽症のうちに重症化を防ぐために点滴で投与されます。

海外で行われた臨床試験では、新型コロナウイルスに感染した人の入院や死亡のリスクが
「抗体カクテル療法」ではおよそ70%、
「ソトロビマブ」ではおよそ79%低下したとしています。

これらの薬のオミクロン株に対する効果について、専門家からはオミクロン株では「スパイクたんぱく質」におよそ30もの変異があることから、標的としているスパイクたんぱく質の部分に変異があれば、細胞へのウイルスの侵入を防ぐ効果に影響が出るおそれがあるとする指摘が出ています。

愛知医科大学の森島恒雄 客員教授は「抗体医薬はスパイクたんぱく質そのものを標的にしているので、今回の変異による影響は大きいと思う。ただ、標的のスパイクたんぱく質がウイルスが変異した部分と重なっていなければ、治療効果が保たれる見込みがあると思われる」と指摘しています。
ソトロビマブについて、開発したイギリスの製薬大手「グラクソ・スミスクライン」はオミクロン株に似せたウイルスを使った実験の結果、オミクロン株に対しても効果があることが示されているとしています。

細胞内での増殖を防ぐ薬 “オミクロン株でも効果変わらないか”

一方、細胞に侵入したウイルスが増殖するのを抑えるタイプの薬は細胞内でウイルスが増殖するのに必要な酵素が作られるのを防ぎます。

国内で承認され、中等症や重症の患者に使われている点滴薬「レムデシビル」もこのタイプです。

また、現在、感染した人が自宅などで療養する際にも使えるよう、主に軽症者用の飲み薬としての開発が進められていて、
▽アメリカの製薬大手、メルクが開発し、厚生労働省に承認申請した飲み薬「モルヌピラビル」や、
▽ファイザーが開発し、アメリカで緊急使用の許可を申請した飲み薬「パクスロビド」、
▽塩野義製薬が開発中の飲み薬も同じタイプです。

会社側によりますと、臨床試験では「モルヌピラビル」は入院や死亡のリスクを低下させる効果がおよそ30%で「パクスロビド」はおよそ89%だったとしています。

森島客員教授によりますと、このタイプの薬は細胞内に入ったウイルスに作用する働きがあり、オミクロン株に見られる変異には大きく影響されないと考えられるため、これまでの新型コロナウイルスに対してと効果は変わらないのではないかとしています。

過剰な免疫抑える薬 “治療効果は期待できる”

さらに、増殖したウイルスに反応する過剰な免疫の働きを抑える「デキサメタゾン」や「バリシチニブ」などの薬については、免疫の反応を抑えるため変異とは関わりなく、効果は変わらないとみられるということです。

森島客員教授は「抗体医薬の治療効果がいきなりゼロになることはなく、どの程度、下がるのかは、実際の治療の現場を見ないと分からない。開発が進む飲み薬については、実際に細胞の中に入ったウイルスが増殖するのを防ぐ仕組みで、治療効果はそのまま期待できると思う。オミクロン株で影響を受けるとしても今後承認された場合には飲み薬、そして抗体医薬を早めに投与し、重症化を防ぐといった治療戦略は変わらない」と話しています。

デンマークでの確認183件 イギリスは246人に

海外では連日、オミクロン株の感染が相次いで確認されています。

デンマークの保健当局は、5日までに国内で確認された感染例の数が183件となり、2日前までの18件から大幅に増加したと公表しました。
デンマーク保健当局の担当者は「デンマークでは旅行者やその関係者以外でオミクロン株の感染が確認されている」と懸念を示しています。

イギリスでは5日、1日で新たに86人の感染が確認され、これまでの累計では246人となっています。
イギリス政府は、すでに3回目接種については、2回目からの間隔を6か月から3か月に大幅に短縮するなど警戒を強めています。
また保健当局は、オミクロン株では感染した人がほかの人に感染を広げるようになるまでの期間が、短くなっている可能性があるという分析を明らかにし、7日からは入国の規制についてワクチン接種済みかどうかにかかわらず、すべての人を対象に入国前の検査を義務づけると発表しました。

オミクロン株 日本を含め44の国と地域で確認(6日16:00時点)

NHKが6日午後4時時点でまとめたところ、新たな変異ウイルス、オミクロン株の感染は、日本を含め世界の44の国と地域で確認されています。
【アジア】
日本、香港、韓国、インド、シンガポール、マレーシア、スリランカ、タイ、モルディブ、
【オセアニア】
オーストラリア
【北米】
アメリカ、カナダ
【中南米】
メキシコ、ブラジル、チリ
【ヨーロッパ】
イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、デンマーク、チェコ、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、スペイン、ポルトガル、スイス、アイルランド、ギリシャ、アイスランド、ルーマニア
【中東】
イスラエル、サウジアラビア、UAE=アラブ首長国連邦
【アフリカ】
南アフリカ、ボツワナ、ナイジェリア、ガーナ、ジンバブエ、チュニジア、ザンビア

松野官房長官 3回目接種「一定程度の国民に前倒し可能」

また感染の第6波に備えて、今月1日から始まった新型コロナのワクチンの3回目接種。
松野官房長官は午後の記者会見で、3回目のワクチン接種で2回目との間隔を短縮する対象などについて「オミクロン株に対するワクチンの効果や、オミクロン株の特徴については、専門家や製薬企業で検証が進められており、できるだけ早期にこれらを見極めたうえで前倒しの範囲や方法をお示ししたい」と述べました。
そして「ファイザーとモデルナのワクチンを用いるが、合わせて1億7000万回分の供給を受ける契約を締結済みであり、総量として必要なワクチンは確保できる見込みだ。モデルナのワクチンを、ファイザーのワクチンを接種した方にも活用することにより、優先度に応じ一定程度の国民に前倒しが可能だと報告を受けている」と述べました。