日本大学の田中英壽理事長を逮捕 所得税法違反の疑い 東京地検

日本大学の田中英壽理事長が、大学の付属病院をめぐる背任事件で逮捕・起訴された大阪の医療法人の前理事長らから受け取ったリベートなどを税務申告せず、およそ5300万円を脱税したとして、所得税法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。
関係者によりますと、田中理事長は任意の事情聴取に対し、現金の授受を否定していたということです。

逮捕されたのは、日本大学の理事長、田中英壽容疑者(74)です。

東京地検特捜部によりますと、田中理事長は、背任事件で起訴された大阪市に本部がある医療法人の前理事長、籔本雅巳被告(61)と日本大学の理事だった井ノ口忠男被告(64)から受け取ったリベートの収入などを税務申告せず、平成30年と去年の所得税、合わせておよそ5300万円を脱税したとして、所得税法違反の疑いが持たれています。

関係者によりますと、特捜部は背任事件の関係先として、ことし9月と10月、田中理事長の自宅を捜索し、その際1億円を超える現金が見つかっていたということです。

また、籔本前理事長と井ノ口元理事が、田中理事長に複数回にわたって多額の現金を提供したと供述したことなどから、特捜部は東京国税局と連携し資金の流れを調べていました。

田中理事長は、これまでの特捜部の任意の調べに対して、籔本前理事長らから現金を受け取ったことを否定していたということです。

特捜部は詳しいいきさつの解明を進めるものとみられます。

捜査の経緯

日本大学の付属病院をめぐる背任事件では、田中理事長の側近だった井ノ口忠男元理事と大阪の医療法人の籔本雅巳前理事長が合わせて4億2000万円を籔本前理事長側に流出させ、大学に損害を与えたとして逮捕・起訴され、田中理事長の自宅もことし9月と先月、関係先として特捜部の捜索を受けました。

関係者によりますとこの際、田中理事長の自宅からは1億円を超える現金が見つかりました。

また籔本前理事長は、捜査の過程で「理事長の再任祝いなどとして田中理事長側に複数回にわたって現金合わせて6000万円を渡した」などと供述したということです。

さらに井ノ口元理事も、籔本前理事長とともに田中理事長側に現金を提供していたことを認め、「籔本前理事長が日大の事業を受注した業者からリベートを受け取ったことへのお礼の趣旨もあると思う」などと供述。

これらの資金のうち3000万円は、付属病院の建て替えに関する業務を受注した業者から籔本前理事長の会社に2億2000万円が送金された直後の去年8月に提供された疑いがあることも分かったということです。

このため特捜部は、籔本前理事長らが大学から流出させた資金の一部を田中理事長にリベートとして提供していた疑いがあるとみて、事件との関連を調べていました。

これに対し田中理事長は任意の事情聴取に対し、現金の授受を否定したということです。

さらに井ノ口元理事も「理事長に詳しい資金の流れは説明していない」と供述したことなどから、特捜部は背任事件の共犯として田中理事長の刑事責任を問うのは難しいと判断したとみられます。

一方、特捜部は2人の供述だけでなく、現金の調達に関わった関係者の供述や金融機関の記録などから田中理事長には実際にリベートが提供されたという見方を強め、井ノ口元理事らを起訴したあとも、東京国税局と連携し、捜査を継続していました。

その結果、田中理事長が3年前と去年に所得税合わせて5300万円を脱税したとして29日所得税法違反の疑いで逮捕に踏み切りました。

大学と理事長 これまでの対応

日本大学では、ことし9月以降、付属病院の建て替え工事などをめぐる2件の背任事件で井ノ口忠男元理事が逮捕・起訴されました。

大学が損害を受けた総額は合わせて4億円余りに上るとされていますが、学校法人トップの田中理事長はこれまで記者会見を開かず、大学は被害届の提出を保留しています。

また大学は、外部の弁護士を含めた調査チームが事件の原因究明や再発防止などに努めるとしていますが、調査結果を公表する時期などは明らかにされず、文部科学省は、徹底的な調査と説明責任を果たすよう大学側に求めています。

一方、NHKは、田中理事長に対し、事件への関与や、元理事らからの資金提供の有無などについて文書で質問したところ、今月15日、弁護士を通じて回答がありました。

この中で田中理事長は背任事件については「誠に遺憾であり、理事長として重く受け止めている」としたうえで、検察当局の捜査が続いているとして、事件の内容については「回答を差し控える」とコメントしました。

