「会いたくないのかな…」年末年始の帰省、どうする?

「会いたくないのかな…」年末年始の帰省、どうする?
「やっぱり今回はやめておこうと思います。ごめんね」

私(記者)がコロナ禍で長く会えていなかった故郷の母に送ったメッセージです。

感染が落ち着きを見せている今、帰省して会いに行きたい。
でも、親の側はどう思っているのかな。
長い間会っていないから、気持ちの違いもあるだろうし…。

年末年始も近づいていますが、どうすればいいのでしょうか。
(ネットワーク報道部 村堀等 斉藤直哉 野田麻里子)

そろそろ、いいかな

私、記者の村堀は37歳。

60代後半になる両親は、私の住む都内から電車で2時間弱の北関東のベッドタウンで暮らしています。

都心まで通勤する人も多い地域ですが、コロナの感染拡大後は一度も行き来していませんでした。

以前から気管支が弱く、人並み以上に感染防止に気を配っている母。

「ご近所の目も気になる」とも話していたので、感染状況が落ち着いてきた時にも、私から「帰省したい」とは言わないようにしてきました。
最後に会ったのはコロナ前のおととしで、私の息子はまだ2歳。

「おばあちゃん」の顔になった母が孫をかわいがってくれる様子を見て、無性にうれしくなりました。

でも、その後はそう遠くない場所に住んでいるのに、かわいい盛りの孫の成長を直接見せることができない日々。

せめてもと、スマホで撮った動画をまめに送りながら過ごしてきました。
ことしの春ごろ、母から連絡がありました。
「もう少し暖かくなってきたら登山にでも一緒に行けたらいいね」
コロナ前にも息子と一緒に行った登山への誘いでした。

ちょうど「第3波」が去って少し落ち着いていた時期。

その後の感染再拡大で実現しませんでしたが、夏の「第5波」がようやく落ち着き、東京の緊急事態宣言の解除も決まった9月末、私は満を持して母に電話しました。
「宣言解除されたら、久しぶりに息子を連れて泊まりに行ってもいい?」
春ごろのやり取りが頭にあった私は、前向きな答えが返ってくると思っていました。

会いたくないのかな…

「うーん。そうねぇ」
ところが、母は浮かない声です。

ワクチンは両親も私も2回接種済み。

一方で、ことし4歳になった息子が打っていないことなど、気になることがあるようでした。
私「やめておく?」
母「いや、大丈夫だよ」
ことばとは裏腹に、元気のない返事です。
「もしかして本当は会いたくないのかな…。これだけ長く会っていないのに?」
母が不安から言っていることを頭では理解しながらも、親も同じ気持ちでいてほしいという身勝手な感情があったのだと思います。

期待とは違う反応に、だんだん暗い気持ちになってしまいました。

翌日、母からLINEが来ました。
「昨日はお泊まりOKといいましたが、まだ心配もあるので日帰りでお願いしたいです」
私は無理には帰省しないことにしました。
「やっぱり今回はやめておこうと思います。急にごめんね」
いい年をして情けないのですが、私はこの出来事がどこかショックで、しばらくの間、実家に連絡するのがおっくうになってしまいました。

「久しぶりに帰省した」の一方で

ほかの人たちはどうしているのか気になって、調べてみました。

宣言解除後の10月以降、インターネット上では「久しぶりに帰省した」という報告があった一方、「まだ帰れていない」という声も。
(SNSの声)
「『コロナが落ち着いたらきてね』っていまだに言われる。それ、いつですか。。帰ってくるなと言われているようにしか思えなくて悲しい」
「年末実家に帰りたいな~と、ひそかに思っていたけれど、『まだ帰ってくるな』と母。田舎は慎重」
このところ感染が落ち着いているとは言え、依然として帰省できていない人はまだまだ多そうです。

「帰省する予定」は4割近くに

こんな調査結果もありました。
ウェブメディア「日本トレンドリサーチ」がことし10月3日から8日にかけて700人を対象にインターネット上で行ったアンケートでは、年末年始の帰省について「予定はない」と回答した人は全体の62.1%で、「帰省する予定」と答えた人は37.9%となりました。

「帰省の予定はない」の理由としては「コロナがまだ完全に落ち着いていないから」が多かったほか、「コロナで帰ってくるなと言われている」という回答も複数寄せられていたということです。

