ビジネス特集

“温泉発電”も!地下に眠るエネルギーで脱炭素

地球温暖化の原因となる温室効果ガス。排出量の多くを占めるのが、発電などのエネルギー分野です。脱炭素の実現に欠かせない再生可能エネルギーは太陽光や風力がよく知られていますが、実は地面の下にもエネルギー源が存在します。それが“地熱”です。地熱発電は有望な資源として注目が高まっていて、“温泉発電”などさまざまな形で世界に広がっています。(国際部記者 藤井美沙紀)

世界で注目高まる地熱発電

世界地熱会議
10月下旬、北欧アイスランドで世界地熱会議が開かれました。

地熱発電にかかわる最新の技術や研究成果などが披露される場で、世界有数の規模です。

6年ぶりの開催となった今回、日本を含む世界各地の団体や企業、それに大学からおよそ2000人が参加し、世界で地熱発電の取り組みが拡大していることを裏付ける形になりました。

これに続いて11月にかけてイギリスで開かれた国連の気候変動対策の会議・COP26では、石炭火力発電の段階的な削減のための努力を加速することになり、地熱発電を含む再生可能エネルギーの重要性が一段と高まる結果となりました。

そもそも地熱発電って?

そもそも、地熱発電とはなんでしょうか?それは、地下の熱をエネルギーとした発電のことです。

雨や川の水が地下に入り込むと、マグマだまりの周囲にある岩盤の熱によって蒸気や熱水になります。

発電に使えるのは、このうち高温で加熱され、長い時間、地下深くでゆっくりと流動して、大きなエネルギーを持つようになったものです。

地熱発電は、井戸を掘ってこうした高温の蒸気を取り出し、タービンを回して発電するしくみで、温室効果ガスを排出しないことが大きな特徴です。

実は地熱大国の日本

各地に温泉がある日本。

実は、地熱資源大国と呼ばれています。

その資源量はアメリカ、インドネシアに次いで世界3位で、地熱発電の分野では世界のエネルギー大国になるポテンシャルを持っています。

一方、発電設備の導入量でみると世界10位にとどまります。

熱源の多くが国立公園などにあり、法律で開発が厳しく制限されてきたためです。

それでも、世界の地熱発電にとって日本は大きな役割を果たしています。

“世界シェア6割”。

日本が世界に占める地熱発電用タービンのシェアです。

地熱大国として早くから開発が進められていて、その技術が世界各地の地熱発電で活用されているのです。

インドネシアは発電3倍へ

インドネシアの地熱発電所
こうした国のひとつがインドネシアです。

世界2位の地熱資源国で、もともと大型の設備が導入され地熱発電の活用が進んでいました。

ただ、人口の少ない東部の離島を中心とした地域では、比較的簡単に導入ができるディーゼル発電が主流でした。

今、こうした地域にも地熱発電を広げようという機運が高まっています。

離島などでニーズがあるのは小型の地熱発電で、開発する日本メーカーへの問い合わせが増えています。

小型の発電機は、導入費用が比較的安く、稼働までの時間が短縮できる点にメリットがあります。

1台では決して大きなエネルギーは期待できませんが、各地に複数導入することで一定のエネルギー供給につながります。

さらに輸送が簡単であることも離島が多い地域では重要なポイントです。

インドネシアでは新たな建設を増やし、地熱発電を2028年までに現在の3倍に増やすことが計画されています。

需要はアフリカでも

エチオピアの首都 アディスアベバの様子
アフリカでも地熱発電への機運が高まっています。

例えば、エチオピアです。

現在は政府軍と少数民族の戦闘が続き国内情勢が緊迫しているものの、人口は1億人を超えてアフリカで2番目に多く、高い経済成長が期待されています。

しかし、成長を支える電力の供給は必要量の半分以下にとどまっています。

ナイル川を使った水力発電は近隣諸国との摩擦が懸念され、海外からの電力の輸入も簡単ではありません。

こうした事情から、エチオピアは国産で安定的に供給できるエネルギーを求めていて、地下の資源を生かせる地熱発電が有望なのです。

これまで地熱開発の経験はほとんどありません。

このため日本のJICA=国際協力機構などが開発の支援に乗り出しています。

