阪神・淡路大震災 “祈りの場”にフェンスが…

阪神・淡路大震災 “祈りの場”にフェンスが…
高さ2メートルほどのフェンス。設置されているのは公園です。
この場所で毎年、神戸市民にとって大切な行事が開かれてきました。

しかし11月から再開発の工事がスタート。
市民が守り続けてきた“祈りの場”はどうなるのでしょうか?

(神戸放送局 井出瑞葉)

コロナ禍でも続いた“祈りの場”

1月17日午前5時46分。夜明け前の神戸の街は、毎年この時間、静かな祈りとろうそくのほのかな明かりに包まれます。

6434人が亡くなった1995年の阪神・淡路大震災。

毎年『1.17』の形に灯ろうが並べられ、集まった多くの人たちが震災の発生時刻に合わせて犠牲者を悼み、震災を語り継ぐ場となってきました。
その会場が神戸の中心部にある公園「東遊園地」です。

市民などで作る実行委員会が主催してきた「阪神淡路大震災1.17のつどい」。

新型コロナの感染が急拡大し、緊急事態宣言が出されていたことし1月も、分散しての来場を呼びかけるなど感染対策を徹底して、何とか実施にこぎ着けました。

訪れた人は例年よりも大きく減りましたが、震災を語り継ぐ場を途絶えさせてはならないという関係者の思いが実を結んだ形でした。

灯ろうが並べられない

しかし、11月16日。「つどい」の実行委員長を務める藤本真一さんが、来年1月の行事について伝えたいことがあると、各社の記者を集めました。
藤本さん
「現時点で私たちは通常開催どころか、計画を描くことすらできていない」
「まずは現場を見てほしい」

藤本さんに案内された東遊園地はフェンスで囲まれていました。

神戸市は中心部の三宮周辺の再開発を進めていて、東遊園地の再整備の基本計画を3年前にまとめ、今月から工事が始まりました。
東遊園地がなくなるわけではありませんが、工事の期間中は人の出入りを制限する必要があります。

例年は東遊園地を目いっぱい使って灯ろうを並べて「つどい」を行っています。

しかし、ことしは例年通りの規模で「つどい」を開くことが難しくなっているのです。
藤本さん
「一度、途切れてしまったことを復活させることは難しい。規模が小さくなっても、この場所に灯ろうをともし、遺族もそうでない人も、それぞれが亡くなった人を悼んで震災について考える場をつくることが大切だと考えています。現時点では灯ろうの本数などは昨年度の3分の1に縮小することも検討しています」
実行委員会は、東遊園地での開催にこだわりました。

震災で犠牲になった人たちの名前が掲げられた「慰霊と復興のモニュメント」。

街の復興を願ってともされ続けいているガス灯「希望の灯り」。

これらがある東遊園地は、神戸市民にとって特別な場所です。

この場所で続けること自体に意味があるのだと、来年は炊き出しや震災を語り継ぐための展示などの行事はやめ、例年より小さな規模で行うことを決めました。

毎年、多くの人が集まる場であり続けてきただけに、規模縮小は苦渋の選択でした。

神戸市役所「大変申し訳ない できる限り協力」

再開発を行う神戸市はどう考えているのでしょうか。

担当部署に話を聞くと、工事と重なったのは申し訳ないが、できる限り協力したいと答えています。
神戸市担当者
「今回は三宮再開発に伴う東遊園地の工事と重なってしまったため、大変申し訳なく思っています。多くのご遺族や被害者の方の思いが集まる場所で、できる限り協力したいし、市としても重要な行事だと思っています。出入り口を開放すると工期の調整が必要で回答が遅くなっています。しかし、『つどい』を安全に開催させるためにも必要だということは理解できるので前向きに考えているところです」
市の説明によると、フェンスは安全面から取り外せないものの、「つどい」の当日は2、3メートル後退させて、できるだけスペースを広げるということです。

また囲われたフェンスの3か所に出入り口を設けることで、来場者が過密にならないよう、安全対策を徹底することも考えているとのことでした。

騒音が出ることを考慮して、前日と当日は工事を行わない方向で調整しているそうです。

毎年つどいに参加している人は…

例年と違った形で開催されることになる来年の「つどい」。
毎年欠かさず参加してきた人たちはどう考えているのでしょうか。
神戸市80代女性
「大切なのは『気持ち』なので、狭くなってもやっていただきたい。毎年続けていくことに意味があるのかなと思います。毎年大勢の人が来ますので、事故の起きない程度に開催して頂ければ幸いです」
また、震災で2歳の息子を亡くし、毎年「つどい」に参加している女性は、次のように話していました。
神戸市50代女性
「場所も人もさまざまな歴史を積み重ねてきた中で、その時代、時代で変わっても良いと思う。私にとって『つどい』は、思いをつなぐ場所に変わりは無い。つどいが全くなくなったらさみしいけれど、小さくても実施されるのであればうれしい」
規模は小さくなろうとも、会場がフェンスで囲われていようとも、毎年、同じ場所で灯ろうのあかりを囲み、亡き人を偲び、あの日あの時のことを、たとえ直接経験していなくてもほかに誰かに伝え続ける、そのこと自体が大切なのだと教えられた気がしました。

まもなく27年

阪神・淡路大震災から27年となる来年1月17日の「つどい」

現時点で確実にいえることは、例年より大幅に規模が縮小されたものになること。そして地震が発生した5時46分に、例年のように大勢の人が集まることはできないということです。

神戸市は、工事の影響を受けるのは来年だけだとしています。

しかし、「つどい」には工事以外の影響も出ています。
例えば、灯ろう。
毎年、竹の灯ろうが並べられてきましたが、ことしの1月は紙で作った灯ろうも加えられました。

コロナ禍で集まって作業をすることが難しくなったうえ、竹を切り出すボランティアの人たちも高齢化が進み、必要な数が集まらない状況に陥ったからです。
「つどい」は毎年守り続けられてきたものの、その形は少しずつ変化しています。

市民が創意工夫を重ねて守り続けてきた祈りの場。
市民がつないできた「震災を忘れない」「風化させない」という思い。
今後、どうやって伝えていくか。
震災の年に生まれた私も考え続けていきたいと思います。
神戸放送局
記者 井出瑞葉
2017年入局 今年7月から神戸局に 初めての震災取材で多くの人の思いを聞いて届けたいと思います