このほか、自身の進退や再発防止策についての考えを問う質問に対しては「理事長として組織運営については、伝統ある大学の建学理念の下、万全の体制をもって誤りなきを期していきたい」と回答していました。

また、特捜部の捜索で田中理事長の自宅から1億円を超える現金が見つかったことについて、日本大学は今月17日、NHKの取材に対し「見つかった現金は役員報酬や理事長の妻が経営する飲食店の利益などで、税務申告は適切に行っていると聞いています」とコメントしていました。

田中英壽理事長 総長ポスト廃止後は絶大な影響力

逮捕された田中英壽理事長は、スポーツ界に幅広い人脈を持ち、アマチュア相撲を統括する日本相撲連盟の副会長を務めているほか、平成29年までの4年間はJOC=日本オリンピック委員会の副会長も務めました。

日本大学出身で、学生時代には相撲部で活躍し、アマチュア横綱として数々のタイトルを獲得しました。

卒業後は大学の職員となり、各運動部の運営を束ねる保健体育審議会の幹部などを経て、13年前の平成20年に学校法人日本大学の理事長に就任しました。

当時は総長が経営の実質的なトップを務めていましたが、就任から4年後の平成24年、総長のポストが廃止されると理事長の権限が強化され、複数の日大関係者は、大学経営のトップとして絶大な影響力を持つようになったと話しています。

関係者によりますと田中理事長は、ことし9月の特捜部の強制捜査後の理事会で「自分は関係ない」などと話していたということですが、これまで公の場で事件について説明したことはありません。

一方、井ノ口元理事らが起訴された背任事件では元理事らが田中理事長の威光を利用し、大学の資金を流出させていた疑いがあることが分かっています。

関係者によりますと事件の舞台となった大学の子会社「日本大学事業部」では、理事長と関係の深かった井ノ口元理事が実質的に経営の実権を握っていたということです。

2つの背任事件のうち、医療機器の調達をめぐる事件で井ノ口元理事らは「田中理事長の許可を得ている」などとして病院側に特定のメーカーの医療機器の調達を迫っていたということです。

内部事情に詳しい大学関係者「理事長の存在は絶対」

日本大学の内部事情に詳しい大学関係者は「大学内で理事長の存在は絶対だった。ただ本人が直接発言することはなく、取り巻きが伝えてきていた。意見すると左遷やパワハラによる退職を余儀なくされたのを多くの教職員が目の当たりにしていて、理事長の影におびえて従わざるをえない状況だった。13年間も大学のトップにいれば、ガバナンスが効かなくなってしまうと感じる。学内の多くが見ないふりをしてきたことが今回の結果につながったのではないか」と話していました。

松野官房長官「極めて遺憾 厳正な対応していく」

松野官房長官は、午後の記者会見で「公共性が極めて高い学校法人で元理事が2度起訴されたことに加え、今回、法人を代表する理事長個人が逮捕されたことは極めて遺憾だ」と述べました。

そのうえで「日本大学は、法人みずから真相究明の調査を徹底的に行い、改善策の策定や説明責任を果たすことが必要だ。今後、文部科学省で、事実関係を確認し、必要かつ厳正な対応をしていくことになる」と述べました。

日大の学生からは憤りや大学側に説明を求める声

大学トップの田中理事長が逮捕されたことについて、日本大学の学生からは憤りや大学側に説明を求める声が多く聞かれました。

3年生の男子学生は「理事長が逮捕され、やるせない気持ちで怒りを感じます。事実関係をしっかりと確認して説明や謝罪の機会を作ってほしいです」と話していました。

また、1年生の男子学生は「大学幹部が相次いで逮捕され、大学のイメージが低下しています。なぜこういうことになったのか学生が納得できるように一から説明してほしいと思います」と話していました。

日本大学「深くおわび 捜査に全面的に協力」

日本大学はトップの田中理事長が逮捕されたことを受け「学生、生徒等、保護者、卒業生、教職員の皆様には大変ご心配、ご迷惑をおかけしていることを深くおわびいたします。理事長の逮捕は誠に遺憾で、東京地方検察庁の捜査に引き続き全面的に協力して参ります。今後、本件にかかる必要な検討、決定を行い、内容を早急に広報いたします」とするコメントを出しました。