季節の風物詩に異変!?おでん最新事情

季節の風物詩に異変!?おでん最新事情
大根、はんぺん、卵に牛すじ。

寒くなってきたからアツアツのおでんを食べて温まりたい。

そう思っていたら、今シーズンはいつもと少し様子が違うようです。

「おでん最新事情」、取材しました。

(ネットワーク報道部 松本裕樹 廣岡千宇 金澤志江)

おでんがない!?

冷え込みがぐっと厳しくなった今月下旬、コンビニでおでんを買って温まろうとお店に入ったものの…

「あれ?おでんがない!」

レジ付近に置かれていたおでんの鍋がない。

聞くとおでんの販売は、去年からやっていないとのことでした。

「え、ここのお店だけなのかな?」

次の店に入っても、やはりなし。

パック入りのおでんや電子レンジ対応のカップ入りのおでんは販売されていましたが、鍋に入っている具を1つずつ選べる、あのおでんはありませんでした。
3店目にはようやくありましたが、気になってその後も渋谷界わいでコンビニをまわってみると、取り扱っていたのは10店舗中、3店舗だけでした。

大手コンビニ各社は

おでんの店頭販売はどうなっているのか。

大手コンビニエンスストア3社に聞いてみました。

おでんを店で取り扱うかどうかについて何かチェーンごとに方針があるのかと思いましたが、その点は3社とも「店舗ごとの判断に任せている」ということでした。
「ファミリーマート」はおととしまでほぼ全店舗で取り扱っていましたが、ことし9月時点では全店舗の約2割にとどまり、「ローソン」もことし9月時点で全店舗の約4割に減少したということです。

一方「セブン-イレブン」はこの冬も大半の店舗でおでんを販売する見込みだとしています。

おでんの店頭販売が減少傾向にある要因として、「ローソン」の担当者は新型コロナウイルスの影響を挙げていました。

飛まつなどによる感染防止対策として店頭販売をとりやめる店舗が多かったということです。
一方、販売している店ではおでん鍋の前に透明のアクリル板を設置するといった対策や、ふた付きの容器を持参すると値引きするサービスを行うなど工夫しながらおでんの販売を今後も続けていく考えだと話していました。

おでんが姿を消すワケ

さらに、コンビニ事情に詳しい人が裏側を解説してくれました。

この時期やっぱりコンビニのおでんが恋しくなるという、流通アナリストの渡辺広明さんです。
実は渡辺さん、大手コンビニチェーンで20年以上勤務した経験があり「コンビニ評論家」とも言われています。

そんな渡辺さんが謎を解くカギとしてまずあげたのは、おでんの「香り」が持つ威力です。
流通アナリスト 渡辺広明さん
「従来、コンビニのおでんは多くの店でふたをしていない鍋がそのまま置いてあり、客が自由に具材やつゆをよそう方法で販売していました。それが新型コロナウイルスの感染防止のため鍋にふたをしたり間仕切りをしたうえで、注文を受けて店員がよそうスタイルへと変わったんです」
コロナ感染拡大の中でスタイルが変わったのはなんとなく気付いていました。

しかし、そこでふたをすることで実は大きな変化があったと渡辺さんは指摘します。
「おでんのあの香りに、客はまるで吸い込まれるように店を訪れたり買い求めたりしていたのです。たかが”ふた”と言えど、おでんの展開が縮小した大きな理由と考えられます」
おでんのように客を引き寄せる商品は「マグネット商材」と呼ばれて現場では重宝されるそうです。

しかし、ふたをすることで「香り」という武器がなくなり役目を失ったおでんをやめる店舗が増えている可能性がある、と渡辺さんは言うのです。

もうひとつの背景

渡辺さんはもう1つ、興味深いことを語ってくれました。

実は「コロナの感染拡大前からコンビニおでんの販売縮小が始まっていた」というのです。
背景にあるのは、おでんにかかる「手間」「人手」です。
「おでんというのは非常に手がかかる商品です。私も実際に経験したことがありますが深夜の時間帯に鍋を洗ったり、新たに仕込み直すのには多くの時間がかかります。つゆの状態に気を配ったりこまめに具材を足したり、本当にたくさんの労力がかかるんです。昨今、コンビニ業界は慢性的な人手不足が叫ばれていて、ことさら若者の確保が難しくなっています。そういった意味では少子高齢化に伴う人手不足がおでんにつながっていると言えるのかもしれません」

専門店では別の異変が

コンビニでは減少傾向にあったアツアツのおでん。

ならばおでん専門店なら今まで通りに食べられるはず、と東京・荒川区にあるお店を訪れてみました。

創業85年、夫婦で切り盛りするこのお店ではおでんの具を作る作業から店で行っています。

魚の「イトヨリ」のすり身や「クロカジキ」の切り身などを仕入れ、混ぜ合わせて練り物を作っていきます。
しかし、ことしはここに異変が起きていました。

特にすり身の価格が例年より5%ほど上がっているのです。

さらに具を揚げる際に使う食用油の価格も上昇。

店主の木下宏一さんは、この先も食材の価格が上がり続けた場合には、商品の値上げも考えざるをえないのではないかと心配していました。
おでん専門店 店主 木下宏一さん
「この先本当にどうしようもなければ、値上げする時が来るかもしれないですが、今シーズンはお客さまに迷惑をかけるので据え置きます。味に影響がでないよう、水道や電気をこまめに節約してむだな経費を削減するなど工夫をしています。いろんな要因があるので、一概に原油の価格が下げれば油も下がるとも思えないし、不安な状況が続きます。その時々で対応していくしかないです」
葛藤を抱えながらも工夫をしてなんとか乗り切ろうとするおでん専門店。

おでんを愛する常連客からは複雑な思いが聞かれました。
「原材料の値上がりは店にとって大変だと思いますが、週に1度おでんを買うので身近なところで値上がりすると困ります。このまま落ち着いてほしいです」

「値上がりはないほうが当然うれしいですが、しかたない状況があると思うので、仮に値上がりしたら受け入れるしかないかなと思っています」

“冬の風物詩”守るには

コンビニでは居場所が減り、専門店では値上げの危機にもさらされている今シーズンのおでん。

流通アナリストの渡辺さんは、それでも前向きにとらえられる要素もあるといいます。
流通アナリスト 渡辺広明さん
「コロナをきっかけにしてコンビニはすべての店で同じ品ぞろえをするのではなくその地域にあった商品を取り扱うようになり、大きく転換しています。アツアツのおでんをコンビニの店頭で見る機会は減っているかもしれませんが、それでも伝統を守ろうと販売を続ける店舗はそれだけこだわりが強く、今こそおいしいおでんにありつけるチャンスととらえることもできます。おでん好きの皆さんは運よくおでんを販売する店舗に出会えた時に買い支えてあげることも“冬の風物詩”を守ることにつながるのかもしれません」