保育の仕事に就きたいけど…コロナ禍の短大生のリアル

保育の仕事に就きたいけど…コロナ禍の短大生のリアル
「このままで本当に保育者になれるのかな」

保育の仕事を目指している短大生は、こう胸の内を明かしました。

新型コロナウイルスの感染拡大からまもなく2年。
大学生活の大半をコロナ禍で過ごし、来春にはもう卒業を迎えます。

就職を控えるいま不安に感じているのが、現場での実習経験の少なさです。

(首都圏局記者 橋本奈穂)

小学生からの夢

保育士や幼稚園教諭を養成する短期大学の専攻科に通っているミナさん(21)。

幼い頃から弟やいとこの面倒を見て一緒に遊ぶことが大好きでした。

小学2年生のとき、未来の20歳の自分に宛てた手紙には、「しょうらいのゆめは、ようち園の先生になりたい」とつづっていました。

コロナで一変した学生生活

その夢を抱き続けたミナさんは2019年の春、「どんな授業があるんだろう」「どんな友だちに出会えるんだろう」と期待に胸を膨らませて短大に入学しました。

ところがカリキュラムが本格化する前に、新型コロナウイルスの感染が拡大

学生生活は一変しました。
ミナさん
「わくわくして入学したんですが、オンラインになると質問もなかなかできず、ひとりで学んでいる感じが強かったです。友だちにも先生にも会えず、すごくさみしい気持ちが続きました」
影響はそれだけではありませんでした。

この短期大学では、授業の一環として幼稚園や保育園などを見学したり、学内の施設で赤ちゃんの世話をしながら保護者の話を聞いたりする体験型のカリキュラムが組まれていました。

しかし感染リスクから、子どもと触れ合う授業などはすべて中止に。

さらに保育士の資格を取るのに3回受けることが必須となっている、2週間にわたる保育園などでの現場実習も、1回目はオンライン中心の学内実習に切り替えられました。

そのときの気持ちについてミナさんは、「現場でしか学べないことがたくさんあるので、特にオンラインでの実習は本当に学べているのかなと感じた」と振り返りました。

「1回も現場に出さないわけには」 異例の事態に大学は

「コロナで学生たちの学びの機会が奪われてしまう」

大学側も危機感を募らせました。

6月下旬ごろから感染の「第5波」は始まっていましたが、現場実習が3回とも中止になることだけは避けたいと考えたのです。
打越みゆき准教授
「例えばおむつ替えをどんなに教科書や映像で学んだとしても、実際にやってみると難しいですよね。子どもの反応は教科書どおりにいかないので、現場での体験を重ねて感覚をつかんでいきます。

学生たちを1回も現場に出さないで資格を取らせてはいけないと、必死に実習先を探しました」
ツテを頼って学生たちを受け入れてくれる保育園を探し、3回目の実習はなんとかほぼ全員の受け入れ先を確保できました。

ただ現場経験のない学生たちにとっては、ぶっつけ本番のテストのようなものでプレッシャーから泣きだす学生もいたといいます。
打越みゆき准教授
「最後の実習に行けることになったときにオンラインで事前面談をしたんですが、『現場に出ていないから怖い』とか『何をやったらいいのか想像できない』と泣きだしてしまう子も結構いました。

結局、自分が動いてみて感触をつかむことで自信が持てるので、聞いて教わるだけでは自信にならないんですよね。時間を選ばず夜も相談に乗りましたが、パソコンの画面越しだと不安の解消にはつながりにくかったと思います」

2週間の自宅待機 「保育の仕事できるのかな…」

実習に行けることが決まってからも困難な状況は続きました。

ミナさんの実習は感染状況から、一度は延期に。

その後9月に決まりましたが、実習先で感染を広げるわけにはいかないため、事前のPCR検査と2週間の自宅待機を求められたのです。

「自宅待機の2週間が思ったよりも長く、深く悩んでしまった」と振り返りましたが、それを少しでも解消しようと本を読んだり復習したり、友だちと電話したりして過ごしたといいます。
保育園での2週間にわたる実習は、学びが多くあったといいます。

その一方で実感したのは、現場経験が足りていないという焦りです。
ミナさん
「実習の前半では自信をなくしてしまいました。保育士の動きや子どもへの言葉がけを見ると自分とはすごく差があったので、本当にこのままでいいのか、現場経験の少ない自分に保育の仕事ができるのかなと不安になりました」

“就職への不安” 少しでも減らしたい

来春の就職に向けて不安を感じている学生は少なくありません。

10月に卒業生の保育士を招いて行われたオンラインの授業。

実際の仕事の様子について直接聞く貴重な機会となった一方で、学生たちからは不安の声が相次いで寄せられました。
「乳児と関わる機会が少なかったため、乳児に対する保育がしっかりとできるか不安」

「幼稚園との違いを直接感じることができていないため、イメージがわきにくい」

「黙々と1人で就活をして授業もして、真っ暗なトンネルをずっと歩いているような感覚」
就職に向けた見学の機会も減っている中、大学では少しでも現場での経験を積んでもらいたいと、アルバイトやボランティアとして学生を受け入れてくれる園や施設を紹介する取り組みを進めています。

ミナさんも保育園でのアルバイトを始めました。

初めて園児たちの食事の援助をすることになったこの日。

最初はどうすればいいのかわからず、固まってしまいます。
すると保育士の先輩が子どもの食べるペースに合わせてスプーンを口に運ぶようアドバイス。

タイミングよく口元に持って行くと食べてくれ、ほっとしたような表情を見せていました。
ミナさん
「食事のサポートやおむつ替えは勉強でしか学んでいなかったので、実際に経験できてよかったです。子どもへの言葉がけなどは戸惑ってしまうことも多いので、自然に言葉が出てくるようにしていきたいです」
この保育園では当初、感染が拡大する中で学生を受け入れていいのか悩んだといいます。

それでも将来の保育の担い手を育てる手助けをしたいという思いから受け入れを決めました。
庄司園長
「学生が実習をなかなか受けられないという厳しい現状を聞いていたので、要望があれば実習やアルバイトを受け入れるというスタンスでやってきました。保育士を育てるという大事な役割を果たしたいという使命感もあります。学生たちには現場で子どもたちと触れ合う大切さを感じてほしいです」

取材後記

ミナさんの部屋に貼ってある、「私なら出来る」と記されたイラスト。

実習前の不安な気持ちが和らぐという友人からのアドバイスを受けて、自分を奮い立たせるため書いたそうです。

新型コロナの影響で、思い描いていたような学生生活を送れないまま卒業するという学生は多くいると思います。

ミナさん自身もそうです。

それでも将来に向けた思いについて、次のように語りました。
ミナさん
「最初はコロナもう嫌だと、コロナに対しての怒りがあったんですが、コロナだからできないじゃなくて、コロナ禍でできることはなんだろうと考えるようになりました。子どもたち一人ひとりの気持ちを尊重できる、保護者に安心して預けてもらえるような先生になりたいと思っています」
コロナで学びが失われるという困難な状況にさらされながらも、社会に出るため一歩ずつ前に進もうとする学生たち。

その姿に勇気をもらい、心から応援したいと思いました。
首都圏局記者
橋本奈穂
平成21年入局
広島局、都庁担当などを経て現所属