飢えるアフガニスタン~10年で最悪の人道危機~

飢えるアフガニスタン~10年で最悪の人道危機~
紛争、干ばつ、新型コロナの「3重苦」に見舞われているアフガニスタン。イスラム主義勢力タリバンの復権後、アメリカ軍が撤退してから、11月30日で3か月がたちますが、経済の混乱が収まる兆しは見えません。厳しい冬を前に、いま問題となっているのが、深刻な食料不足です。
「テロとの戦い」に翻弄され、いまは「飢餓との戦い」を強いられるアフガニスタンの人々を取材しました。
(イスラマバード支局 高橋潤)

食料が足りない!

“国民の2人に1人が深刻な食料不足に”

10月25日、WFP=世界食糧計画などの国際機関は、アフガニスタンの食料事情に関する報告書を発表。
ことし11月から来年3月までの間に2280万人がかろうじて必要最低限の食事がとれるか、または栄養失調に陥ると分析しました。
アフガニスタンの人口は3890万人。
報告書では「アフガニスタンはこの10年で最悪の人道危機を迎えている」と強い危機感が示されました。

1日1食のごちそう

カブール市民のアリシュさん(13)は、路上でプラスチック製の買い物袋を売り歩き、母と2人の弟を養っています。

政府軍の兵士だった父親は、5年前タリバンとの戦闘で死亡しました。
“僕以外に働く人はいません。
もし僕が働かなかったら、誰も家族を養えない”

1日の売り上げは、よい時でも日本円で400円程度。
小麦粉から作る主食のパンを買うのが精いっぱいで、肉や野菜を買うお金は残りません。

このためアリシュさんは食材を買って帰宅しても、母が作る食事は2人の弟に譲り、自分は手をつけないと言います。

育ち盛りのアリシュさんは、どこで空腹を満たすのでしょうか。
それがアフガニスタン版「子ども食堂」です。

海外のNGOの資金援助で25年ほど前から運営されている児童支援施設で、読み書きのクラスに出ると、温かい食事が提供されます。

アリシュさんのように厳しい生活を強いられている子どもたち2000人が通っています。
この日のメニューは、豆の煮込みを米に載せたひと皿。
肉も魚も入っていませんが、アリシュさんにとっては1日1食だけの温かいごちそうです。
アリシュさん
「本当においしいです。ここは僕にとって家のようなもの。ここがなければ、何も食べることができません」

存続の危機

しかし、子どもたちの命をつなぐこの食事がいま、存続の危機に立たされています。

再び権力を握ったタリバンがどのような統治をするのか見極めようと、各国がアフガニスタンへの支援を停止。
これに合わせて、海外のNGOも支援を控え、送金が途絶えてしまったのです。
施設の担当者
「支援金が届かず困難に直面しています。資金が調達できるか、支援が続くかは分かりませんが、最後まで最善を尽くしたい」

現金が足りない!

各国の支援停止は、市民生活を直撃しています。

これまでアフガニスタンの国家財政の半分以上は各国の支援でまかなわれていました。その支援が受けられないうえ、保有していた海外資産が各国政府に凍結されたため、引き出せず、慢性的な現金不足に直面しているのです。
政府職員や学校の先生の給料は、この3か月支払われていません。
また銀行では口座からの引き出し額が制限され、現金を手に入れることが困難になりました。

さらに現地通貨アフガニの下落にともなって食料品は軒並み高騰。
なかでも輸入に頼る主食の小麦の価格は1.3倍に跳ね上がり、市民の食卓を直撃しました。

もともと苦しい人がさらに苦しくなるだけでなく、これまでは飢えを免れていた中間層の世帯にも、危機が迫っているのです。
市民は生活に必要な現金を手に入れる必要に迫られ、カブールでは家財道具を路上で売る光景もしばしば目にするようになりました。

洗濯機などを並べて売っていた男性は「仕事もなく、朝から何も食べていない」と窮状を訴えていました。

大惨事への警鐘

タリバンも、悪化する食料事情に焦りを隠せません。

ことし10月カブールでは4万人の失業者に対して、公共工事への参加を呼びかけました。雨水をためる貯水池の建設工事で、参加すれば主食の小麦などが現物で支給されます。

タリバンは、備蓄している6万6000トンの小麦を提供するとしていますが、すべての国民の空腹を満たすにはほど遠いのが実情です。
WFP(=世界食糧計画)のビーズリー事務局長は「いま行動を起こさなければ、われわれは大惨事を目の当たりにすることなる」と国際社会に警鐘を鳴らしています。
WFPは「アフガニスタンでの支援活動を拡大するために、毎月2億2000万ドル、日本円で230億円あまりが必要だ」として国際社会に緊急支援を呼びかけています。

アフガニスタンでは冬の平均気温が0度を下回り、降雪によって地方への食料輸送が困難になることから、支援が遅れれば多くの命が失われかねません。

「テロとの戦い」に翻弄され続けたアフガニスタンの人々は、いま、出口の見えない「飢餓との戦い」を強いられています。
イスラマバード支局長
高橋潤
2000年入局 函館局、サハリン事務所、沖縄局、ウィーン支局などを経て現所属