WEB特集

大谷翔平の衝撃 現地アメリカの記者が語る

文字どおり、今シーズンの大リーグを席けんした大谷翔平選手(27)。ピッチャーとして9勝、156奪三振、バッターとしてホームラン46本、26盗塁と現代野球では考えられなかった記録を残し、今月、アメリカンリーグのMVP=最優秀選手を満票で受賞した。投票したのは、全米野球記者協会の記者たち。長年「ベースボール」を取材してきた彼らの目に、大谷選手の衝撃の1年はどのように映ったのか。
(アメリカ総局 記者 山本脩太)

証言1:ボブ・ナイチンゲール(USAトゥデー)

「アメリカの子どもたちも、二刀流をやりたいと言い始めるだろう」
大リーグ好きの方なら、この記者の名前を1度は聞いた事があるかもしれない。ボブ・ナイチンゲール氏。ツイッターのフォロワー30万人、アメリカでも著名な記者の1人だ。

現在は特定の球団を担当せずコラムニストとして球界全体を見渡しているナイチンゲール氏。球界に幅広い人脈を持ち選手の移籍情報や契約交渉といった「特ダネ」を発信し続けている名物記者に、まず話を聞いた。
ボブ・ナイチンゲール氏
「今シーズンの大谷はまさに“魔法”だ。見ていて本当にクールだった。私はこれまで、野球界の扉を開いた何人かを取材してきた。その1人が野茂英雄で、彼は多くの日本選手に対して大リーグへの扉を開いた。かつてNFL(アメリカ プロフットボールリーグ)と大リーグの両方でオールスターゲームに出場したボー・ジャクソンも、競技の枠を超えた二刀流という扉を開いた。そして、大谷翔平だ。彼の登場によって、これからアメリカの子どもたちが『ピッチャーも外野も両方やりたいんだ』と言い始めるだろう」
ただ、これほど大谷選手をたたえるナイチンゲール氏も予想できなかったことがあった。
インタビューしたのはMVP受賞の発表前。見通しを聞いてみた。
ボブ・ナイチンゲール氏
「MVP受賞そのものは間違いないが、満票ではないと思う。ブルージェイズ担当の記者2人を含めた2、3人は、大谷に1位票を入れるかわからない。私はことしナショナルリーグのMVPの投票権は持っているけどアメリカンリーグはないから、大谷には投票できないしね。残念だけど」
しかし、結果はそうならなかった。

ブルージェイズの担当記者を含め投票した記者30人は全員、大谷選手に1位票を投じた。

ナイチンゲール氏も予想できなかった満票での選出。大谷選手がやってのけたことが、いかに歴史的だったのかがよく理解できた。

証言2:ゴードン・イーズ 元レッドソックス公式歴史家

「野球界のマイケル・ジョーダン」
大リーグを40年以上にわたって取材し、レッドソックスでは球団のヒストリアン=公式歴史家を5年間務めたゴードン・イーズ氏。

取材を申し込むと、ボストン郊外の自宅に招いてくれ、100年前のルースの記事を私に見せながら野球少年のような笑顔で話をしてくれた。
ゴードン・イーズ氏
「大谷はすでにアスリートとしてはルースを超えていると私は思っている。ルースが100マイルのボールを投げ、大谷以上の打球速度を記録しているとは思えないからね。しかも大谷は、スポーツ界全体が専門性を重視する時代に二刀流に挑戦している。これは本当に驚くべきことだ。パンデミックで不安が広がる世界に大谷翔平は“希望の光”として登場し、多くの人に笑顔と喜びをもたらした。彼は、私がこれまで40年間に見たどの選手よりもすぐれている」
そして、野球界の歴史を踏まえたうえでこう切り出した。
ゴードン・イーズ氏
「大リーグはここ30年で他のスポーツに大きく水をあけられた。人気度でNFLに抜かれたことは間違いない。野球界にはマイケル・ジョーダンのようなスーパースターがいなかったし、新たなスター選手の登場を必要としていた。その中で大谷はうってつけの存在と言えるし、漫画のスーパーヒーローのようだ。ルースは24歳の時に『二刀流をずっと続けることは無理だ』と言い、翌年からほぼバッターに専念した。大谷がどこまで二刀流を続けることができるのか、来年以降の彼を見るのが本当に楽しみだ」

証言3:ポール・サリバン(シカゴ・トリビューン紙)

「『大谷翔平賞』を作ったらいい」
ポール・サリバン氏は去年まで全米野球記者協会の会長を務めた。
大リーグ担当歴32年、物腰柔らかな人物だが、4年前、大谷選手が渡米した際に「ベーブ・ルースの再来だ」と聞いた時は「冗談はよしてくれ」と思っていたらしい。

もちろん今は、その意見は180度変わったようだ。
ポール・サリバン氏
「MVPは圧倒的に大谷だ。同じ年に投打でここまでの活躍を見せたのはベーブ・ルース以来だからね。彼を目の当たりにして『ワオ!こりゃすごい』と感動した。カブスには2000年代、ザンブラーノという非常にバッティングのいいピッチャーがいて、シルバースラッガー賞を3回受賞した。そのザンブラーノでも、ホームランは12年で通算24本なのに、大谷は1年で46本打った。本当になんて言ったらいいのか。ありえないよ」
そして、元会長として、これから先のMVPの行方まで“憂慮”していた。
ポール・サリバン氏
「最近よく考えるのは来年以降のことなんだ。今シーズンの大谷の活躍は確かに歴史的だったが、来年も再来年も同じような活躍をしたら、ずっと彼がMVPをとり続けるのか。いっそのこと、サイ・ヤング賞、MVPと並んで『大谷翔平賞』を作ったらいいんじゃないかと思っているんだ。そうすれば、すべての問題が解決するような気がする」

大谷翔平 「衝撃」はまだまだ続く

今回の取材では、大谷選手のMVP受賞の可能性を探るためもあって10人以上の記者に話を聞いたが、大谷選手以外を推す人は1人もいなかった。

満場一致でのMVP受賞は、目の肥えた「ベースボール」の記者たちが二刀流での活躍を称賛しその歴史的な価値を認めた証しだった。

ある記者の話で印象的だったのは「ベーブ・ルースという伝説の人物を、われわれは自分の目で見たことがなかった。だが今、大谷翔平というアスリートを目の当たりにしている。これは本当にラッキーだ」と話していたこと。私も全く同じ気持ちだった。
思えば、MVPが大リーグ機構の公式記録として認定されたのは1931年から。この90年間、大リーグに大谷選手のような二刀流の選手はいなかった。

つまり、MVPという賞そのものが二刀流を想定していなかったと言える。大谷選手は「ことしの数字が最低ライン」と言っていたが、そのことばどおりの成績を残すと今後、大リーグのMVPは毎年大谷選手になってしまうのではないか…。

それはそれで見てみたいが、サリバン記者が提唱したように二刀流の選手に贈る賞を新たに設ける日が本当に来るかもしれない。

計り知れない可能性を秘めたアスリート、大谷翔平の「衝撃」はまだまだ続く。
アメリカ総局 スポーツ担当記者
山本脩太
2010年入局 スポーツニュース部でスキー、ラグビー、陸上などを担当 去年8月から現所属

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