一方で、このアンケートでは去年の年末年始の帰省についても聞いていて、「帰省した」と回答した人は全体の22.1%でした。

これと比べると、ことし「帰省する予定」と答えた割合の37.9%は多いということになります。

「帰省する予定」と回答した理由では「コロナがある程度、落ち着いてきたから」や「自分や親がワクチンを接種し終わったから」などの回答が多かったということです。

それぞれの理由に「まだ完全に落ち着いていない」「ある程度、落ち着いてきている」の両方のことばが出てきていることを見ると、感染状況の見方は人によって大きな幅がある状況だということが伺えます。

家族だからこそ難しい

さて今回私が経験した、帰省をめぐる家族の思いの「すれ違い」。

リスク管理とコミュニケーションの専門家、西澤真理子さんに話を聞くと、そもそも人のリスクの受け止め方は「主観的」なところが大きく、人によってそれぞれ違うというのです。
(西澤真理子さん)
「人間は本能として、目に見えないものや死に至るものに対してリスクを高く見積もるのですが、その捉え方が人によって違うんです。感染が東京から広がっていったという映像を何度も見ると『東京や都市部が危ない』となる。一方、そこに住んでいる人は、その場所を知っていて慣れているし、親しみやすさという要素もあってリスクを低く見ますが、そうではない人から見ると主観的に怖いと思う。そこの差もあると思います」
西澤さんはさらに、家族とのやり取りだからこそ難しい部分もあると言います。
(西澤真理子さん)
「あなたと私が見ているものは違う、というところをスタートにするのがリスクコミュニケーションの基本なのですが、そこを意外と忘れてしまって自分の思いを押しつけてしまいがちなのが家族だと思うんです。相手に対する思い、『孫の顔を見せてあげたい』とか『親の顔を見たい』っていう思いもある。『なのに何なの?』って。家族だからよけいに気をつかう部分と『分かっているだろう』という部分との両方があると思います」
これは私には思い当たるところがあります…。

そのうえで西澤さんは、コロナ禍がいつまで続くか先を見通せない中では離れた家族どうしで帰省するしないを含めた感染のリスクについて丁寧に話し合うことはもちろんですが、今後家族にとって何がいちばん大切なのかをお互いに考えておくことも大切だと話していました。
(西澤真理子さん)
「帰省を考えていて、相手に不安な様子があれば自分たちとしては感染対策はここまで考えていると説明する。『それでもやっぱり怖い』となれば何を不安だと思っているのか聞くことが大切です。一方で感染のリスクをゼロにしたいと思っても、高齢になった両親がいつまでお元気かわからないという状況だと肉親どうしの交流が減ることは今度は別のリスクになるかもしれません。お互いのギャップをできるだけ埋めて、後悔しないように最善の判断をするためにどうすればいいか考えることが大切だと思います」

「画面越し」ではできなかったこと

いったんは取りやめになった私の帰省。

実はその後、改めて母から連絡があり、今月、息子を連れて地元に会いに行きました。
もちろん、マスクや手の消毒などの基本的な感染対策をとったうえでの帰省です。

両親と直接会うのは2年ぶり。

半日ほどの滞在で、初めは祖父母に対して人見知りをしていた息子も、昼食をとって博物館をまわるうちに、いつもの元気な姿を見せていました。

帰り際、4歳の息子が自分から母に声をかけたようです。
「ばあば、次は泊まりに来てもいい?」
「もちろん、待ってるよ」
この時のことを、母は「涙が出るほどうれしかった」と話していました。

それを聞いた私も、母との間で気持ちに少し距離を感じていたことなど、どこかに消えているのに気付きました。

帰るも帰らないも親子の対話から

この記事を書くにあたって、母に直接は聞けずにいた「あのとき」のことを少し聞いてみました。
「孫にはもちろん会いたかったけど、東京はまだ感染者が多いことが気になっていたのよ。でも子どもが実家に帰るのに『許可しない』とは言えなかったし…」
9月末のあの頃、東京の感染者はピーク時の5908人から200人前後にまで減り、緊急事態宣言の解除も決まっていました。

東京で暮らす私から見れば間違いなく「減っている」状況でしたが、地方に住む母から見れば「まだ多い」という状況だったのです。

まさに人によって異なる「リスクの受け止め方」の違いそのもので、当時、私が母の不安を冷静に受け止めるべきだったなと思います。
もうすぐコロナ禍で2度目の年末年始を迎えます。

帰省先となる地方の自治体でも、時期をずらすことで混雑を避ける「分散帰省」や無料でPCR検査を受けられる制度など、さまざまな呼びかけや対策をとって感染の再拡大を防ぐ体制をとろうとしています。

帰省するしないにかかわらず、まずは離れて暮らす親と丁寧にコミュニケーションをとること。

私自身の体験からそのことの大切さを、せつにお伝えさせていただきたい、そう思っています。