さらに、発電用のタービンを手がける東芝は去年2月、エチオピアでの地熱発電事業を受注しました。

導入を計画しているのは小型の発電設備です。

まずは現地でノウハウを蓄積し、将来的には大型の地熱発電の開発にもつなげたいとしています。
東芝エネルギーシステムズ 海外営業戦略部 川崎博久エキスパート
川崎さん
「脱炭素の流れを受けて、これまで需要がなかった国や地域でも地熱への期待が高まっています。太陽光や風力と違って天候に左右されないことで、多くの国や地域で今後も引き続き注目されるでしょう。地熱資源の量や敷地面積が限られた場所でも、開発を進めていきたい」

“温泉発電”でさらに世界に広がる可能性も

低温の熱資源を活用した滝上バイナリー発電所
世界で地熱発電の需要が高まる中で、“低温”の地熱資源の活用も進んできています。

従来、発電には高温の蒸気や熱水が必要とされていましたが、それより低い温度でも、沸点の低いペンタンやアンモニアなどを熱することができ、その蒸気を使えばタービンを回すことができるようになります。

この方式は温泉程度の温水でも活用できることから、“温泉発電”とも呼ばれています。

2010年ごろからアメリカを中心に広がり、温泉大国の日本でも導入されています。

さらに、地熱資源が必ずしも豊富でないとされてきた地域でも活用が広がっています。

例えばドイツでは電力の固定価格買い取り制度を導入するなどして、低温の地熱発電の拡大を目指しています。

発電用タービンを展開している富士電機は、世界の地熱発電を支えてきた日本企業として、こうした流れに応えることが求められているとしています。
富士電機 発電プラント事業本部 小山弘主査
小山さん
「エネルギーの高い地熱資源があるかどうかは場所によって異なるため、高温と低温のどちらの方法が適しているか、それぞれの場所で検討しなければなりません。どちらが採用される場合でも対応できることが必要です」

日本では広がるか

北海道での調査の様子
世界の地熱発電開発を支えてきた日本。

今、地熱発電の拡大に向けてどの国でも実用化されていない新たな技術の開発が始まっています。

写真は、ことし7月、北海道の地熱発電所でNEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施した調査です。

地震波を送り込んで地底の形状を確認。

マグマに近い超高温の水を探りあて、そこから従来の地熱発電より強いエネルギーを得るねらいです。

従来の方式の深さが平均2キロ程度なのに対し、この超臨界地熱と呼ばれる手法は3キロ以上。

マグマに近い400℃前後の水をエネルギー源とするため、1か所だけで膨大なエネルギーが期待できます。

重要なポイントは開発面積が小さくても多くのエネルギーを効率的に取り出せることです。

資源が豊富ながら、地上の国立公園などへの影響が懸念され、なかなか地熱発電が広がらなかった日本でも、新たな方式によって活用が進むことが期待できるのです。

1か所あたりで得られるエネルギーの少ない“小型”や“低温”とは真逆のコンセプトですが、地熱活用の可能性を広げようとしている点は共通しています。
NEDO 新エネルギー部 加藤久遠主任研究員
加藤さん
「環境の保護を念頭におきながら国立公園内でも地熱開発を進めていくための1つの手段と考えています。経済性の評価などを行った上で、2050年ごろには国内に普及させたい」
脱炭素の流れが強まる中、世界の地熱発電の市場は2027年までに500億ドル(約5兆6500億円)を超えると推計されています。

市場の拡大にあわせて地熱発電は、“小型化”“低温化”そして“超高温”と多岐にわたる方法で、これまでには導入が難しいと考えられてきた地域にも広がろうとしています。

エネルギーの姿を大きく変える可能性があるだけに、地熱がどのような形で世界に浸透し、日本でも広がっていくのか、その行方が一段と重要になっています。
国際部記者
藤井美沙紀
2009年入局
秋田局、金沢局、仙台局を経て、国際部
エネルギー問題などを取材

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